エレクトラ (路面電車車両)
エレクトラ(Elektra)は、チェコのシュコダ・トランスポーテーションが展開する路面電車車両ブランドの1つ。車内の一部が低床構造になっている部分超低床電車で、チェコ、アメリカ、イタリア、ポーランドなど世界各地の路面電車路線に導入されている[2][3][1]。 概要開発までの経緯1997年にチェコ各地で使用されていた路面電車車両・タトラT3の更新工事で路面電車市場に参入したシュコダ・トランスポーテーションは、翌1998年から部分超低床電車である03T "アストラ"の製造を開始した[注釈 1]。その後、2000年から北米市場向けの10Tの製造が行われた一方、2003年には5車体連接車の05T "ヴェクトラ"が試作され、その試験結果は2005年から製造された06Tや14T以降に製造された車両に活かされた。これらのうち、03T"アストラ"と05T"ヴェクトラ"を除いた部分超低床電車は、2019年現在纏めて"エレクトラ"と言うブランド名で呼ばれている[1][5][6]。
構造編成は台車を有する車体と台車を有さないフローティング車体の2種類によって構成され、そのうちフローティング車体は床上高さ350 mmの低床構造となっている。車体は耐腐食性を高めた構造となっており、特に腐食し易い側面や屋根や乗降扉付近はステンレス鋼で作られている他、車体の前後の梁はガラス繊維を含む複合素材によって作られた支持フレームによって構成される[3]。 車内はメンテナンスの容易さと快適性の両立を考慮した設計で、車内に案内表示装置や乗務員と連絡可能なインターホンを設置する事も可能である。乗降扉はスライド式の両開き構造で、下部には収納式のスロープが設けられている。扉の開閉を乗客に示す照明やアラームの設置、開閉の半自動化も可能である。全形式とも運転台に冷暖房を完備した空調装置が設置されている一方、車内については06T、10T、19Tが冷暖房双方に対応している一方、それ以外の形式については暖房のみが設置されており、夏季は強制換気による温度調節が実施される[3]。 台車は車軸を有するボギー台車を用い、車軸と平行に固定された2基の三相誘導電動機によって駆動する他、電気ブレーキ、電気油圧式ディスクブレーキ、レールブレーキなど各種制動装置も搭載されている。ただし回転軸が存在せず、台車は車体に固定された状態となる[3]。 低床構造を採用しているため、制御装置を始めとする主要機器の多くは屋根上に設置されており、機器の筐体内への収納や制御装置のユニット化など、メンテナンスの簡素化を図っている。台車に設置された非同期電動機はIGBT素子を用いたVVVFインバータ制御方式によって制御され、回生ブレーキと併せてエネルギー消費の削減が実現している。また、空調装置や電動機、制御装置用のファンに用いられる補助電源装置は二重化を前提にした設計となっており、一方に障害発生した場合、出力の制限はあるが他の装置から電力が供給されるようになっている。これらの機器の制御や自動診断はマイクロプロセッサによって自動的に行われる[3]。
06T概要イタリア・サルデーニャ島の都市であるカリャリには、既存の鉄道路線を転換し2008年から営業運転を開始したライトレール路線のカリャリ・ライトレールが存在する。その開通に先立ち、2006年から2007年にかけて9編成(CA01-CA09)が導入された最初の車両が、シュコダ・トランスポーテーション製の06Tである[7][8]。 両運転台式の5車体連接車で、集電装置が設置されている中間車体の台車は回転軸を備えた付随台車である。サルデーニャ島の気候に対応するため車内には冷房・暖房双方の機能を有する空調装置が完備されている他、車体も長寿命かつ信頼性の向上を意識した設計が用いられる。車内の低床部分には車椅子やベビーカー用のフリースペースが計2箇所設置されており、編成全体の低床率は70%である[9][10][11]。 諸元
10T03T "アストラ"を基に、アメリカの路面電車向けに強度の増加を始めとした仕様変更を施した両運転台式の3車体連接車。シュコダとイネコン・トラムの合弁事業として1998年から2000年の間に製造され、ポートランド・ストリートカー、オレンジライン(旧:タコマ・リンク)に導入された。当初は"アストラ"と言うブランド名だったが、2019年現在は"エレクトラ"の一部として展開が行われている[12][13][14]。 →「シュコダ10T」も参照
13T概要チェコのブルノ市電へ導入された、片運転台式の5車体連接車。全台車が動力台車となっており、編成全体の低床率は48%である[15][16]。 2007年に試作車2編成(1901、1902)が導入されて以降、2016年までに49編成(1901-1949)が導入されているが、製造年によって以下の設計変更が行われている。また、下記に加えて2016年に製造された車両には冬季の熱損失の削減を目的とした乗降扉の自動閉鎖機能[注釈 2]が搭載され、それ以前に製造された車両についても2017年までに設置されている[17]。
諸元
14T概要チェコの首都であるプラハ市内を走るプラハ市電向けに製造された形式。流線型の車体はポルシェデザインによって"時代の超越性"をテーマにデザインされたもので、衝突時の安全性も考慮した設計となっており、以降に展開されたエレクトラ(13T、16T、19T)の多くも同様の車体が用いられている。最大80‰の急勾配が存在するプラハ市電の線形に合わせて制動装置が強化され、最大最大85‰の上り勾配を走る事が可能である[20][21]。 2005年に試作車2編成が登場した後、翌2006年から営業運転に投入された。2009年までに60編成(9111 - 9170)が導入されたが、一部が事故で廃車となり、残りの編成についても台枠の亀裂が原因で2015年に全編成とも運用から一時的に離脱した。それ以前からブレーキの故障や雨水の排水能力不足などの不具合が指摘されていた事から旧ソビエト連邦の路面電車への売却も検討されたが、最終的に修繕も兼ねた更新工事を行う事になり、亀裂の要因となった連接部分の修繕、座席の交換、塗装変更などの工程を経て2019年までに運用に復帰した。同年現在、57編成が使用されている[1][22][23][24][25]。 諸元
16T概要2006年にポーランド・ヴロツワフでヴロツワフ市電を運営するヴロツワフ市交通会社から発注が行われた形式。14Tを基にした片運転台式の5車体連接車だが、勾配が少ないヴロツワフの条件に合わせて中央車体の台車が電動機を持たない回転軸付きの付随台車に変更され、これにより低床率が65%に拡大した[5][26][27]。 2007年3月23日から営業運転を開始し、同年中に17編成(3001-3017)が導入されている。それに先立ち、従来の車両よりも車幅が広い16Tに合わせて一部の停留所のプラットホームの移設が実施された。2020年以降はサーツ(Saatz)による更新工事が進んでおり、塗装変更、窓や集電装置、座席の布張りの交換といった工程が2022年まで実施される予定となっている[5][28]。 諸元
19T概要ヴロツワフ市電の路線延長に備え、16Tを基に製造された、両運転台式の5車体連接車。終端に方向転換用のループ線を持たない路線向けに設計が行われ、乗降扉も車体両側面に設置されている。2010年から2011年までに31編成(3101-3131)が導入されている[29][30][31]。 諸元
関連項目脚注注釈出典
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