アシカ科

アシカ科
生息年代: 中新世現世
オーストラリアアシカ
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: 食肉目 Carnivora
亜目 : イヌ亜目 Caniformia
上科 : アザラシ上科 Phocoidea
: アシカ科 Otariidae
学名
Otariidae J.E.Gray1825

アシカ科は、鰭脚類に含まれる海生哺乳類の3つのの1つである(後述)。アシカオットセイトドオタリアなどを含む。otariid という学名はギリシャ語で「小さい耳」を意味する otarionに由来し[1]、耳の外に貼り出した部分(耳介)があるかどうかでアザラシとの区別ができる。

生態

アシカ科のどの種も、繁殖期にはハレム英語版を形成する。ハレムでは、ハレム・マスターあるいはビーチ・マスターとよばれる1頭のオスが、複数のメスを縄張りに囲い込んでいる。ハレム・マスターになれなかった「あぶれオス」はハレム周辺に群れをつくり、ときにはハレムのメスを誘拐することもある。魚を主食としているが、ときに地域的には学習によりペンギンなどを襲って食すこともある。

知能は高く、飼い慣らすと人間に非常に懐き簡単な芸を覚える事が出来る。後述の様に動物園や水族館で行われる『アシカのショー』は来園者に非常に人気がある。

ただし、不意に近づくと驚いて人間を襲う恐れがあるので危険である。

アザラシ科との違い

現生の鰭脚類は、アシカ科・アザラシ科(アザラシ)・セイウチ科(セイウチ)の3科に分かれる。オットセイトドオタリアは、いずれもアシカ科に含まれる。

アシカ科は、一見アザラシ科と似ているが、いくつか明確な相違点が見られる。形態的な特徴を知っていれば、アシカ科とアザラシ科の区別は容易である。

遊泳・歩行

アシカ科は後ろのひれを前に向けて歩行に役立てることができる。一方、アザラシ科は後ろのひれ(後肢)を前に向けることができず、陸上では体をうねらせて前進するしかない。だからアザラシ科は、アシカ科のように上体を高く起こすことはなく、常に腹ばいに伏した状態で前進する。

水中での遊泳方法が大きく異なる。アシカ科は前脚が発達しており、左右の前脚を同調させてが羽ばたくような動作で推進力を得る。この遊泳法では前脚が一種の翼として機能しており、前脚を振り下ろすときに翼面に揚力が発生して前方に引っ張る力が生じ、これによってアシカの体は水中を前進する。このアシカ類の遊泳方法は、ペンギンウミガメなどと基本的に同じである。一方、アザラシは後脚が発達しており、左右の後脚を交互に左右に煽って、あたかも魚類の尾びれのように用いて推進力を得る。

この遊泳方法に見られる形態の相違は、陸上での移動方法および歩行能力の違いにも現れている。アシカ科は強靭で長い前脚と前方に曲げることが可能な後脚とを用いて、身体を地面から持ち上げた状態で、比較的上手に陸上移動を行うことが可能である。

一方、アザラシ科の前脚は身体を支えて持ち上げる程には長くはなく、後ろ鰭(後脚)を前方に曲げることもできず、陸上では前脚で這いずるようにして移動することしかできない。

耳介

アシカ科には耳介(耳たぶ)がある。一方、アザラシ科には耳介がなく、耳孔が開いているだけである。

ただし、アシカ科の耳介も陸棲獣に比べれば小さく、通常は体にそって伏せられているので、あまり目立つものではない。

分類

海生哺乳類の中での位置づけ

海生の哺乳類には、それぞれ独立に進化してきた大きな3つの現生グループがある。すなわち、クジラ類(かつてのクジラ目)、ジュゴン目(海牛)、そして鰭脚類(= ネコ目アザラシ上科)である。このほかに、孤立した種としてラッコホッキョクグマ、すでに絶滅したごく小さなグループとして、束柱目がある。いずれも陸生の哺乳類から、水中の生活に再適応する形で分化した。

これらの海生哺乳類のうちで最大のグループは、現生、化石種を含めて見た場合でも、クジラ類に属するクジライルカの仲間であり、当初の生息場所である沿岸部から外洋への進出を果たしたこの動物群は、個体数の上でも、海の哺乳類の大部分を占めている。

なお、ジュゴンマナティは、鰭脚類とは別の海生哺乳類のグループであるジュゴン目に属する。これらは海生哺乳類としては唯一、草食(海藻食)の動物群である。イルカはさらに別のグループであるクジラ類に属する。ラッコカワウソは、裂脚類のイタチ科カワウソ亜科、ビーバーヌートリアカピバラネズミ目(齧歯類)の動物であり、いずれも、アシカやアザラシの仲間とは、系統的に特に近縁ではない。

上位分類

アシカやアザラシのグループである鰭脚類は、「目」ではなく「上科」の階層(アザラシ上科)としてとらえられている。鰭脚類の上位グループである「食肉目(ネコ目)」は、陸生肉食動物のグループである「裂脚類[要曖昧さ回避](現ネコ亜目及びイヌ亜目の陸生群)」と、そこから分化した海生肉食動物(主に魚食)のグループである鰭脚類とをまとめたものである。

鰭脚類は、アシカ科・アザラシ科セイウチ科の3つに分けられる。 このうちセイウチ科は、かつて北太平洋で最も繁栄した鰭脚類のグループであり、化石では10以上の属が確認されているが、現在は、巨大な牙(上顎犬歯)を発達させた現生のセイウチ(1属1種)しか生存していない。魚食が多い鰭脚類の中で、セイウチは貝類食に特化している。

セイウチを除くすべての現生鰭脚類は、アシカ科とアザラシ科に二分されるが、より水中での生活に適応したアザラシ類はアシカ類よりはるかに優勢であり、個体数で言えば、現生鰭脚類の約9割はアザラシ科が占めるとまで言われている。

かつては、血清学的な研究などから、アシカ類は裂脚類のクマ科に、アザラシはイタチ科に近く、陸生哺乳類の異なるグループからそれぞれが別々に分化してきたものとする説が優勢であり、両者を鰭脚類という同じグループにまとめるのも、単に便宜的な扱いに過ぎないとされていた。

しかし、その後の分子生物学的な研究などから、現在では、すべての鰭脚類は、単一の系統であると考えられている。化石の証拠から、祖先はクマに近縁な仲間であるアンフィキオン類であろう。

下位分類

現生のアシカ科は7属に分かれる。

伝統的には、これらの7属はアシカ亜科 Otariinae と、オットセイ亜科 Arctocephalinae に分けられてきた。その下位分類では、アシカ亜科は5属で構成され、それぞれが1種のみからなり、オットセイ亜科は2属で構成され、キタオットセイ属は北大西洋に生息するキタオットセイ C. ursinus1種のみからなり、ミナミオットセイ属は南半球に主に生息する8種からなるという分類がされていた[2]

オットセイ亜科(オットセイ)は豊かな下毛を持つが、アシカ亜科にはそれがなく皮がなめらかである。しかしそのほかに、一般性のある違いはない。世間で「アシカとオットセイの違い」として説明されているものは主に、アシカ属(特にカリフォルニアアシカ)とミナミオットセイ属の違いである。

近年の研究では、それまで見なされていたよりもアシカ亜科の種は系統学的に独立しており、例えば伝統的にカリフォルニアアシカ亜種と見なされていたニホンアシカは独立した種であったと見なされている。これらの研究結果を踏まえた場合、アシカ科は7属16種2亜種で構成されることになる[3][4]

系統

近年の分子系統学的な研究では、アシカ亜科・オットセイ亜科のいずれも、単系統性を否定された[5]キタオットセイはアシカ科の中で基底的である(最初に分岐した)一方、ミナミオットセイ属はオタリアニュージーランドアシカに近縁である[6]。またミナミオットセイ属自体が多起源であるとする説もあるが、2018年の研究ではミナミオットセイ属は単系統とされる[7]

次のような系統樹が得られている[7]

鰭脚類 Pinnipedia

アザラシ科 Phocidae

アシカ科

キタオットセイ Callorhinus ursinus

Otariinae

トド Eumetopias jubatus

カリフォルニアアシカ属

カリフォルニアアシカ Zalophus californianus

ガラパゴスアシカ Zalophus wollebaeki

Zalophus

オタリア Otaria flavescens

オーストラリアアシカ Neophoca cinerea

ニュージーランドアシカ Phocarctos hookeri

ミナミオットセイ属

ミナミアフリカオットセイ Arctocephalus pusillus

アナンキョクオットセイ Arctocephalus tropicalis

ナンキョクオットセイ Arctocephalus gazella

グアダルーペオットセイ Arctocephalus townsendi

フェルナンデスオットセイ Arctocephalus philippii

ニュージーランドオットセイ Arctocephalus forsteri

ガラパゴスオットセイ Arctocephalus galapagoensis

ミナミアメリカオットセイ Arctocephalus australis

Arctocephalus
Otariidae
セイウチ科 Odobenidae

 セイウチ Odobenus rosmarus

出典

  1. ^ “Otary, n., etymology of” The Oxford English Dictionary. 2nd ed. 1989. OED Online. Oxford University Press. http://dictionary.oed.com/ Accessed November 2007
  2. ^ J.E. King (1983). Seals of the World (2nd ed.). New York: Cornell University Press. ISBN 978-0702216947 
  3. ^ Brunner, S. (2003). “Fur seals and sea lions (Otariidae): identification of species and taxonomic review”. Systematics and Biodiversity 1 (3): 339–439. doi:10.1017/S147720000300121X. http://journals.cambridge.org/action/displayAbstract?aid=198243. 
  4. ^ "Otariidae" (英語). Integrated Taxonomic Information System. 2008年8月6日閲覧[リンク切れ]
  5. ^ Wynen, L.P. et al. (2001) Phylogenetic relationships within the eared seals (Otariidae: Carnivora): implications for the historical biogeography of the family. Mol. Phylog. Evol. 21, 270–284
  6. ^ Higdon, J.W. (2007) Phylogeny and divergence of the pinnipeds (Carnivora: Mammalia) assessed using a multigene dataset. BMC Evol Biol 2007, 7:216
  7. ^ a b Berta, Annalisa; Churchill, Morgan; Boessenecker, Robert W. (2018-05-30). “The Origin and Evolutionary Biology of Pinnipeds: Seals, Sea Lions, and Walruses”. Annual Review of Earth and Planetary Sciences (Annual Reviews) 46 (1): 203–228. Bibcode2018AREPS..46..203B. doi:10.1146/annurev-earth-082517-010009. ISSN 0084-6597.