低マグネシウム血症
低マグネシウム血症(ていマグネシウムけっしょう)とは、血液中、ひいては体内のマグネシウム量の低下による電解質異常である。マグネシウムは、酵素活性維持、神経筋刺激伝導・収縮、骨形成など、生命の維持に重要な機能をもっている。低マグネシウム血症は、摂取不足、薬剤など、さまざまな原因でおこり、特に入院患者では頻繁に見られる病態である。低カルシウム血症、低カリウム血症、低リン血症と合併することが多い。筋力低下、筋痙攣、振戦、テタニー、不整脈、血管収縮、などの症状が知られているが、低マグネシウム血症に特異的な症状はない。血清マグネシウム濃度はルーチンには測定されない場合も多く、見逃されやすいので注意を要する。 マグネシウムの生体内機能マグネシウムは、体内では、ナトリウム、カリウム、カルシウムについで多い陽イオンであり[3]、細胞内のエネルギー産生、多数の酵素活性の維持(アデノシン三リン酸の関与する酵素反応すべて、各種のキナーゼに関わる反応)、神経筋興奮性、細胞膜の透過性、イオンチャンネルの制御、ミトコンドリア機能、細胞増殖、アポトーシス、免疫、などに関わる[4]。 なお、血中カルシウム濃度は、主に副甲状腺ホルモンで調節されているが、それに対応する、血中マグネシウム濃度を特異的に調節するホルモンは存在しない。 マグネシウムの恒常性維持にかかわるのは、腎臓(尿細管からの再吸収、主に、ヘンレ上行脚と近位尿細管)、小腸、骨、である。 マグネシウムの生体内分布と存在様式体内のマグネシウムは、成人体内には20 - 28g 程度存在し、その大部分は骨に含まれ、骨が貯蔵臓器となっている[3]。
※四捨五入をしているため合計が100%にはならない マグネシウムはほとんどが骨と細胞内に存在し、血液を含む細胞外液には1%が存在するのみである。血清マグネシウム濃度は体内マグネシウム量を正確には反映しない。 血中のマグネシウムの存在形態は下記の通りである[3]。
血中のマグネシウムのうち、生理的に重要なのはイオン化マグネシウムであるが、通常は総マグネシウム濃度が測定される。 食事で摂取したマグネシウムの約40%が腸管から吸収される。糸球体でろ過されたマグネシウムの97%は、尿細管で再吸収される。 診断低マグネシウム血症は、血中のマグネシウムが正常下限値未満の状態である。広く共用される基準範囲は確立されていないが、健常人血清マグネシウム下限は、1.8 mg/dL[1][5]、ないしは、1.7 mg/dL[6][7]とされる。なお、小児と成人は大差ない。 ただし、下限値を下回ってもただちに症状が出るわけではない。症状がでるのは 1.2 mg/dL以下である[4]。
なお、マグネシウム濃度は、mg/dL以外の単位が使用されることがあり、換算式は下記である。
同時に行うべき検査血中マグネシウム低値を認めたときは、病態を評価するために、血中カリウム、血中カルシウム、血中リン、クレアチニンを始めとする腎機能検査、血糖、心電図、などを検査する必要がある。 疫学血中のマグネシウム濃度そのものが測定されないことも多いが、下表ではかなり多い病態であると報告されている。
症状低マグネシウム血症に特異的な症状や徴候はなく、また、カルシウム、カリウムなどの異常も依存することが多いため、見逃されやすい。
原因
治療無症状、ないし、緊急性がない場合は、経口的に酸化マグネシウム等の内服を行う。有意の症状がみられたり、経口摂取不可の場合は、経静脈的に硫酸マグネシウムを投与する[1]。 なお、血中マグネシウムは治療によりすぐ改善するが、細胞内のマグネシウム欠乏が補正されるには時間がかかるため、血中レベル正常化後二日間は補充を続けることが推奨されている[4]。 合併する他の電解質異常や、低マグネシウム血症の原因となった病態は確認し、必要に応じ治療する。 予後低マグネシウム血症の原因となった病態によるが、一般に、低マグネシウム血症そのものの予後は、通常、良好である[4]。 脚注
出典
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