輿論→「世論」も参照
輿論(よろん)とは、世の中の多くの人の意見という意味である。 「輿」は1946年公布の当用漢字表に含まれなかったため、「輿論」はほぼ同義で使用されていた「世論」(せいろん、せろん)で書き換えられ、「世論」が「よろん」とも読まれるようになった[1][2]。「世論」を「よろん」と読むのは湯桶読みに当たる[2]。 中国語「輿」(神輿(みこし)の「こし」。「与」の本字である「與」とは別字)は、「車軸の上に置いて、その上に人や物をのせる台」、転じて「人や物を載せてかついで運ぶ乗り物」、さらには「みんなの」といった意味が生じ、ここから「世間の人々の意見・考え」を指して「輿論」と呼ぶようになった(藤堂明保『学研漢和辞典』[要ページ番号])。 中国では漢語として「輿論」という用語が古くより存在した。一例を挙げれば、唐の李商隠は、その「汝南公の為に赦を賀するの表」の中で、「直言の科(とが)を取れば、則ち輿論を聴く者、算(かぞ)うるに足らず、宥過の則を設くれば、則ち郷議を除く者、未だ儔(ともがら)とすべからず」と述べている。また、その語義を明代の『類書纂要』は、「輿論とは、輿は衆なり、衆人の議論を謂うなり」と説明している。さらに、輿論と同様の意味で、『晋書』の「王沈伝」では、「輿人之論」という用語が使用されている。「輿人」とは、衆人、つまり多くの人々のことを言うので、「輿論」と同義語であることが分かる。 日本語の「世論」と「輿論」の区別井上十吉の『新訳和英辞典』(1909年、明治42年)は、「輿論」の訳語として「Public opinion; the popular voice」を、「世論」の訳語として「Public opinion」を挙げた。山口造酒,入江祝衛の『註解新和英辞典』(1907年)は、「輿論」の訳語として「Public opinion, public voice, public cry」を挙げた。国語辞典『言海』にも「輿論」のみがあり、「世論」がない。 佐藤卓己によれば、日本で、「輿論」と「世論」は大正期までかなり明確に区別されて使用されており、「輿論」(よろん)は理性的・公的関心なもの、「世論」(せろん、せいろん)は情緒的・私的なものだという[3]。西部邁は輿論を歴史に裏打ちされたもの、世論を一時の流行に過ぎないものとした[4]。 脚注
参考文献
関連項目 |