川口クルド人病院騒動
川口クルド人病院騒動(かわぐちクルドじんびょういんそうどう)とは、2023年7月4日から5日にかけて埼玉県川口市内の総合病院川口市立医療センターの周辺で、約100人のトルコ国籍のクルド人が起こした乱闘事件[1]。4日に発生したトルコ国籍クルド人同士の殺人未遂事件が引き金となった。 クルド人殺人未遂事件2023年7月4日20時30分頃、川口市安行原で、トルコ国籍のクルド人男性(36歳)と同国籍のクルド人男性(26)が、同国籍の複数のクルド人の男に襲われ、45歳解体工のクルド人男性に刃物のようなもので切りつけられ、頭部や顔面、首など広範囲に重症の怪我を負う殺人未遂事件が発生した[2][3][4]。加害者のクルド人グループは、被害者のクルド人ら2名が乗車する車を、複数の車で追いかけて日本人宅の駐車場に停車させ、複数人で被害者のクルド人を殺傷し襲ったあと多くが逃走した[2][5]。被害者の同乗者が「車から降りて殴ろうとしてきた」と埼玉県警察に通報したことで犯行が特定された[2]。加害者グループのクルド人のうち、24歳男が腕を負傷して川口市立医療センターへ救急搬送され、45歳男は軽傷を負ったため同病院で治療を受けた[2]。加害者の45歳解体工のクルド人は殺人未遂容疑で逮捕され、9月25日に埼玉地検はこの男を不起訴処分としているが、理由は明らかにしていない[6]。加害者の24歳男は麻薬及び向精神薬取締法違反容疑で逮捕された後殺人未遂容疑で再逮捕され[7]、不起訴処分を受けた後トルコに強制送還された[8]。2024年に再渡航を試み、入国は認めなかったもののそれを拒否したため、入管施設に収容された。その後、再度強制送還された[8]。 犯行動機犯行動機は被害者が加害者の妻と不倫していたことを巡るトラブルと報じられている[5][9]。若いクルド人男性が既婚クルド人女性を連れて川口から横浜に逃避行したことから、男性を女性親族の男たちが襲ったことが原因であった[10]。 容疑者の不起訴処分に対する反応川口市議の松浦洋之は、逮捕されたクルド人が全員不起訴で釈放され市内で暮らしていることについて、「野放しにするのか」と不安の声が多数寄せられたとした[10]。 同市議の奥富精一は「全員が不起訴処分では、日本人の安全は担保されない。刃物を持って人を襲うような人たちが野に放たれることは、川口市民には恐怖でしかない。それは、もはや『共生』というレベルの話ではない」「警察や検察の取り調べでも、トルコ語やクルド語などの言葉の壁が事情聴取の妨げとなっている可能性もあるのではないか」と語った[11]。 同市議の荻野梓は、「外国籍の方は犯罪をしない人がほとんどだが、一部がピンポイントで目立っている。警察に見過ごされているということはないが、言語の問題で意思疎通や取り調べが難しいという課題はある。その壁を越えて、日本人と同じように取り締まって欲しい」と主張した[12]。 元東京地検特捜部副部長の弁護士若狭勝は「不起訴処分の理由はよく分からない。ただ、外国人同士と言っても、日本人が平穏に暮らすなかで起きた事件で、救急病院の業務にも影響が出た。治安に絡む問題だ。検察は『理由を明らかにしない』のではなく、概略は説明すべきだ」と指摘した[13]。 川口市立医療センター前での騒動センター周辺での騒動での逮捕者7月4日被害者と加害者が同病院に緊急搬送されたことを知った、双方のクルド人の親族や仲間らが4日21時頃から続々と病院に集結し、約100人のクルド人らが[14][15]、救急外来の入り口を無理にこじ開けようとしたり、「開けろ」と大声を出してガンガン叩くなどの騒動をひき起こした[9][10]。さらに、対立グループ同士での乱闘にもなった[16]。同病院は新型コロナウイルス感染防止のため、面会は20時まで、家族のみ面会可で1回に3名まで15分の条件付きで受付可能である[17]。病院側は、埼玉県警に通報し、救急搬送受入を全面停止した[9]。大量の警察官と機動隊員を動員され、事態の沈静化が図られた[9]。 この騒動の最中に、19歳クルド人男性が運転する車両がバックする際に警察車両に衝突し、公務執行妨害の疑いで現行犯逮捕された[9][18]。その他、暴行容疑の現行犯でクルド人の男が逮捕され、殺人未遂容疑で4人のクルド人が逮捕された[9]。同病院に搬送された加害者の24歳男は7月4日の事件後の12日に、麻薬及び向精神薬取締法違反容疑で逮捕されており、殺人未遂容疑による再逮捕となった[7]。9月25日までに、この24歳男、クルド人を殺傷した45歳解体工のクルド人の男、自称アルバイトのクルド人(27)、職業不詳のクルド人(27)を含め、殺人未遂や凶器準備集合の容疑等で埼玉県警組織犯罪総合対策本部と武南署に逮捕された7人のクルド人は、いずれも不起訴となっている[4][6]。 この暴動事件を起こした2つの親族は、両一族が総出でコンビニで取っ組み合いや殴り合いを繰り広げ乱闘騒ぎを起こすなど、以前から根深い対立があったとされている[16]。 目撃者などの近隣住民からは「こんな騒ぎは初めて」と恐怖や不安を訴える声が聞かれた[9][19]。外国人が日本一多い川口市においても、このような大人数の騒動が起こったのは初めてのことではないかと言われ、近隣住民に住む市民らには、恐怖や不安が広がった[19][9][18][20]。 救急医療業務の停止同日の2023年7月4日21時頃から、川口市立医療センターに収容された傷害事件の被害者・加害者双方の親族である約100人のクルド人が集まった[21][22]。医療センターは、4日午後23時半頃から翌5日午前5時頃まで、救急車両の受け入れを停止した[19][9]。病院側はその理由について収容されたケガ人の対応のためとしている。同病院は川口市、戸田市、蕨市の3市のうちで唯一、命に関わるレベルの重症患者が受け入れ可能な三次救急医療機関に指定された救命救急センターである[9]。消防によると、同病院の受入停止した5時間半の間で、搬送先が30分以上決まらないなどの「救急搬送困難事案」が1件発生したが、命にかかわる状況に至るものではなかった[9]。 政府の反応日本2024年2月26日衆院予算委員会で、川口市出身の衆院議員高橋英明がこの暴動事件の写真パネルを示し、このような事件が起こることで病院の機能が低下し、住民の不安も高まるという点を指摘した上で、「一部外国人と地域住民との軋轢の問題」について「ルールを守らない外国人とも共生するのか」と質問をした[23]。それに対し、総理の岸田文雄は「日本独自の外国人との共生社会」について、「あくまでもルールを守って生活していくことが大前提」との認識を答弁した[23]。また、高橋は、警察や入管による一斉取り締まり実施についても要求した[23]。 トルコ政府駐日トルコ大使のコルクット・ギュンゲンは、この騒動で地域住民と生じた軋轢について、「危惧している」とし、この軋轢が「トルコと日本の友好関係に悪影響を及ぼさないように、最大限努力している」と述べている[24]。また、トルコ国籍者には、「日本の法令、しきたりにのっとって滞在することが重要だ」と主張している[24]。 影響=== クルド人に対する反感、偏見、「ヘイトスピーチ」のきっかけだとする評価 === 騒動の報道後、SNSなどで「クルド人は犯罪集団」のような言説が広まった。川口市に対しても、騒動について報道後の約半年の間に、「犯罪をおかすクルド人を強制送還しろ」といった排外主義的な内容を含めた抗議電話が約400件にものぼった。その殆どが具体的な困りごとを抱えていない「SNSなどで見たという県外の人がほとんど」だった[25]。 このように、このセンター周辺の騒動とその報道を、クルド人への「ヘイトスピーチ」や排外主義的活動のきっかけの一つとなったと評価する声は多い。 読売新聞は、この騒動以降に在日クルド人についての一面的な否定的な情報が急増したとしている[26]。 共同通信は、この事件が、2023年夏からSNS上にあふれた在日クルド人への「ヘイトスピーチ」や中傷のきっかけだと報じた[27]。 英誌「エコノミスト」は、この騒動をきっかけとして保守系メディアによって在日クルド人を標的とするキャンペーンが行われ、排外主義団体のデモなどにつながったとした[28][29]。 藤崎剛人はニューズウィーク日本版への寄稿のなかで、「ある右派ジャーナリスト」らが「この事件を誇張して広め、「クルド人は怖い」というイメージを形成した」と主張した[30]。 「一部外国人の犯罪による取り締まり強化」意見書との関連川口市では一部クルド人と地元住民の間に軋轢が起こっており、この騒動の前月の2023年6月29日に、川口市議会は、国や県などに「一部外国人による犯罪の取り締まり強化」を求める意見書を賛成多数で可決していた[3][31][32]。この意見書を採択した直後に、川口市立医療センター周辺でクルド人約100人の暴動事件が起きたことがきっかけとなり、産経新聞が「川口クルド人問題」を本格的に報じるようになった[1]。以降も、「一部外国人の犯罪や迷惑行為は目に余っている」のに、テレビや新聞で報道されることもほとんどなく、「地域住民は存在しないかのように感じている」などの市民の声が報じられている[33]。2024年6月24日開催の足立区議会では、川口市議会の「一部外国人による犯罪の取り締まり強化を求める意見書」とこの暴動事件を引き合いに出し、区内の外国人とのトラブルについて取り上げられた[15]。 SNSでの拡散と反差別団体による非難を恐れる市民の声暴動事件の動画がSNSに多数投稿されると、Xでそれに対する投稿がなされ、「クルド人」がトレンドワード入りした[19]。この暴動事件動画の拡散にともない、川口に在住するクルド人へのネガティブな印象が広がった[20]。また、恐怖を感じた地元住民が、「もう我慢できない」と、SNSなどで批判の声をあげるようになった[34]。しかし、SNSで「通学路が心配で仕方がない」などの生の声を地元住民が発信するとヘイトスピーチなどと批判されるなど、市民の生の声が反ヘイト団体から罵倒されるなどということがあり、地域住民が困りごとを発信しにくい状況が発生している[33]。こうした背景が存在する中、川口市民が、ヘイトスピーチと批判を受けることを極度に恐れつつも勇気を振り絞り、「ネイティブ・ライブズ・マター(地域住民の命は大切)」「差別やヘイトは絶対ダメ! でも犯罪や迷惑行為に苦しんでいる市民の声や市民の人権は無視ですか?」と訴える画像を発信したところ、SNSで拡散された[33]。2024年6月川口市議会で川口市は、市内でヘイトスピーチの存在を確認していないという見解を表明している[35]。同市議の中川峻一は、ヘイトスピーチを規制すると、「差別的、侮蔑的ではない表現を行おうとする人」などに対しても、「処罰されてしまうかもしれないといったおそれを抱かせるなど、表現の自由を過度に制限してしまう可能性」を指摘している[35]。 報道トルコ人と報道される誤報一部メディアでは、クルド人ではなく、トルコ人グループ間のトラブルと報道されている[6]。トルコ人とクルド人の乱闘という報道もあるが[36]、実際は、全員クルド人による事件である[18]。 日本の報道への批判2023年7月30日、暴動事件により住民に恐怖や不安の感情が広がっているなか、川口市議会は、国や県などに「一部外国人による犯罪の取り締まり強化」を求める意見書を提出しているが、産経新聞以外のほとんどの報道機関は報道しなかった[37]。皆川豪志は正論2024年10月号掲載のコラムのなかで、市民が恐怖や不安を感じている「川口クルド人問題」に関する認知が広まっているにもかかわらず、産経新聞以外の新聞やテレビなど大手メディアでは、依然として現実に存在する大きな社会問題を無視し続けていると主張した[38]。 事件の逮捕者の再入国をめぐり、デイリー新潮は、朝日新聞や毎日新聞、TBSなどのメディアは、令和3年末時点でおよそ3200人の送還忌避者のうち約1100人は前科があり、難民に該当しない理由で何度も申請を繰り返す外国人が多かったり、殺人や強制わいせつ致傷で服役していたり、強姦致傷を犯したりした者までもが送還忌避しているなどの現実を報じていないことを批判している[34]。法務省幹部は、朝日新聞などのメディアの多くは、「難民を国に戻すな」「日本は難民に冷たい」などの報道ばかりで、「実態を分かっていてあえてやっているのか」などと疑問を述べている[34]。入管関係者もこれらの一部メディアに対して「日本に来る“難民”の実態を見ていない報道だ」と主張している[34]。 トルコの報道トルコのメディアでもこの事件などをきっかけに、川口市や蕨市で日本のルールを守らないクルド人を始めとする外国人の存在が報道されている[5]。日本で騒乱を引き起こす一部のクルド人は、テロ組織PKK(クルド労働者党)のシンパであり、PKKのプロパガンダを発信していたことが判明したと報じている[5]。 川口市民が、クルド人からの嫌がらせや被害に遭っているという現実が存在するにもかかわらず、メディアがクルド人問題を報道せず、政治家も問題解消への取り組みをしていないという点なども指摘されている[5]。また、クルド人が、飲酒運転やひき逃げ、未成年喫煙、強姦、日本人に険悪な態度をとるなどの「クルド人問題」にも注目が集まった[5]。 出典
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