硬膜外腔 (こうまくがいくう、英:Epidural space)は、解剖学 上、硬膜 と椎骨 (脊椎 )の間の潜在的な空間である[ 1] [ 2] 。
英語の"epidural"は、古代ギリシャ 語に由来する。上を意味する"ἐπί"と硬膜を意味する"dura mater"である。ヒトの硬膜外腔には、リンパ管、脊髄神経根、疎性結合織 (英語版 ) 、脂肪組織 、小動脈 、硬膜静脈洞 (英語版 ) 、および椎骨静脈叢 (英語版 ) のネットワークが含まれている[ 3]
硬膜外投与 (英 : epidural administration )とは脊髄周囲の硬膜外腔に薬剤を注入する投与経路 である。この投与経路からは、硬膜外麻酔 において、局所麻酔薬 やオピオイド が投与される。他に、造影剤 [ 5] などの診断薬、グルココルチコイド などの薬剤を投与するためにも用いられる。硬膜外腔には、カテーテルを留置し、治療期間中はその場所に留置し続けることも可能である。意図的な硬膜外投与の技術は、1921年にスペインの軍医フィデル・パヘス (英語版 ) [ 7] によって初めて報告された[ 8] 。
頭蓋硬膜外腔
頭蓋骨 では、硬膜の骨膜層が頭蓋骨の内面に付着し、髄膜層がくも膜の 上に重なっている。それらの間に硬膜外腔 がある。硬膜の2層は数カ所で分離し、髄膜層は脳実質の奥深くまで突き出し、脳組織を区画する線維性隔壁を形成している。硬膜外腔は、硬膜外静脈洞が存在するのに十分な広さがある[ 2] [ 9] [ 10] 。
4つの線維性隔壁がある:[ 9]
大脳鎌、 大脳の 左半球と右半球を分ける。上矢状静脈洞と下矢状静脈洞が含まれている。
小脳テント (英語版 ) 、小脳 から大脳を分離し、横静脈洞、直静脈洞、および上錐体洞を含む。
鞍隔膜、 下垂体窩を上側から囲み、下垂体を保護している。前洞と後洞を含む。
小脳鎌 (英語版 ) 、左右の小脳半球を分離し、後頭洞 を含む。
病的な状態では、血液などの液体がこの空間を満たすことがある。たとえば、断裂した髄膜動脈(多くの場合中硬膜動脈 )または硬膜静脈洞(まれに)がこの潜在的な空間に出血し、硬膜外血腫 を引き起こす可能性がある[ 10] 。
脊髄硬膜外腔
脊柱管 において、骨膜層は、椎 体によって形成される脊柱管の内面に付着する。髄膜層は、くも膜脊髄の上にある[ 2] 。椎骨と硬膜鞘の間には脊髄硬膜外腔 がある。頭蓋硬膜外腔とは異なり、脊髄硬膜外腔には脂肪組織 、内椎骨静脈叢、および脊髄神経根が含まれる[ 1] 。
硬膜外腔は頸部で最も小さく、1~2mmである。第2~第3腰椎で5~6mmまで拡大する。その後、腰椎下部および仙骨部まで徐々に拡大する[ 11] 。ただし、第1仙椎レベルで2mmまで、腰部中央部以降でサイズが減少するという説もある[ 12] 。硬膜外麻酔 はこの腔に局所麻酔薬 を注入することにより、行われる。麻酔科 の文献やカルテに単に硬膜外腔と記載されていれば、ほぼ、この脊髄硬膜外腔である。
脚注
^ a b Waxman, Stephen G.『Clinical neuroanatomy』(26th)McGraw-Hill Medical、New York、2010年。ISBN 9780071603997 。OCLC 435703701 。
^ a b c Blumenfeld, Hal (2010). Neuroanatomy through clinical cases (2nd ed.). Sunderland, Mass.: Sinauer Associates. ISBN 9780878930586 . OCLC 473478856
^ Richardson, Jonathan; Groen, Gerbrand J. (2005-06-01). “Applied epidural anatomy” (英語). Continuing Education in Anaesthesia, Critical Care & Pain 5 (3): 98–100. doi :10.1093/bjaceaccp/mki026 . ISSN 1743-1816 . https://academic.oup.com/bjaed/article/5/3/98/278715 .
^ “硬膜外麻酔を発見したスペイン人医師、フィデル・パヘス | スペイン語を学ぶなら、スペイン語教室ADELANTE大阪・神戸でスペイン語を学ぶなら、スペイン語教室 ADELANTE ”. スペイン語教室ADELANTE (2021年11月27日). 2024年8月11日 閲覧。
^ Pagés, F (1921). “Anestesia metamérica” (スペイン語). Revista de Sanidad Militar 11 : 351–4.
^ a b Patestas, Maria; Gartner, Leslie P. (2013). A Textbook of Neuroanatomy (1st ed.). New York, NY: John Wiley & Sons. ISBN 9781118687741 . OCLC 899175403
^ a b Collins, Dawn、Goodfellow, John、Silva, Dulanka、Dardis, Ronan、Nagaraja, Sanjoy『Neurology & neurosurgery』JP Medical Publishers、London、2016年。ISBN 9781907816741 。OCLC 945569379 。
^ Mathis, JM; Golovac, S (2010). Image Guided Spine Interventions . Springer Science & Business Media. p. 14. ISBN 9781441903518 . https://books.google.com/books?id=3DJVAElCmQYC 5 March 2022 閲覧。
^ “Fluoroscopic guided lumbar interlaminar epidural injections: a prospective evaluation of epidurography contrast patterns and anatomical review of the epidural space”. Pain Physician 7 (1): 77–80. (January 2004). doi :10.36076/ppj.2004/7/77 . PMID 16868616 .
参考文献
森田, 潔 著、川真田 樹人 , 齋藤 繁 , 佐和 貞治 , 廣田 和美 , 溝渕 知司 編(日本語)『臨床麻酔科学書』中山書店、東京、2022年。ISBN 9784521749495 。
関連項目
外部リンク