選挙妨害

選挙妨害(せんきょぼうがい)とは、国政選挙又は地方選挙で、選挙結果に影響を及ぼす目的で選挙の自由・公正を実力ないし詐術など不正な手段で妨げる行為である[1][2][3][4][5][6]。政府当局者が選挙の公平さを破る場合、選挙干渉と呼ばれる[7]

概要

選挙妨害とは、公職選挙において選挙結果に影響を及ぼすよう選挙の自由・公正を実力ないし詐術など不正な手段で妨害する行為である。通常は選挙犯罪として取り締まられることになるが、一般の刑法や各種特別法で取り締まられるものと、公職選挙法でとくに定めて取り締まられるものがある。

公職選挙法で取り締まられる選挙犯罪には、候補者・運動員に暴行あるいは威力を加えるような刑事犯的な場合と選挙運動取締規定違反のような行政犯的な場合がある[8]。また、公職選挙法で取り締まられる選挙犯罪であっても、買収等は悪質な選挙違反とされているが、妨害行為が伴わないため通常は選挙妨害の範疇には入れられない。

なお、公職選挙法では、第225条で「選挙活動の自由を妨害する罪」を設けているが、これは選挙運動あるいは投票活動を直接的に妨害するような行為をいい、選挙判断の自由を妨げる行為まで含めた本来の「選挙妨害」行為の一部にすぎない。したがって、このうち同条第2号の「偽計詐術等不正の方法をもつて選挙の自由を妨害」する行為について、投票日や演説会の開催場所や時刻についてデマを流すなどの行為は同号の罪に該当するが、候補者に関するデマを流すなどの行為は選挙妨害ではあっても同号の罪には該当せず、「名誉毀損罪」や「虚偽事実の公表罪」などの刑法や特別法、公職選挙法の別の条項の問題となる[9]。また、選挙運動員の殺害や傷害などの罪もこの条項では規定されていない。

戦後、GHQによる民主改革の下で警察による暴力的な選挙妨害は影を潜めた[10]。また、GHQの刀剣接収や警官拳銃装備により、戦前のように壮士が白刃を振り回すような襲撃は対立する党派間においても見られなくなった。そのため、選挙違反としては買収等が重大なものとなっていったが、候補者や運動員に対する暴力行為や演説妨害等による選挙妨害はなくなったわけではない。1948年の最高裁判例では、1946年の戦後初の総選挙で、応援者の演説を怒号して妨害、その後さらに候補者の控室に押しかけ、止めに入った者を殴った人物について、個人的な喧嘩と認めず、選挙妨害としている[11]

1960年に初めて発行された犯罪白書では、選挙犯罪の多いのがわが国の犯罪現象一つの大きな特色の一つとし、1959年の参院選挙で選挙犯罪の0.6%が選挙妨害であるとした[12]

警察は、選挙違反については選挙結果を歪めないよう、しばしば選挙運動期間中は警告などに止め選挙後に検挙する方針をとる[13]

近年、話題を呼んだ選挙妨害事件としては、2024年衆議院東京15区補欠選挙における政治団体「つばさの党」の立候補者らによる他党候補者への演説妨害事件[14]がある。

脚注

  1. ^ 『マイペディア』平凡社、2024年6月16日。 
  2. ^ 月刊Hanada2022年9月号 - p232-4, 月刊Hanada編集部
  3. ^ 紙の爆弾 2018年 4月号 - p41 鹿砦社
  4. ^ 衆院東京15区補選で「選挙妨害」警視庁が違反警告 怒る小池百合子知事「経験したことがない」:東京新聞 TOKYO Web”. 東京新聞 TOKYO Web. 2024年4月20日閲覧。
  5. ^ INC, SANKEI DIGITAL (2019年7月13日). “首相演説で妨害相次ぐ 聴衆に被害 公選法に抵触も”. 産経ニュース. 2024年4月20日閲覧。
  6. ^ 逮捕の「つばさの党」代表、2017年衆院選山口4区でも演説妨害”. 毎日新聞. 2024年5月18日閲覧。
  7. ^ 選挙干渉(センキョカンショウ)とは? 意味や使い方”. コトバンク. 2024年6月21日閲覧。
  8. ^ 『世界大百科事典(旧版)』平凡社。 
  9. ^ 黒瀬 敏文、笠置 隆範 著、黒瀬 敏文、笠置 隆範 編『逐条解説公職選挙法 改訂版 下』ぎょうせい、2021年7月、1956頁。 
  10. ^ 他候補の隣で大音量の主張 諸派新顔に「選挙妨害」批判 東京15区:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル (2024年4月23日). 2024年4月23日閲覧。
  11. ^ 裁判例結果詳細”. 最高裁判所. 2024年6月16日閲覧。
  12. ^ 『昭和35年版 犯罪白書』法務省。 
  13. ^ 統一地方選挙前半戦 約50件の選挙違反 投票終了後に摘発へ”. NHK政治マガジン. NHK. 2024年6月16日閲覧。
  14. ^ 「「炎上商法」旧N党に学ぶ」『朝日新聞』2024年6月7日、朝刊。

関連項目