PCCカー (ブルックリン・アンド・クイーンズ交通)

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PCCカー
(ブルックリン・アンド・クイーンズ交通)
ブルックリン・アンド・クイーンズ交通に導入されたPCCカーのイラスト
基本情報
運用者 ブルックリン・アンド・クイーンズ交通英語版
製造所 セントルイス・カー・カンパニー(量産車)
クラーク英語版(アルミ試作車)
製造年 1936年10月
製造数 99両(1001 - 1099)(量産車)
1両(1000)(アルミ試作車)
引退 1956年
主要諸元
編成 単車、片運転台
軌間 1,435 mm
車両定員 着席59人
車両重量 15.4 t(33,360 lbs)(1001 - 1099)
全長 14,021 mm(46 ft)(1001 - 1099)
全幅 2,540 mm(8 ft 4 in)(1001 - 1099)
台車 Clark B-2(1001 - 1099)
車輪径 635 mm(25 in)
主電動機 GE 1198A(1001 - 1099)
主電動機出力 41 kw(55 HP)(1001 - 1099)
歯車比 7.17
出力 164 kw(220 HP)(1001 - 1099)
制動装置 電気ブレーキ空気ブレーキ電磁吸着ブレーキ
備考 主要数値は[1][2][3][4][5]に基づく。
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この項目では、アメリカ合衆国カナダ各都市に導入された路面電車車両であるPCCカーのうち、かつてニューヨークブルックリン区クイーンズ区に路線網を有していたブルックリン・アンド・クイーンズ交通英語版(Brooklyn and Queens Transit Corporation、B&QT)に導入された車両について解説する。同鉄道はPCCカーの開発において実験用車両の提供、試作車の導入を始め多大な貢献を行い、最初の量産型PCCカーが導入されたのもブルックリン・アンド・クイーンズ交通であった[6][7]

先行試作車

モータリーゼーションによる自動車の普及や世界恐慌を始めとする不況の中で、1920年代のアメリカ各地の路面電車では乗客減少や運用コストの高騰が大きな課題となっていた。それを打破するため、1929年にアメリカの路面電車運営企業体や多数の鉄道車両メーカー、機器メーカーが参加し、高性能の路面電車(後のPCCカー)を開発するための"電気鉄道経営者協議委員会"(The Electric Railway Presidents' Conference Committee、ERPCC)[注釈 1]が設立された。その際、アメリカで普及していた標準軌(1,435 mm)の路線であった事や車庫に比較的長距離の試験線を有していた事から、開発の拠点がブルックリン・アンド・クイーンズ交通に置かれた。そして、同年以降製造・改造された4両の試作車のうち、以下の2両がブルックリン・アンド・クイーンズ交通を拠点に試験運転を実施する事となった[7][8]

  • 5200 - バスメーカーであったツインコーチ英語版が路面電車市場参入を図り1929年に製造した試作車をERPCCが購入し、PCCカーに導入される様々な技術を検証する試験車両に用いた車両。走行装置などに改造が施され、各種試験が行われた。"モデルA"(Model A)とも呼ばれる[8][9][10]
  • 5300 - 5200の結果を基にプルマン・スタンダード1934年に製造された、PCCカーの技術を用いた初の新製車両。高抗張力鋼を用いた車体を有し、大幅な軽量化が実現した。"モデルB"(Model B)とも呼ばれる[8][11]

これらの試作車はブルックリン・アンド・クイーンズ交通以外にもクリーヴランドシカゴなどアメリカ各地の路面電車路線で試運転を行い、特にクリーヴランドでは1934年9月24日には残りの2両を含む全試作車が一堂に会する展示会が実施された。終了後に5300はトラックが絡む事故に巻き込まれたが後に復旧し、その際に架線からポールが外れた結果渦電流式ディスクブレーキが作動しなかった事は更なる研究に繋がった[注釈 2][9][12]

量産車の導入後、5200は1939年、5300は1940年に廃車された。その後は両車とも解体されたため現存しない[4]

量産車

試作車による長期試験の後、1936年からPCCカーの量産が始まった。そのうちブルックリン・アンド・クイーンズ交通は最初の商用車両となった1001を含む99両(1001 - 1099)を購入した。製造はセントルイス・カー・カンパニーが実施し、交渉の結果当初の提示価格よりも安価での購入が実現した。導入後はその斬新なデザインや高い性能が高い評価を集め、最初の導入先として33両が営業運転に就いたスミス - コニーアイランド系統(Smith - Coney Island Line)では1936年10月 - 1937年9月までの収入が前年度から33%増加した一方、高速運転により必要な車両数が2両減少し、経費削減にも繋がった。導入当初は前照灯の上に満員超過を示す表示灯が存在したが、後に撤去された[6][2][13]

1940年にブルックリン・アンド・クイーンズ交通は親会社のブルックリン・マンハッタン・トランジットが所有する路線と共にインディペンデント・サブウェイ・システム(IND))へと公営化され、その後ニューヨーク市交通局(NYCITA)へと移管したが、PCCカーは路面電車路線が全廃される1956年まで使用された。2019年現在、トップナンバーの1001が動態保存されている[4][2]

アルミ試作車

量産車が導入された同年(1936年)、PCCカー向けの台車(B-2)を製造していたクラーク英語版(Clark)によってアルミニウム製の車体を有する試作車(1000)が作られた。この車体は他車に波及せず唯一のアルミニウム製PCCカーとなった一方、立席客向けに追加した側面窓の上の立席窓(standee window、通称バス窓)は以降のPCCカーにも導入されるようになり、第二次世界大戦後に製造された車両では標準仕様となった[3][6]

導入後は量産車と共通運用され、1940年代に起きた事故からの復旧時に前面が量産車と同型に改造された。1956年の廃車後もニューヨーク路面電車博物館英語版に保存され、2013年にはその歴史的価値からニューヨーク州歴史登録財英語版に認定されている[3][4]

関連項目

脚注

注釈

  1. ^ 1935年に会社組織となりTRC(Transit Research Corporation)に改名。
  2. ^ 量産車には空気ブレーキ電磁吸着ブレーキが搭載された。

出典

  1. ^ 大賀寿郎 2016, p. 57-59.
  2. ^ a b c Frank Hicks. “Brooklyn & Queens Transit 1001”. Branford Electric Railway Association. 2019年12月3日閲覧。
  3. ^ a b c Brooklyn & Queens Transit PCC No. 1000”. Trolley Museum of New York. 2019年12月3日閲覧。
  4. ^ a b c d BMT Trolley Roster....”. thejoekorner.com. 2019年12月3日閲覧。
  5. ^ 吉川文夫『路面電車の技術と歩み』グランプリ出版、2003年9月、141頁。ISBN 9784876872503 
  6. ^ a b c 大賀寿郎 2016, p. 60-62.
  7. ^ a b 大賀寿郎 2016, p. 52-54.
  8. ^ a b c James A. Toman, Jim Toman, Blaine S. Hays (1996-11-1) (英語). Cleveland's Transit Vehicles: Equipment and Technology. Kent Steve Univ Pr. pp. 108. ISBN 978-0873385480 
  9. ^ a b 大賀寿郎 2016, p. 60.
  10. ^ J.R. Thomas Grumley et al. 2015, p. 257.
  11. ^ J.R. Thomas Grumley et al. 2015, p. 260.
  12. ^ a b George E. Kanary (2011 Autumn). “Chicago Surface Lines Car 4051: The Laboratory PCC Car and Its Predecessors”. First & Fastest (Shore Line Interurban Historical Soiety): 17-18. http://www.shore-line.org/_pdfs/csl_autumn2011.pdf 2019年12月3日閲覧。. 
  13. ^ John F. Doyle. “History - About Your Kenosha P.C.C. Streetcars”. Kenosha Streetcar Society. 2019年12月3日閲覧。
  14. ^ Kenneth C Springirth (2006-11-29). Pittsburgh Streamlined Trolleys. Images of Rail. Arcadia Publishing Library Editions. pp. 17. ISBN 978-1531630683 
  15. ^ 1040 - San Francisco Municipal Railway (1950s)”. Market Street Railway. 2019年12月3日閲覧。

参考資料