イランイランノキ
イランイランノキ(学名: Cananga odorata)は、バンレイシ科イランイランノキ属に分類される樹木の1種である。東南アジア原産であるが、世界中の熱帯域で栽培され、香料や材、観賞用に利用されている。特に花から抽出される精油はさまざまな香水に使用され、またアロマテラピーにも用いられている。低木から高木であり、葉は互生、葉腋から垂れ下がって咲く花は最初は緑色だが黄色くなり、強い匂いを放つ(図1)。 「イランイラン(ylang ylang)」の名はタガログ語で「花の中の花」を意味する alang-ilang に由来し、また属名の Cananga は、インドネシアのアンボン島での現地名 kananga に由来する[5][6][4][7]。 特徴低木から高木、ふつう高さ6–18メートル (m) だが、大きなものは 33 m になる[2][8](下図2a)。樹皮は平滑で明灰色(下図2b)、枝は横に伸び(下図2a)、小枝は褐色で若いときには毛があるが、後に無毛となる[2][4][8][9]。 葉は2列互生する[8](下図2c)。葉柄は長さ1–2センチメートル (cm)、狭い溝がある[8]。葉身は狭卵形から長楕円形、9–23 × 4-14 cm、先端は鋭形から鋭尖形、基部は鈍形から切形(つまり次第に狭まるのではなく、急に葉柄につながる)でときに左右非相称、葉脈は羽状で側脈は7–15対、葉質は膜質から薄い紙質、葉脈上に毛がある[2][8](下図2c)。 花序は1個から数個の花からなり、腋生または短い枝の先端につき、花序柄は長さ2-5ミリメートル (mm)、苞は小さく早落性[4][8](下図2d)。花には甘い香りがあり、垂れ下がって咲き、花柄は長さ 1–5 cm、有毛、小苞がある[4][2][8](下図2d)。萼片は3枚、卵形で先端は鋭く尖り、長さ 5–7 mm、軟毛で覆われ、基部で合着、最初はつぼみを囲んでおり、開花時には反り返る[4][8](下図2d)。花弁は6枚、狭披針形で長さ 5-8 cm、幅 0.5-1.8 cm、線状披針形で基部はやや細く、先端は細長く尖り、また不規則に曲がりくねる[4][8](下図2d, e)。最初は緑色であり、次第に黄色に変わり、基部に紫褐色の斑紋がある[2][8]。花の開花後にも花弁が成長し、成長が止まって黄色く萎える頃に匂いが強くなる[7]。雄しべは多数、長楕円形で長さ 0.7–2 mm、葯隔先端は円錐状、花の中心にある雌しべを囲んでおり、黄色[4][8](下図2e)。雌しべは10-12個、黄緑色、有柄、長さ約 4 mm、若い時期は有毛で後に無毛、柱頭は棍棒状で互いに密着し、向軸側にU字型の溝がある[4][8](下図2e)。 1個の雌しべに由来する各果実は球形から楕円形の液果、長径 1.5-2.3 cm、黒色に熟し、長さ 1.5-2 cm の柄をもち、球状にまとまって集合果を形成する[2][4][8](上図2f)。種子は各果実に2-12個、およそ 9 × 6 mm、淡褐色、表面に紋様がある[2][4][8]。染色体数は 2n = 16[10]。 分布・生態インド、東南アジアからオーストラリア北部まで自生状態で生育しているが[2][4]、古くから植栽されているため、真の自生地は明らかではない[7]。他にもアフリカや中南米、中国南部、ミクロネシアなどで植栽されており、逸出帰化していることもある[2][4]。 熱帯の多雨林や雨緑林に生育している[4]。先駆種(植生遷移における初期段階に入り込む)としての性質ももち、人家付近や路傍で見られることもある[4]。成長も早く、1年で 2 m 以上伸びることもある[4]。 栽培下では、高さ 9–12 m に達すると花をつけるようになる[4]。多雨地域では、1年中花・果実をつけるが、乾期がある地域では、季節性を示す[4]。中国では、花期は4月から8月、果期は10月から3月である[8]。 果実は鳥やリス、コウモリ、サルに食べられ、種子散布される[4]。 人間との関わりイランイランノキは、精油や木材の利用のため、また観賞用に世界中の熱帯域で広く植栽されている[4]。 精油イランイランノキの花から得られる精油(下図3a)は、香料として広く利用されている。シャネルのN°5(下図3b)、ゲランのサムサラなどの香水に使用されており[11]、また化粧品、石鹸、キャンドルなどにも使用される[12]。香りはとても強く、濃厚な甘さと、スパイシーさがある[6][13]。香りの成分構成には変化があるが、一般的にゲルマクレンD(17%)、酢酸ベンジル(12%)、リナロール(9%)、p-クレジルメチルエーテル(8%)、α-ファルネセン(8%)、β-カリオフィレン(5%)、安息香酸メチル(5%)、安息香酸ベンジル(5%)、酢酸ゲラニル(4%)、酢酸シンナミル(4%)、ゲラニオール、酢酸リナリル、メチルオイゲノール、アンスラニル酸メチル、ネロリドールなどからなる[13][14]。品種ゲニュイナ(f. genuina)から得られたものはイランイラン油(ylang-ylang oil)、品種マクロフィラ(f. macrophylla)から得られたものはカナンガ油(cananga oil)とよばれ、後者の方がエステル類が少なくセスキテルペンが多く、価格が半分以下である[6][13]。 花は早朝に摘み取られ、ふつう水蒸気蒸留によって精油が抽出される[13][11][6](下図3c)。長時間かけて蒸留されるが、早く溜出されるものから、エクストラグレード(特級、15%)、ファーストグレード(1級、15%)、セカンドグレード(2級、23%)、サードグレード(3級、47%)に分けられ、またファーストグレード以下はまとめてcompleteとよばれることもある[6][13][14][12]。また0-30分に抽出されるスーパーエクストラ、30–60分に抽出されるエクストラ、1–6時間に抽出されるサードに分けることもある[11]。後溜になるほどセスキテルペン類が多くなり、香気が弱くなる[14][13]。一方、有機溶剤抽出法で得られた精油(アブソリュート)も、ディオールのディオリシモなどに使われている[6]。 イランイランノキの精油は、近年ではアロマテラピーでも広く使われている。興奮、陶酔の作用、抗抑鬱作用、催淫作用があるとされる[15][12][5]。インドネシアでは、新婚夫婦のベッドの上にイランイランの花を散らす風習がある[5]。科学的にはリラックス作用ではなく刺激作用が確認され、香りの吸引で鬱状態が軽減される可能性がある[16]。強い香りは悪心や頭痛を引き起こす場合がある[要出典]。精油には高い皮膚感作性が認められている[16][17]。化粧品・医学部外品成分の香料の中で、イランイラン油はアレルゲン陽性率が高い[18]。 20世紀末頃に生産量が多かった地域は、中国の広東省、インドネシア、コモロ、フィジー、マダガスカルであった[4]。 その他イランイランノキは木材として利用されることがあるが、耐久性は低い[4]。スラウェシ島では、樹皮がロープとして使用されることがある[4]。 イランイランノキは、熱帯域では街路樹や庭木として植栽される[4](図4)。またその生花は、伝統的な儀式や祭り、祝い事での装飾に用いられることがある[4]。 おでき、脳痛、下痢、痛風、マラリア、眼病、リウマチの治療、駆風薬、通経薬として利用されることがある[4]。 脚注出典
外部リンク
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