釜賀 一夫(かまが かずお、1917年(大正6年)1月1日 - 2003年(平成15年)11月23日)は、熊本県出身の陸軍軍人、陸上自衛官。日本陸軍における暗号作成者、暗号解読者である。戦後も陸上自衛隊で暗号解読に従事した。ペンネーム加藤正隆として暗号関係の著作がある。
業績
- 戦争末期に大学の数学者達との関係強化に尽力し、「陸軍数学研究会(陸軍暗号学理研究会)」に発展させた。
- 特別計算法を考案した。
- 当時はZ暗号と称していた米陸軍の機械式暗号M-209の航空通信用部分の解読に成功した。
- Hammingよりも早く符号理論における距離の概念を「字差理論」として暗号通信での誤り訂正に応用した。
- 武官用暗号を仮名文字からローマ字式に変更し、当時の金額で年間240万円の電報料金削減に成功した。
- 外務省が用いる機械式暗号「九七式欧文印字機」の弱点を指摘した。
- 正常に運用されれば理論解読不能とされるワンタイムパッドを用いた無限式乱数(または特乱)を陸軍の前線部隊に導入。
- 「陸軍暗号=パーフェクト」の自説を強固に語り継ぎ、海兵出身の岩島久夫と紙上で論戦を続けた。
- 晩年まで暗号と情報セキュリティシンポジウムに参加し、最前列で聴講していた。
経歴
著作
- 『字差概論』が太平洋戦争中に執筆されたが、戦時中であり論文としては公表されなかった。現在2冊の現存が確認されている。
- 1989年 9月25日、加藤正隆『基礎 暗号学I - 情報セキュリティのために』、Information&Computing ex.3、サイエンス社
- 1989年11月25日、加藤正隆『基礎 暗号学II - 情報セキュリティのために』、Information&Computing ex.4、サイエンス社
記事
- 1961年 4月「序」『第7科研究会誌』第1号、昭和36年4月(第7科長として序文を執筆)。
- 1968年11月「暗号一般」『数理科学』(別冊数理科学『暗号』サイエンス社、1982年5月15日に再録)。
- 1968年11月「暗号と数学」『数理科学』(別冊数理科学『暗号』サイエンス社、1982年5月15日に再録)。
- 1973年11月「実験計画法と暗号」『数理科学』(別冊数理科学『暗号』サイエンス社、1982年5月15日に再録)。
- 1974年10月「暗号と心理」日本社会心理学会編『年報社会心理学』通号15。
- 1975年11月「米国における日本機械暗号解読」『数理科学』(別冊数理科学『暗号』サイエンス社、1982年5月15日に再録)。
- 1976年11月「パズルと暗号」別冊数理科学『パズル』I。
- 1977年 4月「乱数と暗号」『数理科学』(別冊数理科学『暗号』サイエンス社、1982年5月15日に再録)
- 1977年 8月「暗号解読」『月刊言語』特集 暗号への招待、Vol.6、No.9、大修館書店。
- 1984年 9月「日本陸軍暗号は“安泰”だった」『歴史と人物-増刊 証言-太平洋戦争』。
- 1985年12月「座談会 日本陸軍暗号はなぜ破られなかったか」歴史と人物-太平洋戦争シリーズ『日本陸軍かく戦えり』。
- 1986年 8月「近代暗号概説」『数理科学』特集 新しい暗号、サイエンス社。
- 1989年 8月「大東亜戦争に於ける暗号戦と現代暗号」『昭和軍事秘話 - 同台クラブ講演集』中巻。
- 他にも偕行社の機関紙『偕行』に寄稿している。
参考文献
- 宮内寒彌『新高山登レ一二〇八』六興出版、1975年。
- 岩島久夫「陸軍暗号安泰神話の崩壊」『歴史と人物』増刊号、昭和58年8月(1983年)。
- 桧山良昭『暗号を盗んだ男たち - 人物・日本陸軍暗号史』光人社NF文庫、光人社、1994年1月17日 (p.229-、p.245- 等)。ISBN 4-7698-2035-6
- Edward J. Drea, "Were the Japanese Army Codes Secure?", CRYPTOLOGIA, Vol. XIX, No. 2 (April 1995).
- 岩島久夫「解読されていた日本暗号 - 陸軍暗号は安泰だったのか?」別冊歴史読本『太平洋戦争情報戦』1998年。
- 「我が国暗号研究の長老『釜賀一夫氏の証言』」Cyber Security Management, Vol. 2, No. 22, pp.36-40, 2001年8月.
- 木村洋「戦中日本暗号解読史における数学者の貢献」『津田塾大学数学・計算機科学研究所報』26、2004年。
- 辻井重男「釜賀先生を偲んで」『光電技報』第20号、光電製作所、2004年。
- 福富節男「暗号数理学者 釜賀一夫のこと」『津田塾大学数学・計算機科学研究所報』28、2006年。
関連項目
外部リンク