IBEXによるエネルギー中性原子マップ Credit: NASA/Goddard Space Flight Center Scientific Visualization Studio.
太陽圏 (たいようけん)、または太陽系圏 (たいようけいけん)、ヘリオスフィア (Heliosphere)は、太陽系 の周囲の荷電粒子 の泡であり、太陽風 の届く範囲の空間である。電気的に中性な原子 は太陽圏を通り抜けることができるが、事実上、太陽圏の全ての物質は太陽 自身から放出されている。
太陽から半径数百億kmは、太陽風は100万km/h以上の速度で吹く[ 1] [ 2] 。星間物質 と相互作用をし始めると、太陽風の速度は低下し始め、最終的に止まる。太陽風が減速し始める地点は末端衝撃波面 と呼ばれ、太陽風は減速しながらヘリオシース を進み、星間物質と太陽風の圧力が平衡になるヘリオポーズ に達する。
ヘリオポーズを超えると、星間物質が太陽圏に衝突するようになり、かつてはバウショック と呼ばれる領域が存在すると考えられていたが、IBEX のデータによると、星間物質の中を進む太陽の速度は、バウショックを形成するには小さすぎることが示唆された[ 3] 。また、カッシーニ とIBEXのデータから、2009年には挑戦的な「太陽尾」理論が提唱された[ 4] [ 5] 。ボイジャーのデータからは、ヘリオシースは「磁気バブル」と「よどみ領域」を持つという新しい理論が提唱された[ 6] [ 7] 。
ヘリオシースの中の「よどみ領域」は、113天文単位 から始まることが、2010年のボイジャー1号 の観測結果から発見された[ 6] 。ここでは、太陽風の速度は0になり、磁場の強さは2倍になり、銀河からの高エネルギー電子は100倍になる[ 6] 。120天文単位の位置にいたボイジャー1号は、2012年3月から宇宙線 の急激な増加を検出し始め、ヘリオポーズに近づいている明らかなサインだと考えられた[ 8] 。
太陽風
太陽風は、粒子(コロナ から放出されるイオン化された原子)と場(特に磁場 )から構成される。太陽は約27日の周期で自転しているため、太陽風によって運ばれる磁場は、螺旋状になる。太陽の磁場の変化は太陽風によって外向きに伝えられ、地球の磁気圏 に対しても磁気嵐 を引き起こす。
構造
太陽圏電流シート
木星の軌道より外側の太陽圏電流シート
太陽圏電流シートは、太陽の回転する磁場によって形成される太陽圏のさざ波である。太陽圏全体に広がり、太陽系で最も大規模な構造だと考えられている。その形は、「バレリーナのスカート」に例えられる[ 9] 。
周辺構造
太陽圏の周辺構造は、太陽風と恒星間風の相互作用によって決定される。太陽風は、太陽から全ての方角に数百km/s(地球近傍)の速度で吹き出す。海王星 の軌道以遠のある距離で、超音速 の太陽風は、星間物質のガスと出会う前に減速される必要がある。これには、いくつかの段階を経る。
太陽風は、太陽系内を超音速で進行し、末端衝撃波面で速度が音速以下にまで落ちる。
亜音速まで速度が落ちると、太陽風は周囲の星間物質の流れの影響を受け始める。その圧力により、理論的には、彗星 のような「太陽尾」を生じる。この領域は、ヘリオシースと呼ばれる。しかし、2009年の観測で、このモデルは誤っていることが示された[ 4] [ 5] 。2011年時点では、磁気の「泡」で満たされていると考えられている[ 10] 。
太陽圏が星間物質と出会うヘリオシースの外表面は、ヘリオポーズと呼ばれる。ここが太陽圏の端に相当する。2009年の観測では、このモデルに適合する結果が得られた[ 4] [ 5] 。
理論的には、太陽が銀河系 を公転すると、太陽圏が星間物質に乱流を生じさせる可能性がある。星間物質に対する太陽圏の圧力によって生じる乱流の領域は、バウショックと呼ばれる。しかし、IBEXのデータで、星間物質の中を進む太陽の速度が遅いため、バウショックは形成されないことが示唆された[ 3] 。
末端衝撃波面
身近なところでは、シンクの跳水 で末端衝撃波面が見られる。
末端衝撃波面は、恒星間物質との相互作用によって太陽風の速度が低下し、亜音速になる地点である。これにより、圧縮、加熱、磁場の変化が生じる。太陽系では、末端衝撃波面は、太陽から75から90天文単位の距離にあると考えられている[ 11] 。ボイジャー1号は2004年、ボイジャー2号 は2007年に、太陽の末端衝撃波面を通過した[ 12] 。
星間での音速が約100km/hなのに対して、太陽から放出される太陽風は約400km/hであるため、衝撃波 が生じる(実際の速度は、大幅に変動する密度に依存する)。星間物質の密度は非常に小さいが、一定の圧力を持っており、太陽風の圧力は、距離の2乗に比例して減少する。太陽から十分に遠くなると、星間物質の圧力が太陽風の速度を音速以下に低下させるのに十分な強さを持ち、衝撃波面を形成する。
太陽から外側に向かうと、末端衝撃波面に続いてヘリオポーズの領域に入る。ここでは、太陽風の粒子は、星間物質によって進行が止められる。
2005年5月、アメリカ地球物理学連合 において、カリフォルニア工科大学 のエドワード・ストーン は、磁場の変化の状況から、ボイジャー1号が2004年12月に太陽から94天文単位の距離にある末端衝撃波面を通り抜けたと見られると発表した。一方、ボイジャー2号は、2006年5月、太陽からわずか76天文単位の距離で戻ってくる粒子を検出し始めた。これは、太陽圏が北方向に膨らみ、南方向は押しつぶされたような不規則な形をしていることを示している[ 13] 。
ヘリオシース
ヘリオシースは、末端衝撃波面の先の太陽圏内の領域である。ここでは、太陽風の速度は遅くなり、圧縮され、星間物質との相互作用で攪乱されている。太陽からの距離は、約80から100天文単位である。
別の理論では、ヘリオシースは彗星のコマ のような形で、太陽が進む方向の反対側に何倍も長い尾を引いているとされる。風上では、その厚さは10から100天文単位と推定される[ 14] 。しかし、2009年の観測で、このモデルは間違っていることが示された[ 4] [ 5] 。
ボイジャー1号とボイジャー2号のミッションには、ヘリオシースの観測も含まれている。2010年末、ボイジャー1号は、太陽風の速度が0になるヘリオシースに到達した[ 15] [ 16] [ 17] [ 18] 。2011年には、ボイジャーの観測により、ヘリオシースは滑らかではなく、太陽風と星間物質の衝突でできた幅1億マイルのバブルでできていることが発表された[ 19] [ 20] 。ボイジャー1号と2号は、それぞれ2007年と2008年からバブル構造の証拠を検出し始めていた[ 20] 。バブルは恐らくソーセージのような形をしており、磁場再結合によって形成される[ 20] 。
ヘリオポーズ
ヘリオポーズは、太陽からの太陽風の進行が星間物質によって止められる理論上の境界であり、ここでは太陽風は周囲の恒星からの恒星風 を押し戻すのに十分な力を持たない。ボイジャー1号は、2014年までにヘリオポーズを通過すると期待されている。ヘリオポーズに到達すると、荷電粒子の温度が急激に下がり[ 16] 、磁場の方向が変化し、宇宙線が増加すると考えられている[ 8] 。2012年5月、ボイジャー1号は宇宙線の急増(2009年1月から2012年1月までに25%増加し、その後1ヶ月ごとに9%の増加)を検出し、ヘリオポーズに近づいていることが示唆され[ 8] 、2012年 8月25日 、ボイジャー1号 が人工物として初めて、ヘリオポーズに到達し、太陽圏外に出たと2013年9月12日にNASAが発表した[ 21] 。
バウショック
オリオン星雲 のオリオン座LL星 のバウショック Hubble, 1995
うみへび座R星 のバウショックの赤外線画像とイメージ図
2012年、太陽はバウショックを持たないことが確認された。それ以前は、太陽は星間物質内を進行することでバウショックを生じると仮定されていた。バウショックは、星間物質が超音速で太陽に向かってくる場合に形成される。星間風が太陽圏にぶつかると、速度が低下し、攪乱領域を生じる。アメリカ航空宇宙局 のRobert NemiroffとJerry Bonnellは、太陽のバウショックは230天文単位の位置にあると信じている[ 11] 。
GALEX によって、太陽系の外側にこの現象が観測された。くじら座 の赤色巨星 ミラ は、彗星状の塵の尾も進行方向のバウショックも持つことが示された。
宇宙機による探索
初期の探査機
ヘリオポーズまでの正確な距離やその形は、まだ分かっていない。パイオニア10号 、パイオニア11号 、ボイジャー1号、ボイジャー2号などの惑星間探査機は、太陽系を超え、最終的にはヘリオポーズを通り抜ける。
ボイジャー1号は、2004年12月中旬に、94天文単位の距離で末端衝撃波面を超え、ヘリオシースに入ったと考えられている[ 22] 。当初は、2002年8月に85天文単位で入ったと言われていたが、現在では時期尚早であったとされている[ 23] 。2012年 8月25日 に、ヘリオポーズに到達し太陽圏外に出たとNASAが発表した[ 21] 。
ボイジャー2号は2007年8月30日に84天文単位の距離で末端衝撃波面を超えた[ 24] 。
カッシーニによる探索
カッシーニの観測データによると、太陽圏は彗星のような形ではなく、バブルのような形をしていることが示唆される。太陽風と星間物質の衝突が起こるだけではなく、エネルギー中性原子 のマップによると、粒子の圧力と磁場エネルギーの密度によって、相互作用が制御されていることが示唆されている[ 4] 。
新モデル (バブル型)[ 4] 2012年時点で、バウショックが存在しないことは確認されている
[ 3] 。
出典
^ Dr. David H. Hathaway (January 18, 2007). “The Solar Wind ”. NASA. 2007年12月11日 閲覧。
^ Britt, Robert Roy (March 15, 2000). “A Glowing Discovery at the Forefront of Our Plunge Through Space” . SPACE.com. オリジナル の2001年1月11日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20010111053400/http://www.space.com/scienceastronomy/solarsystem/heliosphere_shock_000315.html 2006年5月24日 閲覧。
^ a b c “New Interstellar Boundary Explorer data show heliosphere's long-theorized bow shock does not exist” , Phys.org , (May 10, 2012), http://phys.org/news/2012-05-interstellar-boundary-explorer-heliosphere-long-theorized.html 2012年2月11日 閲覧。
^ a b c d e f Johns Hopkins University (October 18, 2009). “New View Of The Heliosphere: Cassini Helps Redraw Shape Of Solar System ”. ScienceDaily . October 22, 2009 閲覧。
^ a b c d “First IBEX Maps Reveal Fascinating Interactions Occurring At The Edge Of The Solar System ”. 2012年7月13日 閲覧。
^ a b c NASA's Voyager Hits New Region at Solar System Edge 12.05.11
^ NASA 2011
^ a b c NASA = Data From NASA's Voyager 1 Point to Interstellar Future 06.14.12
^ Mursula, K.; Hiltula, T., (2003). “Bashful ballerina: Southward shifted heliospheric current sheet”. Geophysical Research Letters 30 (22): 2135. Bibcode : 2003GeoRL..30vSSC2M . doi :10.1029/2003GL018201 .
^ NASA - A Big Surprise from the Edge of the Solar System (06.09.11)
^ a b Nemiroff, R.; Bonnell, J. (June 24, 2002). “The Sun's Heliosphere & Heliopause ”. Astronomy Picture of the Day. 2007年5月25日 閲覧。
^ “MIT instrument finds surprises at solar system's edge ”. Massachusetts Institute of Technology (2007年12月10日). 2010年8月20日 閲覧。
^ Than, Ker (May 24, 2006). “Voyager II detects solar system's edge” . CNN. https://edition.cnn.com/2006/TECH/space/05/23/voyager.2/index.html 2007年5月25日 閲覧。
^ Brandt, Pontus (2007). "Imaging of the Heliospheric Boundary" (PDF) . NASA Advisory Council Workshop on Science Associated with the Lunar Exploration Architecture: White Papers . Tempe, Arizona: Lunar and Planetary Institute. 2007年5月25日閲覧 。
^ Amos, Jonathan (December 14, 2010). “Voyager near Solar Systems edge” . BBC News . http://www.bbc.co.uk/news/science-environment-11988466 2010年12月10日 閲覧。
^ a b “NASA's Voyager 1 Spacecraft Nearing Edge of the Solar System ”. Space.Com web site (2010年12月13日). 2010年12月15日 閲覧。
^ Brumfiel, G. (2011年6月15日). “Voyager at the edge: spacecraft finds unexpected calm at the boundary of Sun's bubble ”. Nature News web site . doi :10.1038/news.2011.370 . 2011年6月19日 閲覧。
^ Krimigis, S. M.; Roelof, E. C.; Decker, R. B.; Hill, M. E. (2011-06-16). “Zero outward flow velocity for plasma in a heliosheath transition layer” . Nature 474 (7351): 359-361. Bibcode : 2011Natur.474..359K . doi :10.1038/nature10115 . PMID 21677754 . https://www.nature.com/articles/nature10115 2011年6月20日 閲覧。 .
^ Cook, J.-R. (2011年6月9日). “NASA Probes Suggest Magnetic Bubbles Reside At Solar System Edge ”. NASA/JPL. 2011年6月10日 閲覧。
^ a b c Rayl, A. j. s. (2011年6月12日). “Voyager Discovers Possible Sea of Huge, Turbulent, Magnetic Bubbles at Solar System Edge ”. The Planetary Society web site . The Planetary Society. 2011年6月13日 閲覧。
^ a b NASA Spacecraft Embarks on Historic Journey Into Interstellar Space - NASA Jet Propulsion Laboratory
^ Donald A. Gurnett (1 June 2005). “Voyager Termination Shock ”. Department of Physics and Astronomy (University of Iowa). 2008年2月6日 閲覧。
^ Celeste Biever (25 May 2005). “Voyager 1 reaches the edge of the solar system ”. NewScientist. 2008年2月6日 閲覧。
^ David Shiga (10 December 2007). “Voyager 2 probe reaches solar system boundary ”. NewScientist. 2008年2月6日 閲覧。
外部リンク