ガンビット3、及びアジェナD の模式図
KH-8 GAMBIT 3 は、1966年7月から1984年4月までの長期にわたり使い続けられたアメリカ合衆国 の偵察衛星 であり、「キーホール」("Key Hole "、KH)シリーズのうちの一つである[ 1] [ 2] 。この衛星はまた「低高度監視活動プラットフォーム」(Low Altitude Surveillance Platform )としても知られている[ 3] 。この衛星は写真フィルムとカメラを搭載し、撮影済みのフィルムだけを再突入カプセルに入れて回収する、フィルムリターン方式を採用した偵察衛星だった。カプセルは大気圏内 をパラシュートで降下した後、空中回収された。偵察衛星の地上解像度は、最も粗いときでも0.5メートルを確保しており、通常はもっと高精細な画像を送り届けていた。衛星の総重量は3,000キログラムだった。全54回の打ち上げを計画し、すべてヴァンデンバーグ空軍基地 からタイタン・ロケット の派生型であるタイタンIIIB (英語版 ) で打ち上げられた。KH-8はロッキード で生産された。カメラシステム及び衛星本体は、KH-7 に引き続き、ニューヨーク・ロチェスターにあるイーストマン・コダック のA&O部門で生産された。
「チェス における序盤戦の指し手」、「交渉を有利に進めるための駆け引きの技術、話術、会話における話しの切り出し方」を意味することばである"GAMBIT "というコードネーム は、前任の偵察衛星であるKH-7 GAMBIT から引き継いだものである。
カメラ・オプティクス・モジュール
KH-8 GAMBIT-3の写真撮影を担当する搭載区画(フォトグラフィック・ペイロード・セクション)
KH-8・フォトグラフィック・ペイロード・セクションの実写
KH-8のカメラ光学機構部(カメラオプティクスモジュール、Camera Optics Module :COM )は4台のカメラで構成されている。
1971年に導入された、KH-8B型の主カメラ(メインカメラ)は、175.6 in (4.46 m)の焦点距離があるシングルストリップカメラであり、地上目標の高解像写真を撮影できるよう設計されていた。ストリップカメラでは、地表画像は、地上からの指令で操作ができる平面鏡で反射され、直径1.21 m (48 in)の固定式凹面鏡 の主鏡に入射される。主鏡は光を反射させ、この光の通路となる平面鏡中央部の円形にくりぬかれた穴を通過させ、ロスコレクタに導く。衛星の近地点 高度 である75海里 (139 km)上空では、メインカメラは、小さなスリット状開口部を通じ、フィルムを感光させる。撮影に際し、フィルムは可動距離8.811 in (223.8 mm)のフィルム可動部に載せられており、滑動した。地上撮影幅は幅6.3キロメートルだった。結果、イメージスケールは28メートル/ミリメートルにすることが可能だった[ 4] [ 5] 。恒星位置・地形カメラ(Astro-Position Terrain Camera:APTC)部分には、焦点距離75ミリメートルの地形フレームカメラ1台、焦点距離90ミリメートルの恒星カメラが2台、計3台のカメラで構成されていた。地形フレームカメラとは、衛星本体がローリングした時にカメラが向いていた地表の露出を取り、姿勢を検出するのに使われるカメラだった。恒星カメラは地形カメラと180度反対側の方向を観測し、星が広がる宇宙空間の撮影をおこない、スタートラッカーのような機能を提供した[ 4] 。
KH-8に使用された写真フィルムはコダック 製である。この写真フィルムは、初期版の1ミリメートル当り50から100ラインの解像度を持つ3404型(Type 3404 )に始まり、衛星の高度化と共に、連綿と続く高精細なフィルムへの改良を加えられてきた[ 6] 。その後、偵察用途として引き続き使用されたフィルムには、1414型(Type 1414 )高解像度フィルム、SO-217 高精細・細粒質フィルム、及びハロゲン化銀 の結晶サイズと形状が非常に良く揃っているフィルムシリーズが使われていた。ハロゲン化銀の結晶粒子サイズは、フィルムの改良とともにそのサイズを小さくしていった。SO-315タイプ写真フィルムにおける粒子サイズは1,550オングストローム であったが、さらにSO-312 タイプの1,200オングストロームを経て、究極的にはSO-409タイプの900オングストロームという細粒度を成し遂げた[ 7] 。
GAMBIT衛星は最適条件下において、上述のイーストマン・コダック・タイプ3404フィルムを使用し、小ささで表記すれば0.28メートル (0.9 ft)から0.56メートル (1.8 ft)ほどの大きさの地上目標を写真に記録することができたと推測される。コダック・タイプ3409と同等の解像度がある、1ミリメートル当たり320から630対の線が写し込める高精細フィルムを使ったと仮定すれば、GAMBITは5センチから6センチ(2インチから4インチ) 程の非常に小さな地上目標を撮影することができた可能性がある[ 8] 。GAMBITシステムが実際に達成できただろう最高の地上解像度がどれ程のものだったのかは、2012年現在に至るも機密のままである[ 7] 。GAMBITは軌道上にある物体を撮影することも可能だった。この能力はソビエト連邦 の宇宙機を写真撮影するために開発されたものだったが、最初にその能力を活かす機会が訪れたのは、NASAのエンジニアからの要請で、1973年の打ち上げで損傷を負ったスカイラブ 宇宙ステーション の修繕計画を練るための撮影依頼だった[ 9] 。
打ち上げ一覧
KH-8衛星の打ち上げからフィルム回収、軌道離脱までのミッション手順を描いた図
1968年9月19日、KH-8衛星で撮影された旧ソ連 のN-1 月ロケット
名称
ブロック[ 10]
打ち上げ日時
別名
NSSDC ID No.
打ち上げ機
軌道
軌道離脱
KH8-1
I
1966-07-29
OPS-3014
1966-069A
Titan IIIB
158.0 km x 250.0 km, i=94.1°
1966-08-06[ 11]
KH8-2
I
1966-09-28
OPS-4096
1966-086A
Titan IIIB
KH8-3
I
1966-12-14
OPS-8968
1966-113A
Titan IIIB
KH8-4
I
1967-02-24
OPS-4204
1967-016A
Titan IIIB
KH8-5
I
1967-04-26
OPS-4243
1967-F04 , 1967-003X
Titan IIIB
no stable orbit
1967-04-26
KH8-6
I
1967-06-20
OPS-4282
1967-064A
Titan IIIB
KH8-7
I
1967-08-16
OPS-4886
1967-079A
Titan IIIB
KH8-8
I
1967-09-19
OPS-4941
1967-090A
Titan IIIB
KH8-9
I
1967-10-25
OPS-4995
1967-103A
Titan IIIB
KH8-10
I
1967-12-05
OPS-5000
1967-121A
Titan IIIB
KH8-11
I
1968-01-18
OPS-5028
1968-005A
Titan IIIB
KH8-12
I
1968-03-13
OPS-5057
1968-018A
Titan IIIB
KH8-13
I
1968-04-17
OPS-5105
1968-031A
Titan IIIB
KH8-14
I
1968-06-05
OPS-5138
1968-047A
Titan IIIB
KH8-15
I
1968-08-06
OPS-5187
1968-064A
Titan IIIB
KH8-16
I
1968-09-10
OPS-5247
1968-074A
Titan IIIB
KH8-17
I
1968-11-06
OPS-5296
1968-099A
Titan IIIB
KH8-18
I
1968-12-04
OPS-6518
1968-108A
Titan IIIB
KH8-19
I
1969-01-22
OPS-7585
1969-007A
Titan IIIB
KH8-20
I
1969-03-04
OPS-4248
1969-019A
Titan IIIB
KH8-21
I
1969-04-15
OPS-5310
1969-039A
Titan IIIB
KH8-22
I
1969-06-03
OPS-1077
1969-050A
Titan IIIB
KH8-23
II
1969-08-23
OPS-7807
1969-074A
Titan 23B
KH8-24
II
1969-10-24
OPS-8455
1969-095A
Titan 23B
KH8-25
II
1970-01-14
OPS-6531
1970-002A
Titan 23B
KH8-26
II
1970-04-15
OPS-2863
1970-031A
Titan 23B
KH8-27
II
1970-06-25
OPS-6820
1970-048A
Titan 23B
KH8-28
II
1970-08-18
OPS-7874
1970-061A
Titan 23B
KH8-29
II
1970-10-23
OPS-7568
1970-090A
Titan 23B
KH8-30
II
1971-01-21
OPS-7776
1971-005A
Titan 23B
139.0 km x 418.0 km, i=110.8°
1971-02-09[ 12]
KH8-31
II
1971-04-22
OPS-7899
1971-033A
Titan 23B
132.0 km x 401.0 km, i=110.9°
1971-05-13[ 13]
KH8-32
II
1971-08-12
OPS-8607
1971-070A
Titan 24B
137.0 km x 424.0 km, i=111.0°
1971-09-03[ 14]
KH8-33
II
1971-10-23
OPS-7616
1971-092A
Titan 24B
134.0 km x 416.0 km, i=110.9°
1971-11-17[ 15]
KH8-34
II
1972-03-17
OPS-1678
1972-016A
Titan 24B
131.0 km x 409.0 km, i=111.0°
1972-04-11[ 16]
KH8-35
II
1972-05-20
OPS-6574
1972-F03
Titan 24B
failed to reach orbit
KH8-36
II
1972-09-01
OPS-8888
1972-068A
Titan 24B
140.0 km x 380.0 km, i=110.5°
1972-09-30[ 17]
KH8-37
III
1972-12-21
OPS-3978
1972-103A
Titan 24B
139.0 km x 378.0 km, i=110.5°
1973-01-23[ 18]
KH8-38
III
1973-05-16
OPS-2093
1973-028A
Titan 24B
139.0 km x 399.0 km, i=110.5°
1973-06-13[ 19]
KH8-39
III
1973-06-26
OPS-4018
1973-F04
Titan 24B
failed to reach orbit
(mix-up with KH8-38 in NSSDC)
KH8-40
III
1973-09-27
OPS-6275
1973-068A
Titan 24B
131.0 km x 385.0 km, i=110.5°
1973-10-29[ 20]
KH8-41
III
1974-02-13
OPS-6889
1974-007A
Titan 24B
134.0 km x 393.0 km, i=110.4°
1974-03-17[ 21]
KH8-42
III
1974-06-06
OPS-1776
1974-042A
Titan 24B
136.0 km x 394.0 km, i=110.5°
1974-07-24[ 22]
KH8-43
III
1974-08-14
OPS-3004
1974-065A
Titan 24B
135.0 km x 402.0 km, i=110.5°
1974-09-29[ 23]
KH8-44
III
1975-04-18
OPS-4883
1975-032A
Titan 24B
134.0 km x 401.0 km, i=110.5°
1975-06-05[ 24]
KH8-45
III
1975-10-09
OPS-5499
1975-098A
Titan 24B
125.0 km x 356.0 km, i=96.4°
1975-11-30[ 25]
KH8-46
III
1976-03-22
OPS-7600
1976-027A
Titan 24B
125.0 km x 347.0 km, i=96.4°
1976-05-18[ 26]
KH8-47
III
1976-09-15
OPS-8533
1976-094A
Titan 24B
135.0 km x 330.0 km, i=96.4°
1976-11-05[ 27]
KH8-48
IV
1977-03-13
OPS-4915
1977-019A
Titan 24B
124.0 km x 348.0 km, i=96.4°
1977-05-26[ 28]
KH8-49
IV
1977-09-23
OPS-7471
1977-094A
Titan 24B
125.0 km x 352.0 km, i=96.5°
1977-12-08[ 29]
KH8-50
IV
1979-05-28
OPS-7164
1979-044A
Titan 24B
124.0 km x 305.0 km, i=96.4°
1979-08-26[ 30]
KH8-51
IV
1981-02-28
OPS-1166
1981-019A
Titan 24B
138.0 km x 336.0 km, i=96.4°
1981-06-20[ 31]
KH8-52
IV
1982-01-21
OPS-2849
1982-006A
Titan 24B
630.0 km x 641.0 km, i=97.4°
1982-05-23[ 32]
KH8-53
IV
1983-04-15
OPS-2925
1983-032A
Titan 24B
124.0 km x 254.0 km, i=96.5°
1983-08-21[ 33]
KH8-54
IV
1984-04-17
OPS-8424
1984-039A
Titan 24B
127.0 km x 235.0 km, i=96.4°
1984-08-13[ 34]
(NSSDC ID Numbers: See COSPAR )
経費
1964年から1985年までの予算請求に基づき、54回を数えたKH-8計画の打ち上げの総コストを算出してみると、一年度あたりの総費用は23億USドル の要求がなされていた。ただしこれは総額から一時的なコストを差し引いている[ 35] 。
関連項目
その他のアメリカ合衆国の画像偵察衛星
打ち上げに使用されたロケット
その他
出典
Mark Wade (August 9, 2003). KH-8 . Encyclopedia Astronautica . Accessed April 23, 2004.
KH-8 Gambit. GlobalSecurity.org