バケットヘッド卿 (バケットヘッドきょう、英語 : Lord Buckethead )は、1987年 以来たびたびイギリス総選挙 などに出馬している政治風刺 を目的とした泡沫候補 で、これまでに数人がこれを演じている。"Buckethead" は直訳すると「バケツ頭」の意味。
このキャラクターは、『スター・ウォーズ 』におけるダース・ベイダー のように、銀河間を股に掛ける悪者 として、1984年に制作 されたアメリカ合衆国 のSF映画 『ハイパー・ウォーズ 帝国の逆上 』のためにトッド・デュアハム (英語版 ) が創作したものである。スターウォーズ作品世界において "Buckethead" は銀河帝国時代のストームトルーパーや類似の装甲服着用者に対する軽蔑的なニックネームである[ 1] 。
イギリス のビデオ配給事業者マイク・リー (Mike Lee) は、1987年イギリス総選挙 にバケットヘッド卿を出馬させ、1992年イギリス総選挙 でも同様に出馬させた。その後、しばらくこのキャラクターは使われなかったが、2017年イギリス総選挙 に際して、コメディアンのジョナサン・ハーヴェイ がバケットヘッド卿として立候補し、テレビで放映されたテリーザ・メイ 首相 と並んだ姿は、バイラル動画 (英語版 ) となり、メディアの注目やネット上でのフォローを集めた[ 2] [ 3] 。
2017年総選挙の後、デュアハムはこのキャラクターの所有権が自分にあることを明確に主張し、ハーヴェイによる使用を覆した。バケットヘッド卿は、デュアハムの公認の下でデヴィッド・ヒューズ (David Hughes) が演じて2019年 に復活し、イギリスの欧州連合離脱是非を問う国民投票 のやり直しを求めた人民の投票 (People’s Vote ) 運動のデモに参加したほか[ 2] 、2019年イギリス総選挙 にオフィシャル・モンスター・レイブン・ルーニー・パーティー から出馬した[ 4] 。一方、ハーヴェイも、新たなキャラクターであるビンフェイス伯爵 (Count Binface :ゴミ箱顔伯爵)として、選挙に出馬した[ 5] 。
歴史
1980年代の起源
バケットヘッド卿は、アメリカ合衆国 の映画作家トッド・デュアハム (英語版 ) が、『スター・ウォーズ 』などのパロディ SF映画 として低予算で制作した1984年の映画 『ハイパー・ウォーズ 帝国の逆上 』の登場人物として創作したものである[ 6] 。この映画で、バケットヘッド卿は、『スター・ウォーズ 』におけるダース・ベイダー のように、銀河間を股に掛ける悪者であり、ロバート・ブラッドワースが演じていた[ 6] 。
この映画は、イギリス では『グレムロイズ (Gremloids )』と題して、マイク・リー (Mike Lee) が所有するビデオ配給会社 VIPCO がリリースした[ 7] 。1987年イギリス総選挙 、リーはグレムロイズ党 (Gremloids Party) を代表するバケットヘッド卿として、保守党 党首の首相 マーガレット・サッチャー と同じロンドン のフィンチリー選挙区 (英語版 ) から出馬した。バケットヘッド卿は、バーミンガム を破壊して、宇宙船発射基地 を建設すると訴えた[ 8] 。 この選挙でバケットヘッド卿は、131票を得た[ 9] 。1992年イギリス総選挙 では、当時の保守党党首で首相だったジョン・メイジャー の選挙区であるハンティンドン選挙区 (英語版 ) で立候補し[ 7] 、107票 (0.1%) を得た[ 10] 。
2017年の復活
2017年 、コメディアンのジョナサン・ハーヴェイ (Jonathan Harvey) が、バケットヘッド卿として総選挙 にテリーザ・メイ と同じメイデンヘッド選挙区 (英語版 ) から出馬した。ハーヴェイは、『グレムロイズ』を視てバケットヘッド卿を使うこと思いつき、このキャラクターが、以前の選挙に出馬していたことは後から知った。このときバケットヘッド卿は249票(0.4%)を得票し、このキャラクターとしては過去最高を記録した[ 11] [ 12] 。
バケットヘッド卿がメイ首相と並んで立っているテレビ放送された映像はバイラル動画 (英語版 ) となり、HBO のトーク番組『Last Week Tonight with John Oliver 』や、グラストンベリー・フェスティバル にも出演した[ 2] 。『ガーディアン 』紙は、皮肉交じりの記事で、シーファックス (英語版 ) を復活させるとしたバケットヘッド卿のマニフェスト に「最優秀政策」賞 ("Best Policy" award) を授与するとした[ 13] 。選挙から数日後、バケットヘッド卿はアメリカ合衆国 のトーク番組『Last Week Tonight with John Oliver 』に出演し、イギリスの欧州連合離脱 (Brexit ) をめぐる交渉を主導していくと述べた[ 14] 。ハーヴェイは、バケットヘッド卿として Twitter のアカウントを開設し、数十万のフォロワーを得た[ 2] 。『ガーディアン 』紙は、バケットヘッド卿のことを、オフィシャル・モンスター・レイブン・ルーニー・パーティー のようなイギリスにおける泡沫政党 の伝統の一部である泡沫候補 だとした[ 15] 。
2017年 6月、バケットヘッド卿はグラストンベリー・フェスティバル にサプライズ出演し、スリーフォード・モッズ (英語版 ) を紹介した[ 16] 。同年、バケットヘッド卿はクリスマス・シングル「A Bucketful of Happiness」を出し、ミュージック・ビデオ も発表した[ 17] 。
著作権をめぐる争いと、その後
2017年の選挙の後、デュアハムはハーヴェイに連絡をとり、バケットヘッド卿のキャラクターの所有権は自分にあることを伝えた。ハーヴェイによれば、デュアハムは、自分に Twitter アカウントのパスワードを知らせるよう求めたという。ハーヴェイは、法的措置には対抗できないと考え、黙って従った[ 2] 。デュアハムは、将来イギリスでおこなわれる選挙において、適切な手続きで彼の公認を得て、このキャラクターで立候補することを希望する者は歓迎するとし、「私のキャラクターであるバケットヘッド卿は、常に人々の声の代弁者でしたし、私は人々に彼の声を使わせ得たいと感じています」と述べた[ 2] 。
Twitter のアカウントは、2019年 から再び発信を始めた。この年、バケットヘッド卿を演じたのはデヴィッド・ヒューズ (David Hughes) で[ 18] 、イギリスの欧州連合離脱是非を問う国民投票 のやり直しを求める人民の投票 (英語版 ) のデモに参加するなどした[ 2] 。4月、バケットヘッド卿はクラウドファンディング で £15,000 を集め、5月におこなわれた2019年イギリス (英語版 ) 欧州議会議員選挙 にナイジェル・ファラージ と同じ南東イングランド選挙区 (英語版 ) から欧州議会議員 に立候補しようとした。しかし、この企ては、イギリスの欧州連合残留を訴える他の政党の票を奪うかもしれないという懸念から、取りやめられた[ 2] 。デュアハムによれば、集まった資金は返却されたという[ 2] 。
12月におこなわれた2019年イギリス総選挙 では、バケットヘッド卿はオフィシャル・モンスター・レイブン・ルーニー・パーティー を代表してボリス・ジョンソン 首相と同じアックスブリッジ・アンド・サウス・ルイスリップ選挙区 (英語版 ) に出馬した[ 4] 。一方、ハーヴェイも、同じ選挙区に、新キャラクターであるビンヘッド伯爵 として出馬した[ 5] 。
政治綱領
2017年イギリス総選挙 におけるバケットヘッド卿はマニフェスト は、「強力で、完全には安定しないリーダーシップ (strong, not entirely stable leadership)」であったが、これは保守党 の「強力かつ安定 (strong and stable )」というスローガン を踏まえたものである[ 19] 。公約には以下の内容が含まれていた。
選挙結果
1987年イギリス総選挙 :フィンチリー選挙区
政党
候補者
票
%
前回比
保守党
マーガレット・サッチャー
21,603
53.9
+2.8
労働党
ジョン・デイヴィーズ (John Davies)
12,690
31.7
+4.9
自由党
デイヴィッド・ハワース (David Howarth)
5,580
13.9
−7.3
グレムロイズ
バケットヘッド卿
131
0.3
N/A
ゴールド党 (Gold Party)
マイケル・セントヴィンセント (Michaelle St Vincent)
59
0.2
N/A
投票総数 / 投票率
40,063
69.4
+0.4
脚注
^ Wookiepedia. “Buckethead ”. 2020年1月21日 閲覧。
^ a b c d e f g h i editor, Jim Waterson Media (2019年5月26日). “Double trouble: the fight to be the real Lord Buckethead” (英語). The Guardian . ISSN 0261-3077 . https://www.theguardian.com/politics/2019/may/26/lord-buckethead-double-trouble-theresa-may 2019年12月14日 閲覧。
^ “Lord Buckethead who took on Theresa May hangs up his helmet ”. CBC Radio (2019年5月28日). 2020年1月18日 閲覧。
^ a b Bunty, Buckethead, Binface - and Boris Johnson - BBC News - YouTube
^ a b “Comedian Jon Harvey to take on Boris Johnson as Count Binface” (英語). (2019年11月14日). https://www.comedy.co.uk/people/news/5544/who_is_count_binface/ 2019年11月14日 閲覧。
^ a b “The real Lord Buckethead: the cult sci-fi film that inspired Theresa May's election rival” (英語). The Telegraph . https://www.telegraph.co.uk/films/0/real-lord-buckethead-cult-sci-fi-film-inspired-theresa-mays/ 2017年6月10日 閲覧。
^ a b reprobatemagazine (2017年6月14日). “Lord Buckethead – The Whole Story ” (英語). The Reprobate . 2019年12月14日 閲覧。
^ “Lord Buckethead vs Theresa May – meet the UK's weirdest political parties ” (英語). New Statesman . 2017年6月7日 閲覧。
^ Waterson, Jim. “A Person Called 'Lord Buckethead' Is Standing Against Theresa May in the Election ”. BuzzFeed . 2017年6月7日 閲覧。
^ Matthew Engel (2014-10-23). Engel's England: Thirty-nine counties, one capital and one man . Profile Books. p. 150. ISBN 978-1-84765-928-6 . https://books.google.com/books?id=kfJYBQAAQBAJ&pg=PT150
^ “Maidenhead parliamentary constituency ”. BBC News (2017年6月9日). 2017年6月9日 閲覧。
^ “The Latest: Costumed candidates in UK get moment of fame ” (2017年6月9日). 2017年6月9日 閲覧。 “She looked grim as her local victory was announced, even while sharing a stage with a man dressed as the Muppet character Elmo (he got three votes), Howling "Laud" Hope of the Monster Raving Loony Party (119 votes) and Lord Buckethead, a towering figure in black with a pail on his head (a resounding 249 votes).”
^ Heritage, Stuart (2017年6月8日). “The 2017 election awards: from best eating of a Pringle to biggest dolt ”. The Guardian . 2020年1月18日 閲覧。
^ Tomasz Frymorgen. “Lord Buckethead has agreed to lead Brexit negotiations ”. BBC Three . 2017年6月19日 閲覧。
^ Malkin, Bonnie (2017年6月9日). “Lord Buckethead, Elmo and Mr Fishfinger: a very British election” (英語). The Guardian . ISSN 0261-3077 . https://www.theguardian.com/uk-news/2017/jun/09/lord-buckethead-elmo-and-mr-fish-finger-a-very-british-election 2017年6月10日 閲覧。
^ Smith, Patrick (2017年6月23日). “Lord Buckethead makes surprise appearance at Glastonbury appearance to introduce Sleaford Mods ”. The Telegraph . 2017年6月24日 閲覧。
^ Dracott, Edd (2017年12月20日). “Lord Buckethead released a music video for Christmas and it's a must-watch ”. Irish Independent . 2020年1月18日 閲覧。
^ “Election results 2019: Boris Johnson holds Uxbridge seat ”. YouTube . BBC News (2019年12月12日). 2019年12月15日 閲覧。 “Hughes, David Steven, commonly known as Lord Buckethead”
^ Moseley, Tom (2017年4月27日). “'Strong and stable' - had enough yet?” (英語). BBC News . https://www.bbc.co.uk/news/uk-politics-39730467 2018年1月2日 閲覧。
^ a b c d “Meet Lord Buckethead, the U.K. election's intergalactic spacelord ”. Canadian Broadcasting Corporation (2017年6月9日). 2020年1月18日 閲覧。
^ a b c d e Lion, Patrick (2017年6月9日). “Theresa May's rival Lord Buckethead ran on Katie Hopkins and Adele policies ”. Daily Mirror . 2020年1月18日 閲覧。
^ “Buckethead4Maidenhead ”. buckethead4maidenhead.com . 2020年1月18日 閲覧。
関連項目
外部リンク
英語版ウィキクォートに本記事に関連した引用句集があります。