『東島丹三郎は仮面ライダーになりたい』(とうじまたんさぶろうはかめんライダーになりたい)は柴田ヨクサル作、協力:石森プロ、東映による日本の漫画作品。『月刊ヒーローズ』(株式会社ヒーローズ) にて、2018年6月号より連載開始[1]、2020年12月号で休刊して以降は同社が運営するウェブコミックサイト『コミプレ』に移行している[2]。
『月刊ヒーローズ』2019年1月号では柴田とプロレスラー棚橋弘至による対談が行われ、『仮面ライダー』や本作品についての談義が掲載された[3]。
あらすじ
テレビ特撮番組「仮面ライダーシリーズ」に異常なまでに愛情を注ぐあまり、40歳になるまで闘う相手もいないのにひたすら自分を鍛え上げた中年男「東島丹三郎」が、悪の組織ショッカーの戦闘員コスプレをして犯罪を行う「ショッカー強盗」と偶然遭遇したことで、仮面ライダー1号のお面をかぶって戦い勝利するというコメディタッチの導入で物語が始まる。
しかし、ショッカーは実在していた。コスプレではなく一瞬で変身し常人の倍の身体能力を持つ戦闘員が一般人の中に多数紛れ込み、動物を模した体に変身して戦闘員を統率する怪人が暗躍していたのである。東島は自分と同様にライダーを愛しすぎて常軌を逸した仲間たちと共に、殺し合い寸前の力比べや特訓をしつつ力を高め、ショッカーとの戦いに身を投じることとなる。
登場人物
ショッカーと闘う者たち
- 東島丹三郎(とうじま たんざぶろう)
- 幼いころに父に捨てられ、孤独に育った独身フリーター。40歳。仮面ライダー1号に憧れるあまりバイトで稼いでは各地の山を転々として体を鍛え、熊とも互角に戦えるだけの驚異的な身体能力を身に着け、ショッカーが自分を仮面ライダーに改造してくれる日を待ち望んでいた。しかし、現実には仮面ライダーもショッカーもいないのは判っていたため、将来自分が孤独死した際に所有する仮面ライダーグッズが無造作にゴミとして片づけられることが無いように、自身の手で全てグッズ店に売り払ってしまった。
- 正当な格闘技とは無縁の我流のため、まともな技は正拳突き「ライダーパンチ」と飛び蹴り「ライダーキック」のみで他は力任せの強引だが、まともに食らえば怪人がダメージを受ける異常なまでの「技の重さ」があり、動きの隙の多さは倒されても即座に起き上がるほどの打たれ強さと、攻撃が当たらなくてもカウンター技を当てた対戦相手が逆に吹っ飛ばされるほどの気迫でカバーしている。夏祭り会場でショッカー強盗と遭遇した際に、その場にいた面売りから仮面ライダー1号のお面を買い、以降はそのお面をかぶることで仮面ライダーへと「変身」して、変身前よりも高い身体能力を発揮するようになる。
- 岡田ユリコ
- 高校教師。24歳。『仮面ライダーストロンガー』の大ファンだった父の影響でストロンガーのパートナーである電波人間タックルに扮しての父とのストロンガーごっこにハマるが、小学1年生の時にそれまで父が見せなかった第30話「さようならタックル!最後の活躍!!」を初めて見て同話でのタックルの死に1週間寝込むほどのショックを受ける。それをお前が代わりのタックルになれという父の励ましで立ち直り、以降はストロンガーの助けがなくとも勝てるタックルとなるため様々な格闘技を身に着ける。戦闘スタイルは投げ技を得意としており、あらゆる投げ技を「電波投げ」と呼称する。
- 自作のタックルの衣装(オリジナルより肌の露出面積が広い)を常に持ち運んでおり、戦う際は人通りの多い道であろうと下着姿になって衣装に着替え「変身」する。自身の衣装に誇りを持っているため、東島がお面一枚で仮面ライダーを名乗ることには否定的。
- 島村三葉
- 本物のショッカー戦闘員と初遭遇した直後に東島とユリコが入ったファミレスの店長。27歳。幼少時に兄と共にショッカー戦闘員や蝙蝠男に遭遇したことがあり、それ以降ショッカーの存在を周囲に訴えていたが周囲からは受け入れられることはなかった。
- ショッカーとの戦いではライダーマンのマスクとカセットアームを装着し合気道をベースとした格闘スタイルで戦う。実際は『仮面ライダーV3』になりたかったのだが、幼少期からV3にこだわる兄との対決に負け続け、中学2年生の時にはほぼ互角の戦いを繰り広げたものの、最終的には左腕を折られたことでライダーマンが定着。現在は「全ての仮面ライダーの中でライダーマンが一番熱い」と言い切るまでになった。
- ユカリス
- 三葉の店でウェイトレスとして働く女子高生。ショッカーの存在を知った三葉を監視するために送り込まれた女戦闘員だったが、彼と付き合ううちに本気で愛してしまい、三葉に近づく女性をことごとく始末するなどヤンデレ的な行動を起こしていた。しかし、放課後の校内で三葉の店を訪れたのを理由にユリコを始末しようとしたが返り討ちに合い、三葉にも戦闘員であることを知られてしまう。
- 涙を流して三葉に謝罪しつつ、その場にいた東島、ユリコ、三葉、一葉を始末するために周辺のショッカー戦闘員十数名をテレパシーで呼び寄せ襲撃するが、仲間はあっさり全滅。その場を訪れた蜘蛛男の命令を受けて三葉に殴り掛かるが、蜘蛛男が三葉に殴り掛かろうとした際に彼を守るためにショッカーの洗脳から脱し、以降は仲間となる。ユカリスの助命を嘆願する三葉に対して一葉が「殺す」か「結婚」の二択を迫ったため、急遽彼と結婚することになった。
- 本人によれば山奥の山小屋で気が付いた時には既にショッカー戦闘員であり、たまたまその小屋の床にリスがいたため命名され、そのまま三葉の店に送り込まれたとのことで、戦闘員になる以前に人間だったのかも不明。
- 島村一葉
- 三葉の兄。32歳。弟と共にショッカーの存在を周囲に訴えるも誰にも信じてもらえず、逆に変人扱いされるだけだったが全く動じることなく自身を鍛え上げ、テレビで仮面ライダーV3が披露した数々の技を特撮なしで再現できるほどの格闘能力を身に着ける。さらに、「V3電熱チョップ」は気を込めた発勁の域に達しているが、本人に自覚はない。「オレの魂が「V3」だから」という理由で、「変身」にはお面や衣装といった小道具は必要とせず、所作だけで仮面ライダーV3となるが、変身ポーズを取らないと真の力は発揮できない。
- ユリコの戦いを見て恋心を抱き、告白するも断られる。しかし「片思いでいいからこのまま好きでいたい」という告白に対しては許可を得られた。
- 島村二葉
- 一葉の妹で三葉の姉。「居酒屋ふたば」を経営する。兄弟と違いショッカーの存在は全く信じておらず、兄がショッカーの存在を周囲に訴えて変人扱いされた影響で小中高と全校生徒から完全に無視されるいじめを受け、そのため兄を極度に憎んでいる。幼少時から格闘技道場「小虎の穴」に通い虎の覆面をかぶった女「虎師匠(とらマスター)」(本名は不明だが柴田の別作品『エアマスター』主人公の相川摩季に酷似)の指導で足技主体の格闘技を身に着け、「変身」済みの一葉とも互角以上に戦える。
- 自分の店でヤクザが殺し屋に虎師匠の殺害を依頼しているのを見かけたため、師匠宅に警告に訪れるが、シャワー中の師匠が外していた覆面をかぶっていた時に殺し屋が現れたため師匠に代わって応戦するも、その殺し屋がショッカーの蜘蛛男だったため驚愕。糸状の粘液で捕らえられショッカーの怪人に改造されそうになる寸前に、壁に張り付いた服を脱ぎ下着姿でビルの屋上から飛び降り、人ごみの中に逃走し難を逃れる。
- 中尾八郎
- 武闘派のヤクザ。44歳。腕っぷしは強いが、オレオレ詐欺のようなシノギは全く向いておらず、組長からも「使い道のない盲腸のようなヤクザ」と呼ばれていた。幼少時の経験から自分を救ってくれなかった正義の味方に絶望し、ショッカーに憧れるようになり、舎弟3名に覆面をかぶらせて「ショッカー強盗」を行っていたが、それがきっかけで東島とユリコが出合い、ふがいない偽ショッカーを迷惑がった本物のショッカーの出現に繋がった。
- 蜘蛛男を目撃したため口封じに胸を刺される致命傷を受けながら、ショッカーポーズをとりつつ「俺をショッカーにしてくれ」と叫んで意識を失った後、気付くと公園のベンチで血まみれの服のまま無傷で座っており、ショッカー戦闘員への変身能力を身に着けていた。
- 改造(?)されて以降は放置されているため洗脳もされず組織に関する知識は一切ない「はぐれ戦闘員」だが、蝙蝠男の陰謀を目撃してショッカーに狙われるようになった舎弟たちを守るために東島に保護を求め、舎弟3人と共に彼のアパートに転がり込む。東島の留守中にアパートが蝙蝠男配下の女アイドル戦闘員たちの襲撃を受けた際は、逃げ遅れた舎弟たちが中尾を守るために戦闘員に立ち向かったため難を逃れ、仇を取るため戦闘員でありながら打倒ショッカーを決意する。東島、一葉と共に激しい修業を積んだ結果、44年分の人生を拳に乗せた必殺技「44歳の拳(フォーティフォー・マグナム)」を習得した。
ショッカー
- 蜘蛛男
- ショッカーの「怪人」。変身した姿は『仮面ライダー』第1話に登場した蜘蛛男そのもの。原典同様に口から蜘蛛糸や人体を溶かして泡と化す毒針を吐くことができる。蝙蝠男と比較すると慎重派であり、東島らに倒された戦闘員を消すなどして証拠を隠滅する一方で、一般人を消しすぎると目立ちすぎるという理由で必要以上の殺しは避けている。
- 人間の姿では「雲田」という名でヤクザの用心棒・殺し屋をしている。
- 蝙蝠男
- ショッカーの怪人。変身した姿は『仮面ライダー』第2話に登場した蝙蝠男そのもの。吸血鬼のように女性の血を吸うことで戦闘員化する能力を持ち、その戦闘員たちも噛みついて戦闘員をネズミ算式で増やすことができる。さらに、自分の血を戦闘員に分け与えることで強化することも可能。アイドルイベントの楽屋を襲って多数のアイドルを戦闘員化し、さらに客の男性も殺すか戦闘員化することを繰り返して世界征服を成し遂げると豪語。蜘蛛男からは「中二病」と呼ばれている。戦闘時はコンクリートを切り裂く翼を武器に戦う。島村兄弟の祖父・祖母を殺した犯人でもある。
- サンダー・ライコ
- 蝙蝠男配下の元女子プロレスラー女戦闘員。いきなり怪人になってもいいほどの逸材だったが、戦闘員から叩き上げで鍛えて最強の怪人にするという蝙蝠男の思惑で「裏切者を100人始末すれば怪人になれる」との命令を受け、各地で洗脳が解けたショッカー戦闘員(ユカリスと同様に、人間を愛した戦闘員は洗脳が解けていた)を始末して回っていた。
- 中尾を追って山奥の一葉の家を襲撃するも、東島、一葉、中尾に簡単に返り討ちに合う。その後、なんとなく戦う雰囲気ではなくなり彼らと共に山の中で修行を行うようになり、彼女に恋をしてしまった中尾から告白を受けるが「オッサンすぎ、100%ない」と全力で拒絶し、山を下りた。
他者からの評価
2020年6月1日に発売された『BRUTUS』(マガジンハウス)917号では「マンガが好きで好きで好きでたまらない」特集が組まれ、著名人が愛読漫画を紹介[4]。本作品は麒麟の川島明のおすすめとして紹介されている[4]。
2021年3月、「漫画誌の編集長が選ぶ2020年イチオシマンガ」で『ヒーローズ』編集長の鈴木によって本作品が選ばれている[5]。鈴木によると、本作品は「仮面ライダーをずっと描きたかった」という柴田の「長年の想いがたくさん詰まって」いるという[5]。表現力や構成力、個性的なキャラクターが登場する本作品は、仮面ライダーファンだけではなく「子供のころなにかのキャラクターに憧れていた」という人も「必読すべき」だと語っている[5]。
書誌情報
出典
外部リンク