歌う炎の都市『歌う炎の都市』(うたうほのおのとし、原題:英: The City of Singing Flame)は、アメリカ合衆国のホラー小説家クラーク・アシュトン・スミスによる短編ホラー小説。『ワンダー・ストーリーズ』1931年7月号に掲載された[1]。 フィリップ・ハステイン主人公の作品の一つ。ハステインは『彼方からのもの』でも語り手を務め、いわばスミスの作中における分身とみなされている。 本作には『歌う炎の彼方に』(Beyond the Singing Flame。同誌1931年11月号掲載)という続編が存在するが、大瀧啓裕は「どうひいき目に見ても、この続編は龍頭蛇尾や蛇足と形容せざるをえないものでしかない」と酷評し、文庫本への収録を見合わせた[2]。そういう事情から、後編は日本では未訳となっている。 歌う炎の都市イドモスは『エンサイクロペディア・クトゥルフ』にて解説がある[3]。 あらすじ序言カリフォルニア州のシエラ山脈に住んでいた、作家のジャイルズ・アンガースと、知人のフィーリクス・エバンリイが失踪した。無人の小屋から、わたし(フィリップ・ハステイン)宛の小包が見つかり、中には「親愛なるハステインへ」と記された日記が納められていた。 わたしにはこの日記が、真実であるか虚構であるかわからない。アンガースは「発表してもいいよ。読んでもみんな、小説だと思うだろうね」と書き遺しており、わたしはこの日記を公表することにする。だが、真偽を確かめる方法は、その場所に行って2つの石を見つけることだけだろう。 日記1930年7月31日。高地を散歩していたぼく(ジャイルズ・アンガース)は、開けた場所で「2つの石」をみつける。完全に円くなめらかで、緑がかった灰色の石が一対。2つの石の間に足を踏み入れるたぼくは、急激に奇妙な感覚に襲われ、次の瞬間には、高地とは似ても似つかぬ、まるっきり別の場所にいた。ぼくの背後には、あの2つの石と同じ材質で造られた、2本の柱が立っている。前景には、赤い石で建造された巨大都市が聳えている。2本の柱の間に足を踏み入れると、元の高地へと戻ってこれた。 数日間考え続け、もう一度あの場所に向かう。道を歩いていくと、未知の生物が歩いている。彼らはぼくには気にも留めていないようだ。巨大都市に近づくと、都市内から音楽が聞こえてくる。音を聞いたぼくは魅惑に囚われ、都市に入りたいという衝動が湧いてくる。呪縛に逆らい、ゆっくりと引き返し、元の世界へと帰る。 数日後、音楽対策に耳栓を準備し、都市に足を踏み入れ、何種類もの生物を目にする。大神殿の聖堂の中央では、炎が吹き上がり、炎から音楽が産み出されていた。ぼくは、生物たちが巡礼者であると理解する。歌う炎に魅せられたぼくは、彼らに加わり、炎に飛び込みたいとすら思う。何匹かの生物は炎に身を投じていき、ぼくの中では興奮と生存本能がせめぎ合う。最終的には、引き下がる者たちと共にぼくは帰るも、炎に飛び込んだら恍惚とするだろうという思いが湧いていた。 帰宅して小説を書こうとするも、まったくペンが進まない。どんな言葉も、異世界での体験の前では凡庸であった。今度は誰かに同行してもらおうと思ったぼくは、ハステインとエバンリイを候補に考えた末、エバンリイに手紙を送る。 8月13日、ぼくはエバンリイと2人で異次元に赴き、都市へと入る。ぼくはエバンリイに注意するも、彼は炎と音楽に完全に魅せられ、まったく聞く耳をもたない。音楽の力は前よりも強力になっていた。ぼくが音楽への隷属に抵抗しようとやっきになっている間に、エバンリイは率先して炎に飛び込んでしまう。恐怖を抱いたぼくは、都市から逃げ出すが、距離をとるにつれて恐怖が減じ、炎に呑まれて消滅したエバンリイが羨ましくなってくる。ぼくは人間の世界に戻って日記を書いているが、思い返せば、なぜ戻ってきてしまったのかわからない。明日、都市に行こう。日記はハステインにゆだねることにする。 主な登場人物
収録関連作品
脚注注釈出典 |