2017年カタール外交危機

2017年カタール外交危機(2017年カタールがいこうきき)は、2017年カタールが同じ中東を中心とするイスラム圏の一部諸国から、国交断絶措置などを受けた一連の出来事。

2017年の外交経過

2017年6月5日サウジアラビアを中心としたペルシャ湾岸諸国、エジプトなどアフリカ大陸にあるイスラム国家の一部は、カタールに対して国交断絶を表明。断交理由には、サウジアラビアと対立するイランへの過度な接近やムスリム同胞団への支援を挙げている[1]。ムスリム同胞団については、エジプトが2013年に[2]、サウジアラビアが2014年にテロ組織に指定している[3]。カタールのムハンマド外相は「事実無根。決して屈服しない。」と表明し、対抗姿勢を打ち出した[4]

2017年6月21日、アメリカ合衆国レックス・ティラーソン国務長官は、各国がカタールに対する具体的な抗議内容を明らかにしていないことに触れ、要求事項を提示するよう希望するコメントを出した[5]。その後、6月24日までにサウジアラビア、UAE、バーレーン、エジプトの4カ国は、カタールに対し13項目にわたる要求を送付。要求の中には、衛星テレビ局アルジャジーラの閉鎖、カタール国内に存在するトルコ軍基地の停止、イランとの外交関係の縮小、過激派組織との関係断絶などの要求が存在することが伝えられている[6]。7月3日、カタールはクウェートに外相を派遣し、要求を受け入れないことを表明。要求を行った4か国は、カタールの姿勢と2013年にカタールが湾岸諸国との間で結んだ合意事項(内容は未公表)を履行してこなかったことを批判している[7]

カタールはこれらの要求を拒否したうえで、2017年8月にかけて各種の対抗措置をとった[8]

また、2017年12月のカタール建国記念の軍事パレードでは中国人民解放軍の訓練教官によってカタール軍は従来の英国式の隊列を中国式のガチョウ足行進に改め[9]、中国製弾道ミサイルBP-12A英語版を披露し[10]上海協力機構への加盟申請も行うなど中華人民共和国への接近も目立った[11][12]

2018年

2018年も、引き続きサウジアラビアの在外公館の業務停止や国境閉鎖、直行便の廃止が続いており、カタールに居住するイスラム教徒の大部分は、2018年のメッカへの大巡礼(ハッジ)に参加する目途が立たなくなった[13]

2018年4月、サウジアラビアがカタールとの国境線沿いに運河を建設する構想が報道された。実現すれば、カタールは半島から運河により切り離されてになる。実現性は疑われるものであったが、同年8月には、サルマン皇太子の顧問が運河計画の進展を示唆するコメントをTwitterに投稿している[14]

2021年

2021年1月4日、クウェートの首長が仲介役となって、カタールのタミム首長とサウジのムハンマド皇太子による国交回復に向けた合意が実現。互いの国境を再び開放することとなった[15]。翌5日にはサウジアラビア、UAE、バーレーン、エジプトの4カ国はカタールとの国交を完全に回復させることで合意した[16]

カタールとの断交を表明した国

関係国の動き

2017年5月後半、サウジアラビア、バーレーン、アラブ首長国連邦(UAE)、エジプトの各国は、翌月の断交に先駆けてカタールに本拠を持つアルジャジーラの国内放送を遮断する措置を採った[18]

6月5日、UAEは、同国に滞在するカタール国民に14日以内の退去を求めたほか、同月7日には国民に対しカタールに同情の意思を示した場合、最大15年の禁錮刑を科す可能性を示唆した[19]

6月6日までに、ドバイを本拠とするエミレーツ航空アブダビを本拠とするエティハド航空は、ドーハ便の運航を停止することを表明した[20]

6月6日、カタールのナショナル・フラッグ・キャリアであるカタール航空は、サウジアラビア、バーレーン、エジプト、UAEの領空通過を禁止された[21]

6月12日、イランイラン航空を使い、カタールに対し野菜果物、豆類を空輸していることが判明した[22]。カタールは、物資の8割近くを輸入に頼ってきたことから、ドーハのスーパーマーケットなどでは買い占め騒ぎが起きていた[23]

翌2018年にかけて、イランとトルコはカタールへの支援を継続し、3カ国で貿易促進協定を締結。サウジアラビアやアラブ首長国連邦がカタールに輸出していた野菜などの供給を肩代わりした。カタール国内の一時的な物資不足は解消され、カタールは逆に2018年5月、断交した諸国のうち4カ国産の商品について国内販売を禁止した[24]

また2022年にはサッカーワールドカップがカタールで開催されるため、同国は各国と和解を進めている[25]。2022年11月20日、サウジアラビアのムハンマド皇太子とエジプトのシシ大統領はそれぞれが開会式に出席。12月4日には、ムハンマドUAE大統領がカタールを訪問した[26]

この危機以降、カタールとトルコの関係が非常に深くなっており、盟友関係にあると見られる[27][28]

脚注

  1. ^ “中東主要国が「テロ支援」でカタールと断交、イラン反発”. ロイター. (2017年6月6日). http://jp.reuters.com/article/quatar-gulf-tie-idJPKBN18W0D7 
  2. ^ エジプト政府、ムスリム同胞団をテロ組織に認定―弾圧強化へ WSJ(2013年12月26日 )2017年6月15日閲覧
  3. ^ サウジアラビア、ムスリム同胞団などを「テロ組織」に指定 AFP(2014年3月8日)2017年6月15日閲覧
  4. ^ カタール強硬、収拾見えず=アラブの「イラン包囲網」亀裂 AFP・時事通信(2017年6月10日)2017年6月14日閲覧
  5. ^ 米国務長官、カタールへの要求事項提出を中東主要国に求める ロイター(2017年6月22日)2017年7月22日閲覧
  6. ^ カタールと断交の4カ国、13項目要求 アルジャジーラ閉鎖など CNN(2017年6月24日)2017年6月24日閲覧
  7. ^ アラブ4カ国、カタールは13年合意に違反と主張 ロイター(2017年7月11日)2017年7月22日閲覧
  8. ^ カタール、包囲網に対抗 サウジなど断交2カ月 『日本経済新聞』朝刊(2017年8月8日)2017年8月10日閲覧
  9. ^ “PLA's goose-stepping highlight of Qatari National Day military parade”. 人民網. (2017年12月20日). http://en.people.cn/n3/2017/1220/c90000-9306770.html 2017年12月22日閲覧。 
  10. ^ “Qatar Parades New Chinese Short-Range Ballistic Missile System”. The Diplomat. (2017年12月19日). https://thediplomat.com/2017/12/qatar-parades-new-chinese-short-range-ballistic-missile-system/ 2017年12月22日閲覧。 
  11. ^ “SCO receives membership requests from Qatar, Bahrain”. インテルファクス通信. (2017年12月5日). https://www.interfax.kz/?lang=eng&int_id=21&news_id=28540 2017年12月23日閲覧。 
  12. ^ “China's Growing Security Relationship With Qatar”. The Diplomat. (2017年11月16日). https://thediplomat.com/2017/11/chinas-growing-security-relationship-with-qatar/ 2017年12月22日閲覧。 
  13. ^ サウジと断交のカタール国民、大巡礼「ハッジ」に参加できず”. AFP (2018年8月19日). 2018年8月20日閲覧。
  14. ^ 対立するカタールを島に…国境での運河建設計画、サウジ当局者が進展示唆”. AFP (2018年8月31日). 2018年9月1日閲覧。
  15. ^ サウジとカタール、国境の再開で合意 断交から3年半”. CNN (2021年1月5日). 2021年1月6日閲覧。
  16. ^ カタールと国交回復 サウジなど4カ国、対イラン結束重視”. 時事通信 (2021年1月5日). 2021年3月6日閲覧。
  17. ^ Comoros severs diplomatic relations with Qatar The official Saudi Press Agency”. spa.gov.sa. 15 October 2017時点のオリジナルよりアーカイブ。8 June 2017閲覧。
  18. ^ 中東4カ国、カタールと国交断絶 「テロ支援」巡り対立 CNN(2017年6月5日)2017年6月15日閲覧
  19. ^ UAE、カタールに同情で最大15年の禁錮刑と警告 AFP(2017年6月7日)2017年6月14日閲覧
  20. ^ カタールとの断交は6カ国に.ドーハ便停止、スーパーに長蛇の列 CNN(2017年6月6日)2017年6月14日閲覧
  21. ^ Deena Kamel Yousef (2017年6月6日). “カタール航空が最大の被害者に-中東4カ国による外交関係断絶で”. bloomberg. https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-06-06/OR4B476S972801 2017年8月9日閲覧。 
  22. ^ イラン、カタールに食料を空輸 「需要ある限り」継続 CNN(2017年6月12日)2017年6月14日閲覧
  23. ^ カタール断交、市民生活にも影響 住民が食品など買いだめ AFP(2017年6月6日)2017年6月14日閲覧
  24. ^ 「カタール、イラン急接近/断交1年 サウジ誤算」『読売新聞』朝刊2018年6月4日(国際面)。
  25. ^ W杯控えるカタール、問題解消へ 周辺国と年初に和解か:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル (2020年12月28日). 2022年10月31日閲覧。
  26. ^ UAE大統領、カタール訪れW杯称賛 関係改善後で初訪問”. ロイター (2022年12月6日). 2022年12月6日閲覧。
  27. ^ 鈴木一人 (2018年10月28日). “中東におけるユニークな存在としてのカタール:朝日新聞GLOBE+”. 朝日新聞GLOBE+. 2022年5月25日閲覧。
  28. ^ 中東秩序「米抜き」加速も トルコと湾岸諸国が接近:時事ドットコム”. 時事ドットコム (2021年11月28日). 2022年5月25日閲覧。