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アトランティックスティングレイ (学名:Hypanus sabinus )は、トビエイ目 アカエイ科 の一種。チェサピーク湾 からメキシコ までの北アメリカ の大西洋 岸に分布する。吻部は同地域のアカエイ科の中では比較的長い。食用としての需要は少なく、アクアリウム で飼育される事がある[ 3] 。
分類
フランス の博物学者 シャルル・アレクサンドル・ルスール によって、1817年のアカデミーのフロリダ 遠征中にアメリカの博物学者ティティアン・ピール が採集した傷のある雄の標本に基づき、1824年のフィラデルフィア自然科学アカデミー雑誌において Trygon sabina として記載された[ 4] 。それ以来、多くの研究者によって Pastinaca 、Dasybatus (またはDasibatis およびDasybatis )、Amphotistius 属などとされてきたが、最終的にこれらはすべて Dasyatis 属のシノニムとされた[ 5] 。
2001年のLisa Rosenbergerによる形態学 に基づく系統解析 によると、本種は属の中でも基部 の種であり、アメリカアカエイ (H. americana )、Bathytosia centroura 、ザラザラエイ (H.guttatus )、Fontitrygon margaritella を含む大きなクレード の外群 である[ 6] 。
分布と生息地
砂泥底に生息する。
チェサピーク湾からフロリダ、メキシコ湾 を通り、メキシコのカンペチェ までの大西洋岸に分布する[ 3] 。グレナダ 、スリナム 、ブラジル での記録は誤認の可能性がある[ 3] 。淡水域に生息する個体もおり、ミシシッピ川 、ポンチャートレイン湖 、フロリダのセントジョンズ川 からの記録がある[ 7] 。セントジョンズ川水系の個体群は、北米で唯一恒常的に淡水域に生息する板鰓類の個体群である[ 8] [ 9] [ 10] 。
沿岸部の砂 やシルト 質の浅場、河口 、ラグーン に生息する[ 3] 。水温は15°以上を好み、30°以上であっても生存できる[ 8] 。暖かい水域を好むため、夏と秋はチェサピーク湾北部に生息し、冬には深場に移動する[ 8] 。沿岸部では水深2-6mの浅場に留まるが、沖合では、水深25mまで見られる[ 3] 。
形態
アカエイ科の中では小型で、最大体長は61cm、体重は4.9kg[ 3] 。体盤は横幅が若干長いスペード型で、角は丸く、前縁が凹む。吻部は比較的長い。口内に三つの乳頭突起がある。歯は丸く、表面は平らで尖っていない。繁殖期になると、交尾中に雌に噛みつく為、性成熟した雄の歯は湾曲し長く鋭くなる[ 8] 。尾は長く鞭状で、体盤幅の4分の1の長さの鋸歯状の毒棘がある。棘は毎年6月から10月の間に生え変わる[ 8] 。尾の前部には上下に鰭膜がある[ 7] 。
大型の個体は、背中の正中線に沿って尾棘起部まで結節や棘が並ぶ。大型の雌は目や気門の周囲に結節ができる場合もある。背面は茶色または黄褐色で縁は色が薄く、正中線に沿って暗い縞が入る個体もおり、腹面は白または明るい灰色[ 8] 。尾鰭の鰭膜は黄色がかっている。大型個体は尾の基部近くに灰色の斑点があり、体盤縁が暗色になる[ 7] 。
生態
仔エイ
主に二枚貝 、ハナギンチャク 、端脚類 、甲殻類 、ゴカイ などの底生 無脊椎動物 を捕食し、ロレンチーニ器官 で微弱な電気を感知し、獲物を発見する[ 8] 。地域によって餌は異なる。イタチザメ やオオメジロザメ などのサメ 、淡水域ではアメリカアリゲーター に捕食される[ 8] 。淡水域の個体には、皮膚粘膜を食べる鰓尾類 が寄生する[ 8] 。
淡水にも生息するが生理学 的には適応しておらず、 ポタモトリゴン科 の淡水エイ のような特殊な浸透圧調節機構は無い。淡水域への定着が比較的最近(100万年未満)であること、淡水の個体群が塩水でも生存できるため、遺伝的隔離が不完全であることが原因と考えられる。淡水の個体群の血液中の尿素 やその他のオスモライト の濃度は、海洋の個体群と比較して30-50%だが、体液 と外部環境の間の浸透圧 により水が流入してくる為、浸透圧調節 のために薄い尿を大量に(海洋の個体群の10倍)排出する[ 10] 。
胎生 であり、繁殖期は毎年9月か10月から4月にかけてだが、排卵 は3月下旬から4月上旬まで起こらない。雄は雌の後を追い、雌の体や鰭に噛みつき、体盤を掴んで交尾を行う。胚は生後60日目頃まで卵黄によって維持され、その後は子宮乳によって栄養を与えられる。4-4.5か月の妊娠期間を経て、7月下旬から8月上旬にかけて1-4匹の仔エイが生まれる[ 3] 。仔エイの体盤幅は10-13cm。海洋の個体群では雄が体盤幅20cmで、雌は体盤幅24cmで性成熟 する。淡水の個体群は雄が体盤幅21cmで、雌は体盤幅22cmで性成熟する[ 11] 。
人との関わり
踏むと毒棘に刺され、まれに生命に関わる傷を負う可能性がある。ノースカロライナ 沖のヒラメ を対象とした刺し網 で混獲 されるが、そのほとんどは生きたまま放流される。娯楽用および商業用のマス を対象とした刺し網、サメを対象とした流し網、沿岸トロール網 などで混獲されることもある。本種を対象とした漁業は無く、混獲による死亡率も低いと思われるため、IUCN は低危険種 と評価している。しかし淡水の個体群では、水質の悪化により健康状態と生殖能力が低下しているものもある[ 8] 。
脚注
^ Carlson, J.; Charvet, P.; Blanco-Parra, M.P.; Briones Bell-lloch, A.; Cardenosa, D.; Derrick, D.; Espinoza, E.; Furtado, M. et al. (2020). “Hypanus sabinus ” . IUCN Red List of Threatened Species 2020 : e.T60158A124445557. doi :10.2305/IUCN.UK.2020-3.RLTS.T60158A124445557.en . https://www.iucnredlist.org/species/60158/124445557 21 November 2023 閲覧。 .
^ Bailly, Nicolas (2017). "Hypanus sabinus (Lesueur, 1824)" . World Register of Marine Species . 2023年11月23日閲覧 。
^ a b c d e f g Froese, Rainer and Pauly, Daniel, eds. (2023). "Hypanus sabinus " in FishBase . November 2023 version.
^ Lesueur, C.A. (1824). “Description of several species of the Linnaean genus Raia, of North America”. Journal of the Academy of Natural Sciences of Philadelphia 4 (1): 100–121.
^ Bigelow, H.B. and W.C. Schroeder (1953). Fishes of the Western North Atlantic, Part 2 . Sears Foundation for Marine Research, Yale University. pp. 370–378.
^ Rosenberger, L.J.; Schaefer, S. A. (August 6, 2001). Schaefer, S. A.. ed. “Phylogenetic Relationships within the Stingray Genus Dasyatis (Chondrichthyes: Dasyatidae)”. Copeia 2001 (3): 615–627. doi :10.1643/0045-8511(2001)001[0615:PRWTSG]2.0.CO;2 . JSTOR 1448284 .
^ a b c McEachran, J.D. & Fechhelm, J.D. (1998). Fishes of the Gulf of Mexico: Myxiniformes to Gasterosteiformes . University of Texas Press. ISBN 978-0-292-75206-1
^ a b c d e f g h i j “Dasyatis sabina – Discover Fishes ”. FLORIDA MUSEUM. 2023年11月23日 閲覧。
^ Piermarini, P.M. & Evans, D.H. (1998). “Osmoregulation of the Atlantic Stingray (Dasyatis sabina ) from the Freshwater Lake Jesup of the St. Johns River, Florida”. Physiological and Biochemical Zoology 71 (5): 553–560. doi :10.1086/515973 . PMID 9754532 .
^ a b Johnson, Michael R.; Snelson Jr., Franklin F. (1996). “Reproductive Life History of the Atlantic Stingray, Dasyatis Sabina (Pisces, Dasyatidae), in the Freshwater St. Johns River, Florida” . Bulletin of Marine Science 59 (1): 76. http://www.ingentaconnect.com/content/umrsmas/bullmar/1996/00000059/00000001/art00005 .
^ Snelson Jr., F.F.; Williams-Hooper, S.E. & Schmid, T.H. (Aug 3, 1988). “Reproduction and Ecology of the Atlantic Stingray, Dasyatis sabina , in Florida Coastal Lagoons”. Copeia (American Society of Ichthyologists and Herpetologists) 1988 (3): 729–739. doi :10.2307/1445395 . JSTOR 1445395 .
関連項目
Hypanus sabinus Dasyatis sabina Trygon sabina