ネムロコウホネ [ 注 2] (根室河骨、学名 : Nuphar pumila )はスイレン科 コウホネ属 に属する水草 の1種である。エゾコウホネ ともよばれる。ふつう水中にある沈水葉と水面に浮かぶ浮水葉をつけ、浮水葉は長さ6–17センチメートル (cm)、葉柄 が細い(図1)。花 は黄色、直径 1–4.5 cm、柱頭 盤は深く切れ込み、ふつう黄色だがときに赤色(図1)。ユーラシア 北部に広く分布しており、日本では北海道 から本州 北部で見られる[ 注 3] 。観賞用に栽培されることがあり、また薬用植物 としても用いられる[ 6] [ 7] 。
日本では、柱頭盤が赤いものを変種オゼコウホネ (Nuphar pumila var. ozeensis )として扱うことが多い。
特徴
多年生 の水生植物 であり、基本的に沈水葉と浮水葉をもつが、まれに抽水葉をつける[ 3] [ 4] [ 8] (下図2)。根茎は直径 1–3 cm[ 8] [ 9] 。沈水葉は膜質で広卵形から円心形、8–15 × 8–13 cm[ 4] [ 10] 。浮水葉は卵形から広卵形、11–22 × 8–15 cm、基部は深く切れ込み (3–6.3 cm)、側脈は10–21対、裏面にはときに細かい毛が密が生える[ 3] [ 8] [ 9] [ 10] (下図2b, c)。葉柄 は直径1–5ミリメートル (mm)[ 8] 。
花期は夏 (日本では7–8月)、花 は直径 1–4.5 cm[ 3] [ 4] [ 9] 。花柄 は長さ 40–50 cm、直径 2.5-5.5 mm[ 8] [ 9] 。萼片 は5枚、1–2.5 cm、黄色[ 3] [ 9] (下図3a, b)。花弁 は多数、5–7 mm、黄橙色[ 8] [ 9] (下図3b)。雄しべ の葯 は黄色、長さ 1.5–4 mm、花糸 は葯の2–3倍長[ 3] (下図3a, b)。柱頭 は8–14個[ 8] (15–20個との記述あり[ 4] )、柱頭盤の色はふつう黄色だがときに赤色、直径 4–7.5 mm、深く切れ込んで星形、中央の窪みの中にしばしば突起がある[ 3] [ 4] [ 8] [ 9] (下図3a, b)。果実 はふつう緑色、卵形〜つぼ形、長さ 2–4 cm、表面は平滑、17–90個の種子を含む[ 3] [ 8] (下図3c)。種子 は長さ 3–5 mm、褐色〜緑褐色[ 3] 。染色体 数は 2n = 34[ 3] 。
分布・生態
ヨーロッパ からシベリア 、極東ロシア 、中国 、朝鮮半島 、台湾 、日本 (北海道 と本州 北部) にかけて、ユーラシア 北部に広く分布している[ 2] [ 3] [ 8] [ 9] 。湖沼や湿原の池塘 に生育する[ 4] [ 8] (下図4)。
4 . ネムロコウホネとミズドクサ (ポーランド )
保全状況評価
絶滅危惧II類 (VU) (環境省レッドリスト )
日本では生育環境の減少などによって少なくなり[ 11] 、基変種である狭義のネムロコウホネ (Nuphar pumila var. pumila ) および変種のオゼコウホネ (Nuphar pumila var. ozeense ) はいずれも絶滅危惧II類に指定されている (2022年現在)[ 12] [ 13] 。また下記のように、個々の都道府県でも絶滅危惧種に指定されている。以下は2022年現在の各都道府県におけるレッドデータブック の統一カテゴリ名での危急度を示している[ 12] [ 13] 。
ネムロコウホネ[ 注 4]
オゼコウホネ
分類
亜種
Padgett (2007) は、本種の中に以下の3亜種を認めている[ 8] (下表1)。ただしこれらは独立種として扱われることもある。
表1 . ネムロコウホネの種内分類[ 8]
ネムロコウホネ [ 4] Nuphar pumila (Timm ) DC. (1821 )
ネムロコウホネ[ 3] [ 5] (狭義) Nuphar pumila subsp. pumila
葉柄 の直径は 1–5 mm、横断面では小さな間隙が網状に分布している。浮水葉の葉身は緑色から紫色、6.8–15.4(–17) × 5.5–10.8(–12.5) cm (縦横比は1–1.7)、側脈は10–17対、裏面は無毛または短毛が密にある。花 は直径 1.3–2.3(–3) cm。葯 の長さは 1–2.5 mm。柱頭盤は直径 4–7.5 mm。果実 は 1.5–3(–4.5) × 0.9–1.9 cm。種子 は緑褐色から褐色、長さ 3–4 mm。ユーラシア 北部に広く分布。
オグラコウホネ Nuphar pumila subsp. oguraensis (Miki ) Padgett (1999 )
葉柄の直径は 1–3(–5) mm、横断面は三角形で中央に大きな間隙がある。浮水葉の葉身は緑色、(5–)8–11.5(–18) × (4–)6–9(–15) cm (縦横比は1.1–1.45)、基部は深く切れ込み、側脈は10–12対、裏面はふつう短毛が密にある[ 14] 。花は直径 1.7–2.5(–3.5) cm。葯の長さは 1–2.5 mm。柱頭盤は直径 5–6(–9.5) mm、柱頭はお互いに離れて規則正しく配列している[ 14] 。果実は 2.5–3 × 1.5–2 cm。種子は褐色、長さ 3.5–4 mm。沈水葉を多くつけ、水位が低下しても抽水葉をつけない[ 10] 。日本 (本州 西部、四国 、九州 ) および朝鮮半島 に分布[ 3] 。日本では独立種 (Nuphar oguraensis Miki , 1934 ) として扱われることが多い[ 3] [ 4] [ 14] 。柱頭盤が赤いものはベニオグラコウホネ (Nuphar oguraensis var. akiensis Shimoda ) とされる[ 14] 。タイワンコウホネ (Nuphar shimadae Hayata , 1916 ) に近縁であり、これと同種とする見解もある[ 3] [ 14] 。
Nuphar pumila subsp. sinensis (Hand.-Mazz. ) Padgett (1999 )
葉柄の直径は 3–5 mm、横断面では小さな間隙が網状に分布している。浮水葉の葉身は緑色、9.3–15.5(–17) × 6.9–12.3 cm (縦横比は1.0–1.3)、側脈は13–21対、裏面は無毛または短毛が密にある。花は直径 2–4.5(–6) cm。葯の長さは 3.5–6 mm。柱頭盤は直径 5–6 mm。果実は 2–2.7 × 1.5–2 cm。種子は褐色、長さ約 3 mm。中国南東部 (安徽省 、浙江省 、福建省 、湖南省 、江西省 、広西省 、広東省 ) に分布。独立種 (Nuphar sinensis Hand.-Mazz., 1926 ) とされることもある。
オゼコウホネ
ネムロコウホネの種内分類群として、変種オゼコウホネが認められることがある[ 3] [ 4] 。ただし、これは分類学的に分けられないこともある[ 2] [ 15] 。
雑種
セイヨウコウホネ の分布と重なる地域では雑種が形成され、Nuphar × spenneriana Gaudin (1828 ) とよばれる。一方、日本ではコウホネ との雑種が形成され、ホッカイコウホネ (Nuphar x hokkaiensis Shiga & Kadono (2007 ) ) とよばれる。
脚注
注釈
^ 独立種とする場合や、オグラコウホネと同種とすることがある[ 3] 。
^ この名は、基変種である Nuphar pumila var. pumila に対する和名としている例も多い[ 3] [ 5] 。
^ 本州西部から九州に分布するオグラコウホネをネムロコウホネの亜種とすることもある(下記参照 )。
^ 北海道と宮城県では種としての Nuphar pumilum を、それ以外では基変種 Nuphar pumilum var. pumilum を指定している[ 12] 。
出典
外部リンク
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