修辞の傑作と高い評価を広く受けているキングの演説は、バプテストの説教の形式に似たものとなっている。キングの演説は聖書のように広く評価されている文書に依拠し、アメリカ独立宣言、奴隷解放宣言、アメリカ合衆国憲法といった文書を思い起こさせるものとなっている。演説のはじめのほうでキングは、“Five score years ago ...”(100年前…)という文言で言い出しており、エイブラハム・リンカーンのゲティスバーグ演説を引用している。また聖書の引用も含まれている。たとえば、キングは旧約聖書の詩篇30章5節を演説の第2連目で引用している。キングは解放宣言で明確に打ち出された奴隷の廃止に関して「それは、捕らわれの身にあった彼らの長い夜に終止符を打つ、喜びに満ちた夜明けとして訪れたのだった」[日本語訳引用 1]と述べている。また第10連目の「そうだ、決して、われわれは満足していないのだ。そして、正義が川のように流れ下り、公正が力強い急流となって流れ落ちるまで、われわれは決して満足することがないだろう」[日本語訳引用 1]という部分にもアモス書5章24節からの引用がある。さらに「あらゆる谷が身を起こし…」[日本語訳引用 1]という部分はイザヤ書40章4節と5節からそのまま引用している。このほかにも「黒人たちの正当な不満に満ちたこの酷暑の夏は、自由と平等の爽快な秋が到来しない限り、立ち去ることがない」[日本語訳引用 1]という部分はウィリアム・シェイクスピアの史劇『リチャード三世』の出だしのせりふを引用している。
文章の冒頭の語句を繰り返す首句反復も修辞の手段として、演説全体で用いられている。例えば、最初のほうでキングが聴衆に向けて時機を示すさいには “Now is the time ...” という表現を用いているが、第6段落では4度繰り返している。なかでも多く首句反復されている “I Have a Dream ...” という表現は8度出てきており、その表現でキングが描く差別のない一体化したアメリカを聴衆に示している。このほかにも、“One hundred years later ...”、“We can never be satisfied ...”、“With this faith ...”、“Let freedom ring ...”、“free at last ...” という表現も反復して用いられている。
演説の題
“I Have a Dream” として知られるこの演説は様々な版を重ねてきており、またその時々に合わせて記されてきた[5]。演説は単一の版ではなく複数の草稿が組み合わされたものとなっており、最初は “Normalcy, Never Again” となっていた。この題での版の演説は "I Have a Dream" にはほとんど用いられておらず、最終版には “Normalcy Speech” という題の演説文が含まれていた。 “Normalcy, Never Again” の原稿はモアハウス・カレッジのマーティン・ルーサー・キング・ジュニア・コレクションに所蔵されている[6]。しかしながら“I have a dream” という語句が演説全体で用いられていたことや、アフリカ系アメリカ人ゴスペル歌手マヘリア・ジャクソンが演説終盤に「あなたの夢を語って」と叫んだことから[7]、キングはあらかじめ用意していた演説を中断し、“I Have a Dream” という語句を強調して説き始めた。
^Hansen, Drew D. (English). The Dream: Martin Luther King, Jr and the Speech that Inspired a Nation. New York, NY: HarperCollins Publishers. pp. p. 177. ISBN978-0060084769