プラトン全集(羅: Corpus Platonicum, 英: Platonic Corpus)は、プラトン名義の著作を集成した全集叢書。
今日の「プラトン全集」の原型を作ったのは、紀元前1世紀のエジプト・アレクサンドリア出身の文法学者で、ローマ帝国2代皇帝ティベリウスの廷臣だったトラシュロスである。彼は当時伝わっていたプラトンの著作群の中から真作と考えた36篇を抜き出し、ギリシア悲劇の四部作形式(悲劇三部作+サテュロス劇)にならい、以下のように、9編の4部作(テトラロギア)集にまとめた[1]。
現在はこの内の何篇かは明らかな偽書と判断されているものの、現在出版されている「プラトン全集」のほとんどは、このトラシュロス版「プラトン全集」の枠組みに準拠した刊行を続けている。
なお、ディオゲネス・ラエルティオスは、『ギリシア哲学者列伝』の中で、プラトンの各対話篇を特色づける性格として、以下の分類を挙げ、上記36篇を割り振っている[2]。
また彼は、上記したトラシュロスの「4部作」分類と共に、ビュザンティオンのアリストパネス(英語版)等が「3部作」分類を行っていたが、その分け方は人それぞれバラバラだったことを紹介している[3]。
また彼は、当時継承されていたプラトン名義の著作の中で、「誰もが一致して偽作としている」ものとして、以下の11篇を挙げている[4]。
○は、下述するステファヌス版に収録されているもの。
中世までの写本に代わり、15世紀-16世紀に西欧で活版印刷が確立・普及すると、ルネサンスの時代背景を追い風に、プラトンの著作も含め、古代・中世の著作物が文献考証を伴いながら様々な印刷工房によって編纂・出版されるようになった。
そんな中で、近代における「プラトン全集」の標準的な底本の地位を獲得したのが、ジュネーヴのアンリ・エティエンヌ(ラテン語名ヘンリクス・ステファヌス)の印刷工房によって、1578年に出版された「プラトン全集」である。これは各ページの左右にギリシア語原文とラテン語訳文の対訳が印刷され、その狭間に10行ごとにA, B, C... とアルファベットが付記されている様式の叢書である。これ以降、プラトンの著作を翻訳する際には、この「ステファヌス版」のページ数と行数(A,B,C...)を付記して対応関係を示すのが約束事になった。この数字は「ステファヌス数」(Stephanus numbers)、「ステファヌス頁付け」(Stephanus pagination)等と呼ばれる。
順番は崩れているが、トラシュロス版の36篇を網羅し、更に、トラシュロスも含め古代の学者たちですら偽作扱いしてきたプラトン名義作品の内、ディオゲネス・ラエルティオスが偽作として名指しした[4]4作品を含む7作品も併せて収録している。
第1部
第2部
第3部
※偽書、あるいは今日においては真作性に疑義が呈されているもの。
ステファヌス版以後のものとしては、オクスフォード古典叢書(Oxford Classical Texts, OCT)の一環として、1900年–1907年に刊行された「Platonis Opera」シリーズもよく参照される。これはジョン・バーネットが校訂したものなので「バーネット版」とも称される[5]。
収録内容はトラシュロスの四部作(テトラロギア)集の全36篇がその順序通りに収録され、最後にステファヌス版に追加収録された偽作7作品の内、『定義集』のみが付け加えられている。題名はラテン語名が採用されているが、中身はギリシア語原文(とラテン語の序文・注釈)である。
なお、このオクスフォード古典叢書(OCT)の「Platonis Opera」シリーズは、1995年からは別の校訂者たちによる「新版」が刊行されている。
1974-78年に刊行された『プラトン全集』(岩波書店、田中美知太郎・藤沢令夫編者代表、復刊2005年ほか)は、原典底本はバーネット版[5]を軸としている。したがって、バーネット版と同じく、トラシュロスの四部作(テトラロギア)集の全36篇の順序通りに収録された。更に、最終第15巻にはステファヌス版に付け加えられていた偽作7作品を収録するが、バーネット版には『定義集』以外の6作品が掲載されておらず、その6作品は他本を参照し訳・注解された[6]。
1973-77年、角川書店からも『プラトン全集』が山本光雄を編者として刊行された。岩波版との明確な違いとして、別巻に中期プラトン主義者の著作等を収録している、という点がある。
岩波文庫での訳注(上記した岩波書店版『プラトン全集』の部分的文庫化と独自訳が混在)
角川文庫での訳注(上記した角川書店版『プラトン全集』の部分的文庫化と先行訳)
筑摩書房の世界古典文学全集シリーズ、及びちくま学芸文庫における訳注
中央公論社の世界の名著シリーズ、及びそこからの再刊行としての中公クラシックスにおける訳注
講談社学術文庫での訳注
光文社古典新訳文庫での訳注
京都大学学術出版会「西洋古典叢書」での訳注