褐炭褐炭(かったん、Lignite、brown coal)とは、石炭の中でも石炭化度が低く、水分や不純物の多い、最も低品位なものを指す。ただし、褐炭のごく一部に黒玉として珍重されるものも存在する。 褐炭の成分褐炭は通常暗褐色から帯褐色を呈する。より高品位な瀝青炭に比べ暗炭が多く、水分、腐植酸、酸素に富む。灰分(ミネラル)の割合は産炭地によって様々である。水分が重量の半分以上(多い場合は66%)を占めるのが特徴である。これは褐炭の細孔容積が大きい(隙間が多い)ため、水分が滲み込みやすいからである。酸素官能基も多いため親水性が高く、水分と水素結合しやすいので水分が多い。産地により雑多な化合物が多く、褐炭の成分は非常に多様である。日本では褐炭を亜炭と呼ぶことがあるが、これは行政上の用語であり、学術用語としては用いられない。 炭素の少なさと水分の多さにより発熱量は低い。褐炭の熱含有量(heat content)は、水分やミネラルを考慮しない基準で10MJ/kgから20MJ/kg(1ショートトンあたり900万BTUから1700万BTU)である。 利用その水分量のため、重くてかさばり輸送コストがかかるわりにはエネルギーをあまり生産できず、燃料としてのエネルギー効率は悪い。また、空気中の酸素と化学変化して自然発火する恐れのある官能基が多いので、保管・輸送には適さない[1]。その上、乾燥すると粉末状になり、粉塵爆発の危険が生じる。このため、保管・輸送する際にはブリケット加工を施して、空気との接触面積を小さくする対策が必要になる。これらの手間を省きビジネス上の採算を確保するため、採掘地付近(山元)に火力発電所を建設して、そのまま燃料に使われることも多い。 その他、第四級アンモニウムカチオンと化学反応した褐炭(amine treated lignite、ATL)は、石油などを掘削する際の掘削泥水(drilling mud)に混ぜ、液体の損失を少なくするために使われる。 褐炭は輸送効率とエネルギー効率の悪さから、高品位炭に比べ世界市場での取引は少ない。また露天掘りのため自然環境を破壊することや、無煙炭を燃やす工場や発電所に比べて褐炭を燃やす施設の二酸化炭素排出量(特に、地中や水中への炭素隔離を行わない場合)や煤煙が多いことから、環境負荷の大きい褐炭の使用は欧州などでは政治的な問題ともなっている[2][3]。 ドイツは、長らく採掘量で世界一の座を占めてきたが、2018年、政府の委員会の報告書の中で褐炭の採掘を段階的に削減していく方針を打ち出している[4]が、採掘の即時中止、炭鉱の即時閉鎖を求める抗議活動が盛んに行われている[5][6]。 一方で、世界の石炭埋蔵量の半分を褐炭が占めることから、採掘地での発電以外の利用を図るために、褐炭から水分を取り除くなど、輸送・燃焼の効率を上げるための改良技術も研究されている[7][8][9]。また、石炭ガス化複合発電において、ガス化した褐炭を用いて発電コストを低く抑える研究も行われている[10][11][12]。 オーストラリア南東部ビクトリア州ラトロブ市の閉鎖された褐炭鉱では、日本が協力して水素を取り出すことで再生を目指すプロジェクトが進んでいる[13]。
関連項目脚注
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