先行研究先行研究(せんこうけんきゅう)は、ある研究対象について、既に自分の研究よりも先んじて発表された研究を指す。通常は他の研究者による学術論文や専門書などを指す[1]。 概要科学の分野でそれなりの研究を行おうという場合、先行研究を自分の研究の参考にし、その結果とそこから生じた判断を踏まえた上で、それに独自の見解を接木し、あるいはそれを批判して、自己の学説として発表することが求められる。そのため、学術論文の執筆には、まず先行研究を調べるところから始まることになる。 もちろん、これからやってみようと思うことが、「すでに行われたもの」ないし「内容に何ら変わりのないもの」であれば、研究それ自体に「意味がない」場合もある。しかし、それ以上に重要なことは、「自分の行おうとする研究が、科学の流れの中において、どのような位置にあるのか」を知ること、すなわち「自分の研究のどこに独自性があるか」を明確化することにあり、それを把握した上で、自分の得た結果について考察を行うならば、そこから得られる判断の位置づけもまた明らかになる[2]。 この一連の作業を「研究史の整理」という[3]。理想としては「大方全部」を目指す必要があるが、実際に全てを網羅できたのか否かは確認できないのが現状であるため、「全ての研究」を取り上げないまでも、その中から自分の研究の問いにおける「代表的な先行研究[注 1]」といえるものを提示することは大切である[4]。 収集方法先行研究を探すには、幾つかの方法がある[注 2]。
見つからなかった場合普通は全く新しい分野といっても、それまでの全ての分野と無関係に存在するものではないから、少なくとも参考文献は存在するのが普通であるが、それまで誰も着目しなかった領域については、先行研究も存在しないことになる。これは往々にして全く新しい展開を科学の世界に作る物となるが、その場合、その論文を裏付ける事実が他にはないことになる。そして、先行研究なしで学術論文を発表した場合、筆者の思い込みの可能性など、研究テーマの正当性が問題にされることもあり得る。 もっとも、科学の分野において、全く先行研究のない研究論文はなかなか存在しない。これは、一つには科学の研究が技術の向上に基づいていることによる。実験操作にしても、例えば生物の細部の研究は、虫眼鏡から顕微鏡へ、という風に科学技術の進歩と結びついている。したがって、新たな展開はそれ以前の技術による研究を土台として行われるものである。 ただ、先行研究がなかなか見つからず、後になって発見される例もある。有名なのはメンデルの法則で、その発表の40年ほど後に、新発見として発表された後にすでに発表されたものであることが判明した[要出典]。本来ならば彼の研究を先行研究として、それを超える結果を示すべき状況ではあったわけである。もっともこの場合にも、それ以外の多数の交配実験に関する研究は参考にされている[注 4]。 もう少しややこしいのは、先行研究が別分野にあった場合である。例えば、生物個体数の増加を表すモデルであるロジスティック方程式は、生態学の分野では20世紀初頭にショウジョウバエなどの実験個体群の研究から導き出されたものであるが、後に19世紀にピエール=フランソワ・フェルフルストがすでに発表したものであることが判明した[要出典]。これは、彼の研究が人口統計学という同じ現象を扱う別分野であったためである。 奈良大学文学部教授の村上紀夫は、先行研究が見つからない原因の可能性として、次の4つを提示している。
このうち、1.については先行研究がなくとも研究成果を上げやすく、その研究について先駆的な業績ともなりうるため非常運が良い事例であり、2.3.についても、後の資料増加や研究アプローチの仕方次第では研究成果に繋げられる可能性があるが、4.については研究史整理の失敗で、自身の研究が既に過去の誰かによってなされていたものである可能性が高く、もっとも悲惨な結果に繋がるという[12]。 諸問題
先行研究を知ることは、見方を変えると先入観ないし予断を持つことであり、そのために研究やその結果が歪められる可能性がある。古くはファーブルが、先行研究を調べることに頼るのを再三にわたって戒めている。これは、彼の時代の昆虫学では習性に関するまともな研究がほとんどなかったため、役に立たない上に誤ったものが多かったという事情がある。パスツールがカイコの病気の研究のための基礎知識を得るため、ファーブルの元を訪れたが、その際、パスツールがあまりにカイコに無知なことに驚くと同時に、そのような無垢の状態でこそ、新しい研究も可能なのだと誉めている。ただしファーブル自身は先行研究を軽視するあまりに、ある種のカメムシが卵塊を保護するという観察を否定する、といった失敗もしている[要出典]。
文献研究とは「既に存在している資料を材料として、新たな発見を導き出す研究手法」であるが[13]、時として先行研究を読むことを文献研究だと思い込む人が一定数いる。研究は新しい未発表の理論や解決法を提示するものでなくてはならないため、どれだけ先行研究を読んで手際よく整理しても、そこには「既に誰かが発見したもの」しか残らない[14]。 脚注注釈
出典
参考文献
関連項目 |