インド政府 (インドせいふ、英語 : Government of India )は、インド の中央政府 。インド憲法 によって設置され、28の州 と9つの連邦直轄領 をまとめている。首都ニューデリー に政府機能がある。
基本構造
州をまとめるためにウェストミンスター・システム を採用している[ 2] 。連邦政府は行政府 、立法府 、司法府 の3部門で構成されており、憲法によって行政権 が首相 、立法権 が国会 、司法権 が最高裁判所 に付与されている。大統領 は国会の上下両院議員と州議員の投票によって選出され、国家元首 とインド軍 最高指揮官 を務めるが、政治の実権はない。一方、首相 は行政府の長として国会に対して責任を持つ(議院内閣制 )。国会は二院制 を採用しており、上院 のラージヤ・サバー が250議席、下院 のローク・サバー が545議席である[ 1] 。裁判所は最高裁判所 の下に24の高等裁判所、その下に複数の地方裁判所があり、特別裁判所 は設けられていない[ 4] 。
法令分野は憲法によって連邦政府リスト、州政府リスト、連邦政府および州政府リストの3つに分けられており[ 5] 、民法 や刑法 、民事訴訟法 や刑事手続法 などは連邦政府リストに載せられている[ 6] 。イギリスの植民地であった背景から、法体系にはコモン・ロー を採用しているが、重要法令については成文法 で定められている[ 5] 。
立法府
ニューデリーにある国会議事堂
国会 は、インド政府の立法府 である。ラージヤ・サバー (上院 )とローク・サバー (下院 )からなる両院制 をとっている。上院は州代表としての性格を持ち、議員は大統領による指名または州議会による選出によって任命される。一方、下院は人民の代表としての性格を持つ[ 7] [ 8] 。
下院議員選出選挙は全国規模で行われ、基本的には選挙区民による小選挙区制での直接選挙で選出される。ただし、545名中2名はアングロ・インディアン社会の代表者とされ、該当者が選出されなかった場合にはアングロ・インディアン社会の代表者が指名する。また、指定カースト (Scheduled Castes:SCs)と指定部族 (Scheduled Tribes:STs)にはあらかじめ排他的に議席が割り当てられている。
この国会は議会主権 を持っているわけではなく、法案は最高裁判所 による司法審査 を受ける必要がある[ 10] 。その一方、議院内閣制 を採用しているために、内閣を通じて行政権に影響を与えることができる[ 11] 。インド憲法では、内閣は下院ローク・サバーに対して責任を持つ[ 12] 。下院には解散があり、上院には解散がない。下院議員の任期は5年、上院議員の任期は6年であり、上院議員は2年ごとに3分の1が改選される[ 7] [ 13] 。
行政府
行政 に関して、市民の日常生活に関わる部分は州政府が担っており連邦政府との権力分立 が図られている[ 14] 。
大統領
第15代大統領ドラウパディ・ムルム
憲法53条1項は、名目上行政権を主として大統領 に与えている。実質的な行政権は首相 が保持しており、大統領は首相の助言に従って執政を行う。
行政権は閣僚会議(内閣)に属するが、首相と閣僚の任命は大統領が行う。一方で、閣僚会議は下院に対して連帯して責任を負う。もし仮に大統領が自らの意思によって閣僚会議を解散させようとするならば、憲政の危機となる。そのため実務上、閣僚会議は政権与党が下院の多数派を占めている限りは解散されない。
大統領には、政府内で高官を指名する責任を付与されている。例えば、29州の州知事や連邦直轄領 行政官、最高裁判所判事、高等裁判所判事、司法長官、全国選挙管理委員長と管理委員などの任命が責務として定められている[ 15] [ 16] 。
また、国家元首 として他国の特命全権大使 からの信任状 の奉呈を受ける。一方、他のコモンウェルス 諸国の高等弁務官 からの信任状の奉呈は首相 が受ける。
また、インド軍 の憲法上の最高指揮官 でもある[ 17] 。
さらに、犯罪者に対する恩赦 も行うことができる。この恩赦の決定は大統領が首相・議会から独立して行うことができる。しかし、実際には首相の助言によって行われる[ 18] 。2022年現在の大統領はドラウパディ・ムルム である。
副大統領
副大統領は、インド政府第2位の官職であり、大統領不在のときには代理を務める。また、上院ラージヤ・サバー の議長を務めることが憲法上定められている[ 19] 。副大統領は議会両院による選出委員会による秘密選挙によって選出される。
首相
大統領官邸ラシュトラパティ・バワン と、隣接する首相官邸、内閣官房、国防省庁舎。
首相 はインド憲法 によって行政府の長と定められ、大統領 を補佐し、閣僚会議(内閣)を率いる。基本的には、議会多数派の政権与党党首が務める。
議院内閣制において行政権を担う内閣の長として、首相は他の大臣の任命、罷免を行うことができる。また、内閣の長として議会に提出する法案の内容に責任を持つ。首相が辞任または任期中に死亡した場合、内閣は解散する。
首相の任命は大統領が行い、首相は大統領の執務を補佐する。
内閣、大臣、その他の行政組織
閣僚会議(内閣)は、首相と各大臣によって構成される[ 20] 。全ての大臣が国会議員であることが憲法上定められている。内閣の長は首相であり、官房長官が補佐する。首相以外の各大臣は内閣を構成すると同時に、省庁の長でもある。ただし、大臣には閣内大臣(cabinet ministers)と閣外大臣(ministers of state)がおり、内閣は閣内大臣のみで構成される。閣外大臣は省庁を監督する閣外専管大臣(Ministers of State (Independent Charges))と閣内大臣を補佐する閣外大臣(MoS:Minister of State)で構成される[ 21] 。また、閣外大臣は閣内大臣に対しての報告義務があるが、閣外専管大臣は単独で職務を行うことができる。
中央省庁
インドには、以下の中央省庁が存在する。
インドの中央省庁[ 22] [ 23]
省庁名
英称
長の名称
農業・農民福祉省
Ministry of Agriculture & Farmers' Welfare
農業・農民福祉大臣
AYUSH省
Ministry of AYUSH
AYUSH大臣
化学・肥料省
Ministry of Chemicals and Fertilizers
化学・肥料大臣
民間航空省 (英語版 )
Ministry of Civil Aviation
民間航空大臣
石炭省 (英語版 )
Ministry of Coal
石炭大臣
商工省 (英語版 )
Ministry of Commerce and Industry
商工大臣
通信省 (英語版 )
Ministry of Communication
通信大臣
消費者問題・食料・公共配給省 (英語版 )
Ministry of Consumer Affairs, Food and Public Distribution
消費者問題・食料・公共配給大臣
企業省 (英語版 )
Ministry of Corporate Affairs
企業大臣
文化省 (英語版 )
Ministry of Culture
文化大臣
国防省
Ministry of Defence
国防大臣
北東地域開発省 (英語版 )
Ministry of Development of North Eastern Region
北東地域開発大臣
地球科学省 (英語版 )
Ministry of Earth Sciences
地球科学大臣
電子工学・通信技術省 (英語版 )
Ministry of Electronics and Information Technology
電子工学・通信技術大臣
環境・森林・気候変動省 (英語版 )
Ministry of Environment, Forest and Climate Change
環境・森林・気候変動大臣
外務省
Ministry of External Affairs
外務大臣
財務省
Ministry of Finance
財務大臣
食品加工産業省 (英語版 )
Ministry of Food Processing Industries
食品加工産業大臣
保健・家族福祉省 (英語版 )
Ministry of Health and Family Welfare
保健・家族福祉大臣
重工業・公営企業省 (英語版 )
Ministry of Heavy Industries and Public Enterprises
重工業・公営企業大臣
内務省
Ministry of Home Affairs
内務大臣
住宅・都市問題省 (英語版 )
Ministry of Housing and Urban Affairs
住宅・都市問題大臣
教育省 (英語版 )
Ministry of Education
教育大臣
情報・放送省 (英語版 )
Ministry of Information and Broadcasting
情報・放送大臣
労働・雇用省 (英語版 )
Ministry of Labour and Employment
労働・雇用大臣
法務省 (英語版 )
Ministry of Law and Justice
法務大臣
零細・中小企業省 (英語版 )
Ministry of Micro, Small and Medium Enterprises
零細・中小企業大臣
鉱業省 (英語版 )
Ministry of Mines
鉱業大臣
マイノリティ省 (英語版 )
Ministry of Minority Affairs
マイノリティ大臣
新・再生可能エネルギー省 (英語版 )
Ministry of New and Renewable Energy
新・再生可能エネルギー大臣
パンチャーヤト省 (英語版 )
Ministry of Panchayati Raj
パンチャーヤト大臣
議会問題省 (英語版 )
Ministry of Parliamentary Affairs
議会問題大臣
人事・苦情処理・年金省 (英語版 )
Ministry of Personnel, Public Grievances and Pensions
人事・苦情処理・年金大臣
石油・天然ガス省 (英語版 )
Ministry of Petroleum and Natural Gas
石油・天然ガス大臣
電力省 (英語版 )
Ministry of Power
電力大臣
鉄道省
Ministry of Railways
鉄道大臣
陸運・国道省 (英語版 )
Ministry of Road Transport and Highways
陸運・国道大臣
農村開発省 (英語版 )
Ministry of Rural Development
農村開発大臣
科学技術省 (英語版 )
Ministry of Science and Technology
科学技術大臣
海運省 (英語版 )
Ministry of Shipping
海運大臣
技能開発・起業促進省 (英語版 )
Ministry of Skill Development and Entrepreneurship
技能開発・起業促進大臣
社会正義・エンパワーメント省 (英語版 )
Ministry of Social Justice and Empowerment
社会正義・エンパワーメント大臣
統計・事業実施省 (英語版 )
Ministry of Statistics and Programme Implementation
統計・事業実施大臣
鉄鋼省 (英語版 )
Ministry of Steel
鉄鋼大臣
繊維省 (英語版 )
Ministry of Textiles
繊維大臣
観光省 (英語版 )
Ministry of Tourism
観光大臣
部族問題省
Ministry of Tribal Affairs
部族問題大臣
ジャル・シャクティ省 (英語版 )
Ministry of Jal Shakti
ジャル・シャクティ大臣
女性・児童開発省 (英語版 )
Ministry of Women and Child Development
女性・児童開発大臣
青年問題・スポーツ省 (英語版 )
Ministry of Youth Affairs and Sports
青年問題・スポーツ大臣
司法府
インドの司法制度はイギリス植民地時代のものを踏襲した英米法 体系を使用している[ 5] 。
アメリカ合衆国とは異なり、インドの司法体系は全国で統一されており、州裁判所は存在しない。そのため、裁判所の管轄権は全国を管轄する最高裁、州を管轄する高等裁判所、州より下の行政単位を管轄する地方裁判所となっている。
最高裁判所
インド最高裁判所
最高裁判所 は首都ニューデリー に位置しており、主席裁判官(chief justice)と30人の裁判官で構成される。最高裁判所裁判官はコレギウム(主席裁判官、4人の最先任最高裁判所裁判官、及び被任命者に予定されている最先任の高等裁判所裁判官からなる、非公開の協議体)の推薦に基づいて大統領によって最高裁判所に任官される[ 25] 。
主席裁判官には、第一審管轄権、上訴管轄権、諮問権限、記録裁判所の権限が与えられている。さらに、大統領の承認のもと、裁判所内部の不正調査のための役員の指名や、裁判の実施方法・手続きの決定も行うことができる。また、大統領や副大統領への調査権限も憲法から与えられている。
地方政府
インドの州 にはそれぞれ州政府がおかれ、州知事 (英語版 ) (the Governer)が形式上の行政権を持つが、実質的な行政権限は州主席大臣(Chief Minister)と州閣僚大臣(the Council of Ministries)が持つ。州議会は5つの州で両院制、その他の州では一院制を採用している。州議会議員の任期は国会議員と同じく、下院が5年、上院が6年でうち3分の1が2年ごとに改選である。
連邦直轄領 は中央政府の支配下にあり、大統領によって任命される行政官を通じて統治される。
脚注
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出典
外部リンク