Materferは、アルゼンチンのコルドバ市に所在する鉄道車両メーカーである。スペイン語での名称Material Ferroviario S.A. (訳 : 鉄道車両会社) の略である。1950年代後半に、イタリアのフィアット[1]とそのアルゼンチンにおけるコンソーシアムであるフィアット・コンコルドにより設立され、長い間フィアットの子会社であった。そのため長い間FIAT Materferと呼ばれていた。
操業開始から破産までの製品
アルゼンチンの鉄道事業者であったアルゼンチン国鉄[2]の老朽化した車両の代替新造と部品の生産をアルゼンチン国内で実現させるために創業された。
- 1956年から1968年にかけて、上記FIAT 7131と同様にイタリアの親会社の系列であるフィアット・フェロヴィアリアを始めとする企業と協同で"GAIA"型ディーゼル機関車の部品を製造した[4]。
- 1980年代には客車換算で日産1両の割合で各種国内向け鉄道車両を生産し、一時は約2500人の従業員を擁した。
客車
1676 mm(広軌)用客車
一般の旅客車は車端の小さな丸い窓(車両によりトイレ窓)が特徴。近郊形客車およびTurista(3等)客車は革張りの転換クロス式、Primera(2等)客車は革張りのリクライニングシートを備えるが、後年になってプラスチック製の座席へ交換された車両も存在し、特に近郊形客車はこれに該当する。
-
Turista客車
-
Turista客車
写真は休廃車の車両
-
Turista客車
-
Turista客車
近郊区間用としてトイレを撤去し更新した車両
-
Turista客車
もと1435 mm(標準軌)用車両のため、窓割りが異なる
-
Turista客車の車内
-
Turista客車の車内
近郊区間用として更新された車両
-
Primera客車
窓割りがTurista客車と異なる
-
-
Primera客車
写真は休廃車の車両
-
食堂車
-
寝台車
写真は休廃車の車両
-
職用車
-
荷物・電源車
-
近郊形客車
ディーゼル機関車に牽引される編成
-
近郊形客車
更新された車両
-
近郊形客車
更新された車両
-
近郊形・荷物合造車
-
近郊形・荷物合造車
手前の1両
-
近郊形・荷物合造車
更新された車両
-
近郊形・制御用運転室付き客車
写真は控車として使用される車両
-
近郊形客車の車内
更新された車両
-
近郊形客車の車内
更新された車両
-
近郊形客車の車内
更新された車両
1435mm(標準軌)用客車
1000mm(狭軌・メーターゲージ)用客車
- Materferはまた資金協力や技術援助、アフターサービスも含めたターンキーシステムでの受注をおこなった。
- 1970~80年代には"Toshiba"と呼ばれる日本製の電車を日本から空輸した部品を使い現地でノックダウン生産した。
- 1980年代始めにはFiat Diesel Materferの名義でブエノスアイレス地下鉄向けの地下鉄車両"FIAT Materfer"の車体/構体を製造した(電装品はドイツAEG社及びシーメンス社製造)。先頭に貫通扉は無いが電機子チョッパ制御の近代的かつ都会的なスタイルの電車である。
- 1984年にMaterferはこれまでにない斬新な軽量気動車CML1を登場させた[8]。このCML1はあらゆる軌道条件でも最善の性能を出せるように工夫されている。
- 1987年にMaterferは1962年から同社が製造した流線形の気動車FIAT 7131に代わる新しい軽量気動車CMLU201/08 3201/08+CALU形を登場させた[9]。愛称は"Pitufos"(ベルギー産まれのコミック・アニメである「スマーフ」のスペイン語名より)。
この供給を最後に、1998年に裁判所により破産を言い渡され工場は閉鎖された。
再起後の製品と新たな事業
2002年にアルゼンチンの企業家セルヒオ・タッセリにより関係する商標とともに買収され、まず鉄道車両の改修事業で再起を遂げた[10]。次に、新たな製品として落花生収穫機等の農業機械やバス・トロリーバスの車体・建設機械等の製造も開始した。これらは現在も製造されている。
再起後の主な製造鉄道車両
客車
- 再起後UGOFE (鉄道臨時運営事業団) 向けに改修された近郊型客車は、プラスチック製の座席と窓枠が取り付けられ、デッキとステップを廃して自動ドアを設け、高床ホーム対応となりロカ線の高床ホーム区間でEMD GT22形ディーゼル機関車に牽かれて活躍している。
電車
- "Toshiba" 電車の付随車(R'車)を再び製造し(2002年 - 2003年、5両)、電化が拡大するロカ線の増結(3両→4両)に大きく役立っている。
気動車
- 創業を再開した翌年の2003年に、1000mm軌間のベルグラーノ将軍鉄道に同鉄道の長距離列車用客車を改造した"CM/CR001"を登場させた[11]。この気動車の顔はロカ線の"Toshiba"電車と同じ物を接合したため、日本風のブラックフェイス顔にアルゼンチン国鉄の車両風の側面という興味深
い外観となっている。エンジンはフィアットイベコ製の物を搭載し、車体中央には客用の自動乗り降りドア(折り戸×2)とステップが設置されている[12]。
- 2010年代に入り新型気動車"CMM 400-2"を開発し登場させた[13]。この気動車はかつての名車"FIAT 7131"と同じく1435mm/1676mmの2つの軌間に対応する他に1000mm軌間にも対応し冷房を完備、リクライニングシートと空気バネ台車とLED照明を備えており乗客は快適な時間を過ごすことが出来る。最初に登場したときの形式名は上記の気動車と同じ"CM/CR-001"であったが改称されている[13]。
- "CMM 400-2"は制動装置がドイツ製でエンジンはスウェーデンのスカニア社、他はほぼ全てアルゼンチンで製造された部品を使用しており、車両間の客用貫通扉の丸窓も健在。1両から4両ユニットまでのバリエーションが存在するが、現在同国各地方都市でのローカル列車に使用されている車両は2両のユニットのみである[13]。今後も運用が増える予定である。
- Materfer限定品でCMM 400-2の車両模型も販売されている。
機関車
バス・トロリーバス製品
- 市街地路線バス(コレクティーボ)用の"Materfer Aguila"[17]は前扉と中扉を備える製品である。冷房と車いすスペースも完備し、運転手を含めた定員は92人。CNGを燃料とする"GNC"仕様も製造・販売[17]。
- 中距離路線バス用の"MD128"[18]のデザインは"Materfer Aguila"と似ているが、スライドドア前扉1枚のみを装備する。座席は革張りのリクライニングシートで、着座定員は運転手を含め48人。
- トロリーバス製品の"Materfer Aguila Trole Bus"のモーターは380Vで稼働する[19]。現在メンドーサのトロリーバスで使用されている。
農業機械製品
- 落花生などの収穫機"AGRITEC 19"はトラクターに牽引されて使用される。従来の収穫機に比べ収穫量を増やしたほか、いかなる環境でも最良の収穫ができる仕組みとなっている。
- 小型掘削機なども製造する。
関連項目
- Fabricaciones Militares(FM・軍事製造) - 同じくアルゼンチンの鉄道車両製造メーカー。社名の通り武器などの軍需品なども製造する多角的な国営企業である。鉄道車両については現在は貨車のみを製造。かつてMaterferと同じく多くの車両を製造し送り出したサン・マルティン将軍工場(Fabricaciones Militares San Martin、アルゼンチン軍工廠サン・マルティン将軍)は1993年にアメリカ合衆国の企業であるMK Rail(Morrison Knudsen Rail)に売却されMK Rail Argentinaとなった後、アルゼンチン・ブエノスアイレス州の実業家セルヒオ・クラウディオ・キリグリアーノに売却され、EMFERとなり、さらに再び政府の手に渡ったうえで2014年に中国南車へ譲渡。しかし、このサン・マルティン将軍工場はそれと同時に閉鎖されてしまった。
- Emepa - 同じくアルゼンチンの鉄道車両製造メーカー。ユニークな構造のEmepa Alerce気動車を製造するほか、メトロビアスの地下鉄車両の修理・改造も行う。
- Astarsa - 同じくアルゼンチンの鉄道車両製造メーカー。本業は造船であり、鉄道車両はディーゼル機関車が主な製品。これらの輸出も行ったが1994年に破産した。現状では再起はしていない。
- TecnoTren - 同じくアルゼンチンの鉄道車両製造メーカー。あらゆる軌道条件でも最適な性能を発揮できる軽量気動車"TecnoTren"(テクノトレン)を製造する[20]。
- Zanello - 同じくアルゼンチン・コルドバ州に存在する機械メーカー。主な製品は農業機械と建設用機械であるが、1998年に2両1ユニットの気動車を1編成製造した。この気動車の愛称は製造者そのままの"Zanello"であり、同じくコルドバ州内の都市間列車であるベルグラーノ将軍鉄道A1支線「山脈の列車」に使用されたが、「砂まき装置を搭載していなかったため」運用から離脱[21]。しばらく倉庫で保管されたのち、ペルーの鉄道会社ペルーレイルに売却され、車輪の対応する軌間を1000 mmから914 mmへ改造したうえで"Autovagon 230-231"としてクスコ - マチュピチュ間で使用されている。
- フィアット・フェロヴィアリア - イタリアに存在したMaterferの実質的な親会社。名前の通りフィアットの鉄道車両部門である。2000年にフランスの国際的な鉄道車両メーカーアルストムに吸収された[22]。
- ブレダ - イタリアの重工業メーカー。この鉄道部門とMaterferは共同で"GAIA"型ディーゼル機関車を製造した。ブレダの鉄道部門はのちに同じくイタリアの重工業メーカーアンサルドの鉄道部門と合併し、アンサルド・ブレダとなったうえで、現在は日本の日立製作所に吸収・合併され日立レールイタリアとなっている。
- Aerfer - イタリアに存在した機械メーカーである。鉄道車両とバス・戦闘機[23]を製造し、中でも戦闘機サジッタリオ2やアリエテは有名。MaterferはこのAerferとともに前述の"Fiat3"客車を製造したが、Aerferは1969年にフィアットに完全に吸収された。
- アルゼンチン国鉄(初代) - Materferが製造した鉄道車両の一番の納入先。1949年に当時のフアン・ペロン大統領の政策の下で同国内のほぼすべての私有および州営鉄道が国有化されて誕生した企業である。1991年より順次オープンアクセス方式で民営化されたが一部民営企業での運営水準の大幅な劣化が問題となり、2008年から2017年にかけて一部の貨物輸送企業を除き再国有化され新アルゼンチン国鉄となった。
参考