ディオゲネスのいる風景
『ディオゲネスのいる風景』(ディオゲネスのいるふうけい、英: Landscape with Diogenes)、または『鉢を投げ捨てるディオゲネス』(はちをなげすてるディオゲネス、仏: Diogène jetant son écuelle、英: Diogenes Throwing away his Bowl)は、17世紀フランスの巨匠ニコラ・プッサンが晩年の1654-1658年にキャンバス上に油彩で制作した風景画である。1648年に当時有数の銀行家でリヨンとパリに邸宅を持っていたマルク=アントワーヌ2世・ド・リュマグ (Marc-Antoine II de Lumague) のために描かれた[1][2]が、1665年にフランス王ルイ14世に取得された。作品は現在、パリのルーヴル美術館に所蔵されている[1][2]。 作品この絵画の出典は、プッサンの愛読書の1つであったプルタルコスの『倫理論集 (モラリア)』であると思われる[1]。それによると、古代ギリシア犬儒学派の哲学 (やがてストア学派を生み出す) の祖ディオゲネス (紀元前413年ごろ-324年ごろ) がアテネの町の郊外を歩いていた折に、水辺で「ある男」が何ら器を使わずに自分の手で水をすくって飲む姿を見た。ディオゲネスは、自らも世俗の財をことごとく捨て、ずだ袋と杖と鉢しか持っていなかったのに、この男の姿に打たれ、持っていた鉢すら無用のものとして投げ捨てたという[1][3]。 この図像は15世紀末以来見られるが、きわめてわずかしか描かれていない[1]。おそらくプッサンの知人で画家のサルヴァトール・ローザの同主題の作品『哲学者の森』 (1640-1645年ごろ) を見たか、そのデッサンか版画を参照したことが想像される[1]。 本作は、「大様式」と呼ばれるプッサンの完成された様式を示す風景画である[1]。プッサンが住んでいたローマの町で誰もが知っていたヴァチカン宮殿の1部のベルヴェデーレ宮 (ブラマンテの設計で、1527年までに完成) [1][2][3]や、テヴェレ川の深くえぐれた谷の彼方にそびえる、緑の木々や茂みに囲まれたベルヴェデーレの神殿の大きな破風などが表されている[3]。ヴァチカン宮殿にあたる光の描写力には、プッサン同様、ローマに住んでいたフランスの画家クロード・ロランに劣らぬものがあり、さらに空気遠近法が見事である[1]。美術史家のデニス・マホンは、本作を含むプッサンの後期の風景画にはクロード・ロランの影響があることを推測している[2]。 脚注
参考文献
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