RGDモチーフ (アールジーディーモチーフ、英: RGD motif)は、アミノ酸 Arg-Gly-Asp(アルギニン -グリシン -アスパラギン酸 )をアミノ酸1文字表記した配列で、多くの細胞接着 性タンパク質に共通の細胞接着 活性配列である。RGD配列。
概要
1973年 、英国 王立がん研究基金 のリチャード・ハインズ (Richard O. Hynes)が細胞表面にあるタンパク質 ・フィブロネクチン を発見し[ 1] 。1976年 、米国・NIH ・国立がん研究所 のケネス・ヤマダ (K.M. Yamada)がフィブロネクチンに細胞接着 活性があることを発見した[ 2] 。
1984年 、米国のエルキ・ルースラーティ (E. Ruoslahti [ 3] )が、タンパク質 ・フィブロネクチン の細胞接着部位はたった4つのアミノ酸 Arg-Gly-Asp-Ser(RGDS)(アルギニン -グリシン -アスパラギン酸 -セリン )に担われていることを発見した[ 4] 。
RGDSの最後のアミノ酸 ・S(セリン )は、他のいくつかのアミノ酸 に置換しても活性を保持しているが、最初の3つのアミノ酸・RGDはどれ1つでも置換すると活性を失う。並ぶ順序もこの順序が重要である。ゆえに、本質的に重要なのはRGD配列と断定された。
有機合成 したRGDペプチドにも細胞接着 能がある。実際の効力は、トリペプチドRGDだけでは効力がほとんどなく、もう少し長いペプチドが必要である。通常は、GRGDSのペンタペプチドが活性のあるペプチドとして使用され、活性の無いペプチドとして、4番目のアミノ酸「D」を「E」に変えたGRGESペプチドが対照実験 に使用される。
フィブロネクチン にRGD配列が発見されて以来、ビトロネクチン 、コラーゲン 、オステオポンチン 、ラミニン など数十種類の細胞接着性タンパク質にRGD配列が見つかり、その多くは、細胞接着能を発揮していた。つまり、RGDモチーフは各種細胞接着性タンパク質に共通の細胞接着配列であり、かつ、動物 進化分類学 上も多様な生物種に存在する普遍的な細胞接着配列と考えられた。
なお、RGD配列を持っていても、細胞接着能を発揮しないタンパク質もある。この場合、RGD配列がタンパク質分子の分子内部にあり、表面に露出していないためだと考えられている。
RGD配列を認識する細胞表面のレセプター はタンパク質 ・インテグリン である。
フィブロネクチン やビトロネクチン を基質上にコートし、培養細胞 をまいて細胞接着させる実験系では、外からGRGDSペプチドを添加するとその細胞接着が阻害される。対照ペプチドGRGESでは阻害されない。この実験系の応用として、培養細胞が未知の細胞接着性タンパク質に接着する時、GRGDSペプチドで阻害され、GRGESペプチドで阻害されないと、その細胞接着性タンパク質の活性部位はRGDモチーフだと判定できる。
応用・特許
1986年、GRGDSペプチドが、マウス の悪性黒色腫 細胞の実験的がん転移 を抑制すると報告された[ 5] 。RGDの非ペプチド性アナログRAMは、マウス の悪性黒色腫 細胞の実験的がん転移 を80%も抑制した[ 6] 。がん組織に強く発現するインテグリン αv β3 に、RGDペプチドが特異的に結合することを利用し、RGDペプチドに毒物 を仕込んで、がん組織に毒物を注入するドラッグデリバリーシステム が考案されている[ 7] 。
図1. ヒト・がん組織(悪性黒色腫 を含む)でのインテグリン αv β3 の発現
図1はミュンヘン工科大学 のHaubnerが開発中の腫瘍の画像診断法である。インテグリン αv β3 に特異的に結合するRGDペプチドに陽電子 放出核種を標識した化合物・[18 F]Galacto-RGDを作る。その化合物を取り込ませ、ポジトロン断層法 で、転移能の高い悪性黒色腫 のあるヒトのがん組織を、陽電子を放出する組織像として検出した。図1のがん組織に光る部分(矢印)があり、化合物・[18 F]Galacto-RGD、つまり、インテグリンαv β3 が血管系に強く発現していることがわかる[ 8] [ 9] 。RGDペプチドは血小板 凝集を阻害する。つまり、血栓 を作らないようにする。それで、RGDペプチドを改良したさまざまな抗血小板剤 (模倣薬、ミメティックス:mimetics)の開発が試みられている[ 10] 。
脚注
^ Hynes RO (Nov 1973). “Alteration of cell-surface proteins by viral transformation and by proteolysis” . Proc Natl Acad Sci U S A 70 (11): 3170-3174. PMC 427194 . PMID 4361679 . https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC427194/ .
^ Yamada KM, Yamada SS, Pastan I. (Apr 1976). “Cell surface protein partially restores morphology, adhesiveness, and contact inhibition of movement to transformed fibroblasts” . Proc Natl Acad Sci U S A 73 (4): 1217-1221. PMC 430233 . PMID 177979 . https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC430233/ .
^ 公益財団法人 国際科学技術財団:日本国際賞/Japan Prize 2005年受賞者 エルキ・ルースラーティ(E. Ruoslahti)
^ Pierschbacher, M.D., Ruoslahti, E. (1984). “Cell attachment activity of fibronectin can be duplicated by small synthetic fragments of the molecule”. Nature 309 : 30-33. doi :10.1038/309030a0 .
^ Humphries MJ, Olden K, Yamada KM (Jul 1986). “A synthetic peptide from fibronectin inhibits experimental metastasis of murine melanoma cells”. Science 233 (4762): 467-470. PMID 3726541 .
^ Aguzzi MS, D'Arcangelo D, Giampietri C, Capogrossi MC, Facchiano A. (Oct 2011). “RAM, an RGDS analog, exerts potent anti-melanoma effects in vitro and in vivo” . PLoS One 6 (10): e25352. http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0025352 .
^ Zhen Z, Tang W, Chen H, Lin X, Todd T, Wang G, Cowger T, Chen X, Xie J. (Jun 2013). “RGD-Modified Apoferritin Nanoparticles for Efficient Drug Delivery to Tumors” . ACS Nano 7 (6): 4830-4837. PMC 3705644 . PMID 23718215 . https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3705644/ .
^ Haubner R, Weber WA, Beer AJ, Vabuliene E, Reim D, et al. (March 2005). “Noninvasive Visualization of the Activated αvβ3 Integrin in Cancer Patients by Positron Emission Tomography and [18F Galacto-RGD”]. PLoS Med 2 (3): 0244-0255. http://www.plosmedicine.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pmed.0020070 .
^ 吉本光喜 (2006). “RGDペプチドを利用した腫瘍イメージング” . 北陸地域アイソトープ研究会誌 (8): 27-30. http://ri-center.w3.kanazawa-u.ac.jp/hokurikuRI_HP/pdf/saizensen06-1.pdf .
^ Pollina E (1996). “Design and synthesis of RGD mimetics as potent inhibitors of platelet aggregation” . J Undergrad Sci 3 : 119-126. http://www.hcs.harvard.edu/~jus/0303/pollina.pdf .
参考文献
関連項目