数学において、二項関係(にこうかんけい、英: binary relation)あるいは二変数関係(dyadic relation, 2-place relation) は、集合A の元からなる順序対のあつまりである。別な言い方をすれば、直積集合A2 = A × A の部分集合を、集合 A 上の二項関係と呼ぶ[1]。あるいはもっと一般に、二つの集合 A, B に対して、A と B との間の二項関係とは、直積 A × B の部分集合のことをいう[2]。
二項関係の一つの例は素数全体の成す集合 P と整数全体の成す集合 Z の間の整除関係である。この整除関係では任意の素数 p は、p の倍数である任意の整数 z に関係を持ち、倍数でない整数には関係しないものとして扱われる。例えば、素数 2 が関係を持つ整数には −4, 0, 6, 10 などが含まれるが 1 や 9 は含まれない。同様に素数 3 が関係する整数として 0, 6, 9 などが挙げられるが、4 や 13 はそうでない。
二項関係 R は通常、任意の集合(または類)X, Y とそれらの直積X × Y の部分集合G の順序三つ組(X, Y, G) として定義される。このとき、集合 X および Y はそれぞれこの関係の始集合(domain) および終集合(codomain) と呼ばれ、G はこの関係のグラフと呼ばれ、G(R) と表すこともある。
R が関係 (X, Y, G) であるとき、(x, y) ∈ G となることを、「x は y と R-関係を持つ」などといい、x R y や R(x, y) で表す。後者は、対の集合 G の指示函数として R を見ることに対応する。
始集合 X と終集合 Y が同じ場合であっても、対の各要素の順番は重要で、a ≠ b ならば a R b および b R a はそれぞれ独立に真にも偽にもなりうる。
関係とグラフ
定義から、グラフ G がまったく同じになるような関係があっても、始集合 X や終集合 Y が異なれば、それらは相異なる別の関係である。たとえば G = {(1,2), (1,3), (2,7)} を共有する三つの関係 (Z, Z, G), (R, N, G), (N, R, G) はそれぞれ異なる関係を表す。
ただし、関係の定義に始集合 X や終集合 Y を考慮しない流儀も一般的である[2]。この場合、二項関係とは X × Y の部分集合であるグラフ G そのものをいうのに相違ない。このような立場では、対の集合{(1,2), (1,3), (2,7)} は {1, 2} を含む任意の始集合から {2, 3, 7} を含む任意の終集合への関係を表す。
この差異を、関係の特別な場合として写像の概念に適用する場合を考えよう。多くの文脈では、写像の終域と値域とを異なるものとして峻別して扱うので、ひとつの「規準」として例えば実数 x に x2 を対応させるとき、終域を実数全体 R とするか、あるいはより精密に非負の実数全体 R+ とするかによって、二つの異なる写像 f: R → R および g: R → R+ が得られる。しかし別な文脈では、写像とは単に第一成分が一意であるような順序対の集合として扱われることもある。この差異はとある自明でない問題から生じていると見ることができる。例えば、前者の立場では写像の性質として全射性を考えることができるし、一方で後者は集合を生み出す関係性として写像を捉えることができる。
X の任意の元 x, y, z について、x R y かつ x R z が成り立てば必ず y R z かつ z R y が成り立つような関係 R は右ユークリッド的であるという (通常、単に「ユークリッド的関係」とされていたら「右ユークリッド的関係」を指す)。
X の任意の元 x, y, z について、x R z かつ y R z が成り立てば必ず x R y かつ y R x が成り立つような関係 R は左ユークリッド的であるという。
恒等関係 "=" は x = y かつ x = z ならば y = z となるから(右)ユークリッド関係であり、また、勿論左ユークリッド関係でもある。
連続的 (serial)
X の各元 x に対して、x R y となるような y ∈ X がそれぞれとれるとき、関係 R は連続的であるという。
「大なり」">" は整数全体の成す集合 Z 上の連続的関係だが、正の整数全体の成す集合 N 上の連続的関係ではない(1 > y となるような正の整数 y は存在しない)[4]。一方で「小なり」"<" は N 上の(あるいは有理数全体の成す集合 Q または実数全体の成す集合 R 上の)連続的関係である。
集合的 (set-like)
集合 X の任意の元 x に対して、y R x となるような y 全体の成すクラスが集合であるような関係は、集合的(あるいは集合状、集合様)であるという。
また、完備性(completeness) のいくつかの概念(完全性 totalness と混同してはいけない)は、制限によって遺伝しない。例えば、実数全体の成す集合 R 上で、通常の大小関係 "≤" は「R の任意の空でない部分集合 S で R に上界を持つものは R に上限(最小上界)を持つ」という性質があるが、しかし関係 "≤" を有理数全体の成す集合 Q 上に制限すれば、有理数からなる部分集合の上限は必ずしも有理数ではないから、この性質は保たれない。
X と Y 上の二項関係の左制限(left-restriction) あるいは右制限(right-restriction) はそれぞれ、その始集合あるいは終集合の部分集合 S に対して、その関係に属する対 (x, y) でそれぞれ x あるいは y が S の元となっているようなもの全体として得られる関係をいう。
Kilp, M.; Knauer, U.; Mikhalev, A.V. (2011) [2000], Monoids, Acts and Categories with Applications to Wreath Products and Graphs, De Gruyter Expositions in Mathematics, vol. 29 (Reprint 2011 ed.), Walter de Gruyter, ISBN978-3-11-015248-7
Rosenstein, Joseph G. (1982), Linear orderings, Pure and Applied Mathematics, Volume 98, Academic Press, ISBN978-0-12-597680-0