AEO制度AEO制度 (英語: Authorized economic operator) または認定事業者制度とは、アメリカ同時多発テロ事件を契機として、各国税関におけるセキュリティ確保と物流円滑化を目的として創設された制度である。世界税関機構 (WCO) は認定事業者 (AEO) とは以下のものであると定義している。
グローバル化は国際物流の飛躍的拡大をもたらしたが、一方で密輸等の摘発を担う税関では貨物の増加ペースに対応が追い付かなくなりつつあった。このような状況下でアメリカ同時多発テロ事件が発生し、国際テロ組織の封じ込めが急務となった (対テロ戦争)。これに対して、テロ組織による武器や資金源 (違法薬物など) の密輸阻止のため、税関における貨物のセキュリティ強化が強く求められるようになった。しかし、前述のとおりそもそも貨物の増加ペースに対応が追いつかなくなっている状態でさらに検査の厳格化によるセキュリティ確保を図ることには無理があった。また、単に税関職員を増員すればすぐ解決できるようなものでもなかった。なぜなら、増員した税関職員がテロ組織に簡単に買収されてしまったり、安易な確認で密輸品を素通りさせてしまうようでは意味がないからである。高い規範意識を持ち合わせ、業務を基本に忠実に確実に実行できる人材を確保・育成するには時間もコストもかかり、中長期的な対応策にしかなり得ない。その対応として世界税関機構が短期的にも対応可能な対策として、「セキュリティ管理と法令遵守の体制が整備された事業者を税関が認定し、税関手続の簡素化等のベネフィットを与える」ことで、検査対象となる貨物を減らし、税関がよりリスクの高い貨物の検査に集中できるようにするための制度として採択したのが AEO 制度である。 日本では2006年3月にまず輸出者を対象として導入され、2007年4月に輸入者、2007年10月に倉庫業者、2008年4月に 通関業者・運送業者、2009年7月には製造者へと拡大された[1]。 SAFEAEO は、WCOが採択した「国際貿易の安全確保及び円滑化のための基準の枠組み (SAFE Framework of Standards、SAFE)」で重きを成す構成要素である。SAFEは安全な国際貿易の実現のために求められる税関の将来モデルを定めたもので、各国税関の協調によるセキュリティリスクの分散・低減や、税関と事業者の協調によるハイリスク貨物の絞り込みを行うなどといった、調和のとれたセキュリティ管理を導入するためのさまざまな基準を定めている。 SAFEは4つのコア要素に基づく[2]。
AEOのコンセプトの本質は、税関と事業者との協調にある。事業者は、国際貨物の差し替え・抜き取り・虚偽申告などといった不正行為を防止できる効果的な内部プロセスを実施していると証明されると、税関からAEOとして認定を受けることができる。事業者は、具体的には以下のような対策を取らなければならず、それが単に実施されているというだけでなく、業務プロセスとして確立して維持継続することが求められる。
税関は、認定事業者が上記の対策を確実に実施し、貨物のセキュリティを確保しているという信頼に基づいて、認定事業者自身の貨物、あるいは認定事業者を経由する貨物のすべて、またはほとんどについて検査を省略する。これにより事業者側は通関検査にかかっていた時間がなくなり、貨物を速やかに輸出・輸入できるため、物流コストを削減することができる。一方、税関は管理が不充分でセキュリティ上のリスクが大きい事業者の貨物の検査に集中することができる。 AEO制度は、事業者が主体的にセキュリティ管理に取り組み、かつ実効性をもって運用していることが前提となる。そのため、事業者が一度認定を受ければそれが永続するようなものではなく、異品混入や誤品出荷、貨物取り違えなどの事故を頻発させるなど取り組みが不充分または実効性がないと考えられる場合には、認定を取り消される場合がある。日本において実際に取り消された事例はないが、2017年3月に郵船ロジスティクスが2年以上に渡って輸入鮮魚の魚種を偽って申告する通関業法違反事案を起こした責任を取り、認定通関業者の認定を自主返納した事例がある[3]。 各国のAEO制度WCOの参加国のほとんどが SAFE の採用意向を示しており、AEO制度を導入する国は増加している。世界税関機構によれば、2019年の時点で84か国がAEO制度を導入し、19か国が導入に向けた準備をしている[4]。各国の制度は SAFE フレームワークに準拠してはいるが、国ごとに適用対象となる事業者や提供されるベネフィットには差異がある。 たとえば、カナダではAEOに類似した制度として1995年から輸出者/輸入者向けにPIP制度 (Partners in Protection)、2001年から輸入者向けにCSA制度 (Customs Self-Assessment) を運用していたため、その要件をAEOに整合させて引き続き運用している。 また、アメリカ合衆国は同時多発テロ事件で直接被害を受けたことから対テロに重きを置いた C-TPAT (Customs-Trade Partnership against Terrorism) を運用しているが、これは輸入者のみが利用できる制度になっている。 一方、EUはサプライチェーンに関与するすべての業態の事業者が対象で、さらに貨物のセキュリティのみならず関税に係る手続きの簡素化まで含まれるなど、より広範な制度になっている。 相互承認AEO制度の究極の目標は、各国の制度の相互承認により、ある事業者が受けた認定は世界中どこでも等しく認められるようにすることである。すなわち、認定した国は異なっても、出発地 (コンテナへの積込地) から仕向先 (コンテナからの取卸地) までの間で関与する事業者がすべて安全であると見なされているのであれば、サプライチェーン全体として安全が担保されていると判断できる、という考え方である。2019年時点で74の相互承認があり、日本は11か国・地域と相互承認をしているが、アメリカおよびEUと相互承認をしているのは日本だけとなっている。また、中国は「一つの中国」原則を掲げているが、日本・韓国・オーストラリアは中国だけでなく台湾とも相互承認している (独自の関税徴収権を有して税関を置いているという意味では香港と台湾の間に違いはなく、中国の1地域たる香港との間については日・韓・豪だけでなく中国自身もAEOの相互承認を行っている。このように「一つの中国」原則とAEO相互承認は直接相反するものではない。ただし、日本は台湾との相互承認については中国への配慮から「日本台湾交流協会と台湾日本関係協会との間の実務取り決め」という形を採っている)。
出典
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