化学熱力学(英語: Chemical thermodynamics)は熱力学と仕事の関係を、化学反応もしくは状態の物理的変化と関連させて、熱力学の法則の範囲内で研究する学問である[1]。化学熱力学には、様々な熱力学的性質の室内実験だけでなく、数学的手法を用いた化学的な疑問や自発的過程(英語版)の研究も含まれる。
1865年、ドイツの物理学者ルドルフ・クラウジウスは、彼の著書『Mechanical Theory of Heat(力学的な熱理論)』の中で、熱化学の原理、例えば燃焼反応で発生する熱は、熱力学の原理にも適用できることを示唆した[2]。クラウジウスの研究に基づき、1873年から1876年の間にアメリカの数学物理学者ウィラード・ギブズは3つの論文を発表し、中でも最も有名なのは『不均一な物質系の平衡に就いて』である。これらの論文の中で、ギブズは熱力学の第一法則と第二法則を図式的に、そして数学的にどのように測定すれば、化学反応の熱力学的平衡とそれらが発生または進行する傾向の両方を決定できるかを示した。ギブズの論文集は、クラウジウスやニコラ・レオナール・サディ・カルノーなど、他の研究者によって発展させられた原理から、最初の統一された熱力学の定理体系を提供した。
20世紀初頭には、2つの主要な出版物がギブズによって発展させられた原理を化学プロセスに適用することに成功し、化学熱力学の科学的基礎を確立した。1つ目は、1923年にギルバート・ルイスとマール・ランドールによって出版された教科書『Thermodynamics and the Free Energy of Chemical Substances(熱力学と化学物質の自由エネルギー)』である。この本は、英語圏において化学親和力を自由エネルギーという用語で置き換える役割を果たした。2つ目は、1933年にE・A・グッゲンハイムによって書かれた著書『Modern Thermodynamics by the methods of Willard Gibbs(ウィラード・ギブズの方法による現代熱力学)』である。このように、ルイス、ランドール、そしてグッゲンハイムは、熱力学を化学に統一的に適用することに大きく貢献した2冊の著書によって、現代化学熱力学の創始者とみなされている[1]。
溶液化学および生化学において、ギブズ自由エネルギーの減少(∂G/∂ξ、モル単位、ΔGと表記される)は、仕事が行われていない状況、あるいは少なくとも「有用な」仕事、すなわち± P dV以外の仕事が行われていない状況において、自発的な化学反応によって生成される全体的なエントロピー(の−T倍)の代替として一般的に使用される。すべての自発的反応は負のΔGを持つという主張は、熱力学第二法則を単に言い換えたものであり、エネルギーの次元解析を与え、エントロピーに関するその意味をいくらか曖昧にしている。有用な仕事が行われていない場合、一定のT、または一定のTとPに対して適切なエントロピーのルジャンドル変換、それぞれマシュー関数−F/Tと−G/Tを使用する方が誤解が少ない。
^ abcOtt, Bevan J.; Boerio-Goates, Juliana (2000). Chemical Thermodynamics – Principles and Applications. Academic Press. ISBN0-12-530990-2
^Clausius, R. (1865). The Mechanical Theory of Heat – with its Applications to the Steam Engine and to Physical Properties of Bodies.. London: John van Voorst
^Klotz, I. (1950). Chemical Thermodynamics. New York: Prentice-Hall, Inc.
Ilya Prigogine & R. Defay, translated by D.H. Everett; Chapter IV (1954). Chemical Thermodynamics. Longmans, Green & Co. - 化学に適用される論理的基礎について非常に明確。非平衡熱力学を含む。
Ilya Prigogine (1967). Thermodynamics of Irreversible Processes, 3rd ed.. Interscience: John Wiley & Sons. - すべての基本的なアイデアを説明するシンプルで簡潔なモノグラフ。
E.A. Guggenheim (1967). Thermodynamics: An Advanced Treatment for Chemists and Physicists, 5th ed.. North Holland; John Wiley & Sons (Interscience). - 非常に鋭い論文。
Th. De Donder (1922). “L'affinite. Applications aux gaz parfaits”. Bulletin de la Classe des Sciences, Académie Royale de Belgique. Series 5 8: 197–205.
Th. De Donder (1922). “Sur le theoreme de Nernst”. Bulletin de la Classe des Sciences, Académie Royale de Belgique. Series 5 8: 205–210.