原文と比べた結果、この記事には多数の(または内容の大部分に影響ある)誤訳 があることが判明しています。情報の利用には注意してください。 正確な表現に改訳できる方を求めています。
数学 、特に微分幾何学 において、ケーラー多様体 (ケーラーたようたい、英 : Kähler manifold )とは、複素構造 、リーマン構造 、シンプレクティック構造 という3つが互いに整合性を持つ多様体 である。ケーラー多様体 X 上には、ケーラーポテンシャル が存在し、X の計量に対応するレヴィ・チヴィタ接続 が、標準直線束 上の接続を引き起こす。
滑らかな射影代数多様体はケーラー多様体の重要な例である。小平埋め込み定理 により、正の直線束を持つケーラー多様体は、常に射影空間の中へ双正則に埋め込むことができる。
ケーラー多様体の名前はドイツ人数学者エーリッヒ・ケーラー (Erich Kähler) にちなんでいる。
定義
ケーラー多様体は互いに整合性のある複数の構造を持つため,下記のような複数の観点からの定義方法がある。
シンプレクティック多様体として
ケーラー多様体とは、シンプレクティック多様体
(
K
,
ω
)
{\displaystyle (K,\omega )}
とそのシンプレクティック形式
ω
{\displaystyle \omega }
と以下の意味で整合性を持つ可積分な概複素構造 J の組である:[ 1]
g
(
u
,
v
)
=
ω
(
u
,
J
v
)
{\displaystyle g(u,v)=\omega (u,Jv)}
で定義される接空間上の2次形式が各点で正定値対称である(つまり,上で定義されるgがリーマン計量になっている)。
複素多様体として
ケーラー多様体とは、付随するエルミート形式 が閉 であるエルミート多様体 のことである。このとき、このエルミート形式をケーラー形式という。
定義より、ケーラー形式はシンプレクティック形式である。
定義の同値性
エルミート多様体
K
{\displaystyle K}
は、自然なエルミート形式
h
{\displaystyle h}
と可積分な概複素構造
J
{\displaystyle J}
を兼ね備えた複素多様体 である。
h
{\displaystyle h}
が閉であることを仮定すると、標準的 シンプレクティック形式を
ω
=
i
2
(
h
−
h
¯
)
{\displaystyle \omega ={\frac {i}{2}}(h-{\bar {h}})}
と定義でき
J
{\displaystyle J}
と整合性を持っているので、第一の定義を満たす。
一方、概複素構造と整合性をもつ任意のシンプレクティック形式は、
(
1
,
1
)
{\displaystyle (1,1)}
タイプの複素微分形式 であるはずであり、座標
(
U
,
z
i
)
{\displaystyle (U,z_{i})}
を使い書き表すと、
h
j
k
∈
C
∞
(
U
,
C
)
{\displaystyle h_{jk}\in C^{\infty }(U,\mathbb {C} )}
に対し、
ω
=
i
2
∑
j
,
k
h
j
k
d
z
j
∧
d
z
k
¯
{\displaystyle \omega ={\frac {i}{2}}\sum _{j,k}h_{jk}dz_{j}\wedge d{\bar {z_{k}}}}
となる。
ω
{\displaystyle \omega }
が実数に値を持つ閉じた非退化であることを加えると、
h
j
k
{\displaystyle h_{jk}}
が
K
{\displaystyle K}
の各々の点でエルミート形式を定義することが保証される。[ 1]
エルミート形式とシンプレクティック形式の関係
h
{\displaystyle h}
をエルミート形式、
ω
{\displaystyle \omega }
をシンプレクティック形式、
J
{\displaystyle J}
を概複素構造とすると、
ω
{\displaystyle \omega }
と
J
{\displaystyle J}
は整合性を持っているので、新たな形式
g
(
u
,
v
)
=
ω
(
u
,
J
v
)
{\displaystyle g(u,v)=\omega (u,Jv)}
はリーマン形式 となる。[ 1] これらの構造は、等式
h
=
g
+
i
ω
{\displaystyle h=g+i\omega }
により関連付けられていると結論できる。
ケーラーポテンシャル
K
{\displaystyle K}
を複素多様体とする。
ρ
∈
C
∞
(
K
;
R
)
{\displaystyle \rho \in C^{\infty }(K;\mathbb {R} )}
について、閉(1,1)形式
ω
=
i
2
∂
∂
¯
ρ
{\displaystyle \omega ={\frac {i}{2}}\partial {\bar {\partial }}\rho }
が正定値である(つまり、ケーラー形式である)とき、
ρ
{\displaystyle \rho }
を強多重劣調和函数 という。
ここに
∂
,
∂
¯
{\displaystyle \partial ,{\bar {\partial }}}
はドルボー作用素 である。函数
ρ
{\displaystyle \rho }
は ケーラーポテンシャル と呼ばれる。
逆に,ポアンカレの補題 を使えば、任意のケーラー計量は局所的にこのように表示できる。
すなわち、
(
K
,
ω
)
{\displaystyle (K,\omega )}
をケーラー多様体とすると、任意の点
p
∈
K
{\displaystyle p\in K}
に対して 、
p
{\displaystyle p}
の近傍
U
{\displaystyle U}
と函数
ρ
∈
C
∞
(
U
,
R
)
{\displaystyle \rho \in C^{\infty }(U,\mathbb {R} )}
が存在し、
ω
|
U
=
i
∂
∂
¯
ρ
{\displaystyle \omega \vert _{U}=i\partial {\bar {\partial }}\rho }
となる。このとき、
ρ
{\displaystyle \rho }
は (局所)ケーラーポテンシャル と呼ばれる。
ケーラー多様体とリッチテンソル
ケーラー多様体 K 上では、リッチテンソルは標準束 の曲率形式 を決定する(Moroianu 2007 , Chapter 12)。標準束とは正則余接束の外積
κ
=
⋀
n
T
1
,
0
∗
K
{\displaystyle \kappa ={\bigwedge }^{n}T^{1,0*}K}
である。ただし,
n
=
dim
K
{\displaystyle n=\dim K}
とする。K 上の計量についてのレヴィ・チヴィタ接続は、κ の上の接続を引き起こし、この接続の曲率は次によって定義される 2-形式である。
ρ
(
X
,
Y
)
=
def
Ric
(
J
X
,
Y
)
{\displaystyle \rho (X,Y)\,{\stackrel {\text{def}}{=}}\,\operatorname {Ric} (JX,Y)}
ここに J は K の複素構造 とする。リッチ形式は閉 2-形式であり、そのコホモロジー類 は、実数の定数倍を除いて、標準束の第一チャーン類 である。従って、(X がコンパクトであれば、)K のトポロジーと複素構造のホモトピー類 にのみ依存するという意味で、位相不変量である。
逆に、リッチ形式はリッチテンソルと次の式により決定される。
Ric
(
X
,
Y
)
=
ρ
(
X
,
J
Y
)
{\displaystyle \operatorname {Ric} (X,Y)=\rho (X,JY)}
局所正則な座標 zα を使うと、リッチ形式は、
ρ
=
−
i
∂
∂
¯
log
det
(
g
α
β
¯
)
{\displaystyle \rho =-i\partial {\overline {\partial }}\log \det(g_{\alpha {\overline {\beta }}})}
で与えられる。ここに
∂
{\displaystyle \partial }
はドルボー作用素 で
g
α
β
¯
=
g
(
∂
∂
z
α
,
∂
∂
z
¯
β
)
{\displaystyle g_{\alpha {\overline {\beta }}}=g\left({\frac {\partial }{\partial z^{\alpha }}},{\frac {\partial }{\partial {\overline {z}}^{\beta }}}\right)}
である。
リッチテンソルがゼロとなると、標準バンドルは平坦であるので、構造群 (英語版 ) は特殊線形群 SL(n,C ) の部分群へ局所的に縮約することができる。しかしながらケーラー多様体は既に U(n) の中にホロノミー を持っているので、リッチ平坦 なケーラー多様体の(制限された)ホロノミーは SU(n) の中に含まれる。逆に、2n-次元のリーマン多様体の(制限された)ホロノミーが SU(n) を含むと、多様体はリッチ平坦なケーラー多様体となる(Kobayashi & Nomizu 1996 , IX, §4)。
ケーラー多様体上のラプラス作用素
⋆
{\displaystyle \star }
をホッジ作用素 とすると、微分可能多様体 X 上でラプラス作用素 を次のように定義することができる。
Δ
d
=
d
d
∗
+
d
∗
d
{\displaystyle \Delta _{d}=dd^{*}+d^{*}d}
ここに
d
{\displaystyle d}
は外微分形式 、
d
∗
=
−
(
−
1
)
n
k
⋆
d
⋆
{\displaystyle d^{*}=-(-1)^{nk}\star d\star }
とする。さらに X がケーラーであれば、
d
{\displaystyle d}
と
d
∗
{\displaystyle d^{*}}
は次のように分解される。
d
=
∂
+
∂
¯
,
d
∗
=
∂
∗
+
∂
¯
∗
{\displaystyle d=\partial +{\bar {\partial }},\ \ \ \ d^{*}=\partial ^{*}+{\bar {\partial }}^{*}}
そして、別のラプラス作用素が定義できる。
Δ
∂
¯
=
∂
¯
∂
¯
∗
+
∂
¯
∗
∂
¯
,
Δ
∂
=
∂
∂
∗
+
∂
∗
∂
{\displaystyle \Delta _{\bar {\partial }}={\bar {\partial }}{\bar {\partial }}^{*}+{\bar {\partial }}^{*}{\bar {\partial }},\ \ \ \ \Delta _{\partial }=\partial \partial ^{*}+\partial ^{*}\partial }
は、次の満たす。
Δ
d
=
2
Δ
∂
¯
=
2
Δ
∂
{\displaystyle \Delta _{d}=2\Delta _{\bar {\partial }}=2\Delta _{\partial }}
これらの事実より、次のホッジ分解 が得られる。(ホッジ理論 を参照)
H
r
=
⨁
p
+
q
=
r
H
p
,
q
{\displaystyle \mathbf {H^{r}} =\bigoplus _{p+q=r}\mathbf {H} ^{p,q}}
ここに
H
r
{\displaystyle \mathbf {H^{r}} }
は r-次調和形式 であり、
H
p
,
q
{\displaystyle \mathbf {H} ^{p,q}}
は X 上の {p,q}-次調和形式とする。すなわち、微分形式
α
{\displaystyle \alpha }
が調和形式であることと、各々の
α
i
,
j
{\displaystyle \alpha ^{i,j}}
が{i,j}-次の調和形式に属することとは同値である。
さらに、X がコンパクトであれば、
H
p
(
X
,
Ω
q
)
≃
H
∂
¯
p
,
q
(
X
)
≃
H
p
,
q
{\displaystyle H^{p}(X,\Omega ^{q})\simeq H_{\bar {\partial }}^{p,q}(X)\simeq \mathbf {H} ^{p,q}}
を得る。ここに
H
∂
¯
p
,
q
(
X
)
{\displaystyle H_{\bar {\partial }}^{p,q}(X)}
は
∂
¯
{\displaystyle {\bar {\partial }}}
-調和コホモロジー群とする。このことは、
α
{\displaystyle \alpha }
が {p,q}-次の微分形式であれば、ドルボーの定理 により、ただ一つの {p,q}-次調和形式が決定する。
h
p
,
q
=
dim
H
p
,
q
{\displaystyle h^{p,q}={\text{dim}}H^{p,q}}
をホッジ数と呼ぶとすると、
b
r
=
∑
p
+
q
=
r
h
p
,
q
,
h
p
,
q
=
h
q
,
p
,
h
p
,
q
=
h
n
−
p
,
n
−
q
.
{\displaystyle b_{r}=\sum _{p+q=r}h^{p,q},\ \ \ \ h^{p,q}=h^{q,p},\ \ \ \ h^{p,q}=h^{n-p,n-q}.}
が得られる。最初の左辺 br は r-番目のベッチ数 であり、第二の等号はラプラス作用素
Δ
d
{\displaystyle \Delta _{d}}
が実作用素
H
p
,
q
=
H
q
,
p
¯
{\displaystyle H^{p,q}={\overline {H^{q,p}}}}
であることから来て、最後の等号はセール双対性 から結果を得る。
応用
ケーラー多様体は、リッチテンソル が計量テンソル に比例する、つまりある定数 λ に対し
R
=
λ
g
{\displaystyle R=\lambda g}
である場合に、この計量を ケーラー・アインシュタイン (あるいはアインシュタイン・ケーラー)計量と呼ぶ。この命名はアインシュタイン の宇宙定数 について考えたことにちなむ。さらに詳しくはアインシュタイン多様体 の項目を参照のこと。
アインシュタイン性は、リーマン多様体についても定義できる。X がケーラーであれば、クリストフェル記号
Γ
β
γ
α
{\displaystyle \Gamma _{\beta \gamma }^{\alpha }}
がゼロとなり、リッチテンソルが非常に簡素化される。従って、ケーラー条件はリッチテンソルと深く関係する。事実、オーバン(Thierry Aubin)とヤウ(Shing-Tung Yau)は、チャーン類 が c1 = 0 であるコンパクトなケーラー多様体 は唯一のリッチ平坦な計量が各々のケーラー類にあることを使いカラビ予想 を証明した。しかし、ケーラー多様体が非コンパクトの場合は、さらに状況が複雑になり、いくつかの研究はあるものの最終的な結果はえられていない。
例
標準的なエルミート計量を入れた複素ユークリッド空間 C n はケーラー多様体である。
トーラス C n /Λ (Λ は格子 点全体とする)は C n のユークリッド計量を引き継ぐので、コンパクト なケーラー多様体である。
リーマン面 上のすべてのリーマン計量は、形式 ω が閉であるという条件が実2-次元では自明であるので、ケーラーである。
複素射影空間 CP n は等質な(homogeneous)なケーラー計量を持り、フビニ・スタディ計量 と呼ばれる。(ベクトル空間)C n + 1 のエルミート形式は、GL(n + 1,C) のユニタリな部分群 U(n + 1) であり、フビニ・スタディ計量はそのような U(n + 1) 作用の不変性によりホモセティ(スケーリングを渡る)を同一視して、決定される。基本的な線形代数により任意の2つのフビニ・スタディ計量は CP n の射影的な自己同型の下に等長(isometric)であるので、すべてを総称して「フビニ・スタディ計量」という。
ケーラー多様体の複素部分多様体 上に誘導される計量はケーラーである。特に、任意のシュタイン多様体 (C n へ埋め込まれた)もしくは射影的代数多様体 (CP n へ埋め込まれた)はケーラータイプである。このことは解析的理論でも基本的である。
複素単位球(ball) B n は,負定正則断面曲率 を持つベルグマン計量 と呼ばれる完備 ケーラー計量を持つ。
すべてのK3曲面 はケーラーである。(Y.-T. Siuの定理)
ケーラー多様体の部分クラスとして重要なクラスにカラビ・ヤウ多様体 がある。
関連項目
参考文献
^ a b c Cannas da Silva, Ana (2008). Lectures on Symplectic Geometry . Springer. ISBN 978-3540421955
Deligne, P.; Griffiths, Ph.; Morgan, J.; Sullivan, D., (1975), “Real homotopy theory of Kähler manifolds”, Invent. Math. 29 : 245–274, doi :10.1007/BF01389853
Kähler, E. (1933), “Über eine bemerkenswerte Hermitesche Metrik”, Abh. Math. Sem. Hamburg Univ. 9 : 173-186, doi :10.1007/BF02940642
Hartshorne, Robin (1977), Algebraic Geometry , Berlin, New York: Springer-Verlag , ISBN 978-0-387-90244-9 , MR 0463157 , OCLC 13348052
Alan Huckleberry and Tilman Wurzbacher, eds. Infinite Dimensional Kähler Manifolds (2001), Birkhauser Verlag, Basel ISBN 3-7643-6602-8 .
Moroianu, Andrei (2007), Lectures on Kähler geometry , London Mathematical Society Student Texts, 69 , Cambridge University Press , ISBN 978-0-521-68897-0 , MR 2325093
Andrei Moroianu, Lectures on Kähler Geometry (2004), http://www.math.polytechnique.fr/~moroianu/tex/kg.pdf
André Weil , Introduction à l'étude des variétés kählériennes (1958)
外部リンク