哭悲/THE SADNESS
『哭悲/THE SADNESS』(こくひ ザ・サッドネス、繁体字: 哭悲、英語: The Sadness)は、2021年に製作された台湾のホラー・スプラッター映画。 カナダの映画製作者でアニメーターのロブ・ジャバズによる、長編映画監督デビュー作である。 概要未知のウイルスによるパンデミックが引き起こす人間の凶暴化(ゾンビ化)というアイデアは、2019年から始まった新型コロナウイルスの世界的流行から生まれ、政治や性暴力などの社会問題も風刺し、ブラックジョークとして盛り込んでいる[2]。 2021年8月12日、スイスで開催された第74回ロカルノ国際映画祭でワールドプレミア上映された[3]。 また、カナダのモントリオールで開催された第25回ファンタジア国際映画祭で上映され[4]、最優秀新人映画賞を受賞した[5]。 2022年の第3回台湾映画批評家協会賞で特殊メイクアップ賞を受賞した[6]。 極めて過激な暴力描写(走行中の密室になった地下鉄や、患者の命にかかわる病院といった公共施設での凄惨な虐殺シーンは、危険な無差別殺傷事件やテロを誘発する恐れがある)を含んでいるため、日本では「R18+」の指定を受けた[2]。 あらすじ台湾ではインフルエンザに似た感染症である「アルヴィンウイルス」が発見され、医療専門家や政府関係者は議論を繰り広げている。政府は、過剰な反応が社会不安を煽り選挙に影響するなどの政治的理由で、アルヴィンウイルスの拡散を防ぐための大規模な措置を講じようとしない。しかし、ウイルス学者のウォン博士は、アルヴィンウイルスが突然変異し、感染すると狂犬病に似た深刻な病気を引き起こすのではないかと警鐘を鳴らしていた。 台北に住むカップルのカイティンとジュンジョーは、朝起きると休日の予定について揉めている。気を取り直して、ジュンジョーは仕事に出かけるカイティンを駅まで送り、帰りに飲食店に寄って朝食をとろうとする。そこへやって来た血まみれで目の黒くなった老婆が、客の顔に唾を吐き、店主の顔に煮立った油を押し付け焼いてしまう。老婆の唾を浴びた客は豹変し、ナイフで他の客を刺す。驚いて逃げるジュンジョーを追いかける老婆は、同じように黒い目をした不気味な顔の男が運転する車にはねられる。これらの猟奇的な人間は、アルヴィンウイルスの感染者だった。 多くの感染者に追われ、自宅アパートに逃げ込んだジュンジョーは、カイティンにスマートフォンで危険を知らせるメッセージを送る。すると突然侵入してきた隣人のリンに、植木ばさみで襲われ指を2本切り落とされる。ジュンジョーは反撃してリンを気絶させ、負傷した右手を布でぐるぐる巻きにし、命からがらオートバイで逃走する。 一方、台北地下鉄に乗っていたカイティンは、隣に座った中年の男性サラリーマンにしつこく話しかけられていた。そこへ乗車してきた感染者が涙を流すと、ナイフで他の乗客を無差別に殺傷し、飛び散った血液を浴びた者を次々と感染させる。カイティンに話しかけてきたサラリーマンも豹変し、居合わせた小太りの女性シェンの左目を持っていた傘の先で突き刺す。凶暴化した人々は、周囲の人間を襲いまくり血まみれになりながら強姦にまで及び、車内は地獄絵図と化す。カイティンは、目を刺されたシェンを抱えて地下鉄を降りたが、傘から斧に持ち替えたサラリーマンに執拗に追われる。駅から脱出しようとしたカイティンとシェンだったが、感染者を外に出さないようシャッターを下ろそうとした警備員に憤慨し顔を殴る。 カイティンとシェン、そして警備員は病院に逃げ込み、待合室にいる患者たちと一緒にテレビで非常事態宣言を発した総統の演説を視聴する。しかし、同席する陸軍司令官は感染者で、総統を手榴弾で爆殺してしまう。カイティンはジュンジョーに助けを求めるため連絡しようとするが、途中でスマートフォンを落としたのに気付き、一緒に来た警備員のスマートフォンを取り上げて使用する。そこへ追い付いた地下鉄のサラリーマンが、斧で病院のガラス扉を破壊し、中で警戒に当たっていた警察官を殺害、患者たちにも次々と襲いかかる。瞬く間に感染は広がり、豹変した人々は血みどろの殺し合いと乱交を始める。台車の下に隠れた警備員は、サラリーマンがシェンを強姦し感染させる様子を垣間見る。どうにか生き延びた警備員だったが、逃げる途中に音を立ててしまい、凶暴化したシェンに医療用カッターで粉砕され敢え無く命を落とす。 その間、ジュンジョーは郊外に逃げ込み、通りかかった学校で、感染者の同級生にリンチされている男子生徒を発見し救出しようとするが、被害者もすでに感染者であった。さらなる逃走の末、ジュンジョーはようやくカイティンと連絡を取ることができたが、会話の最中に幻覚を見て、感染の兆候を感じる。 病院では、追い詰められたカイティンが執念深いサラリーマンの頭に消火器を何度も打ち付けて潰し絶命させる。すると、近くにあった産婦人科の病室のドアが開き、中にいたウイルス学者のウォン博士に救出される。厳重な防護服に身を包んだウォン博士は、残虐行為を抑制する治療法を見つけるため試行錯誤していた。ウォン博士は、感染者が涙を流す理由について、人を傷つけたい欲望を制御できないことへの強い罪悪感によるものだと説明する。カイティンは汚染された服をゴミ箱に入れる際、中に赤ちゃんがいるのを発見する。ウォン博士は、カイティンに免疫の有無をテストするため血清を注射し、病室にいた赤ちゃんたちにも同様のテストをしたが全員感染しており廃棄せざるを得なかったと釈明する。 カイティンは密かにスマートフォンで病院に駆けつけたジュンジョーに自分の居場所を知らせる。カイティンに免疫があることを確認したウォン博士は、ワクチンの生成に利用するため軍に救助を要請し、自分が同行しなければ正当防衛で兵士に射殺されるだろうと彼女へ警告する。救援のヘリコプターに乗せようと武装して病室を出たウォン博士だったが、外にいた感染者らに不意打ちされ、何とかその感染者を射殺したものの深手を負った片足から感染が時間の問題となってしまう。さらにそこへカイティンからの連絡で現れたジュンジョーが、同じく凶暴化した感染者として迫ってきた。彼をも射殺しようと発砲するウォン博士だったが、ジュンジョーに致命傷こそ与えたものの反撃を食らい、赤ちゃんを殺すのは気分が良かったと言い残して絶命する。 壮絶な2人の殺し合いの隙にカイティンはヘリポートのある屋上に通じる階段に逃げ込み、設置された鉄格子の扉に鍵をかけて閉鎖。致命傷を負いながらも追ってきたジュンジョーは、鉄格子を隔てて感染の素晴らしさを告げ、カイティンを愛するが故になぶり殺したいと伝える。絶望のあまりとうとう笑い泣きするカイティンは階段を上り、扉を開けてヘリポートのある外の屋上へと出るが、側にウォン博士がいない彼女が生還する可能性は絶望的でしかなく、直後に屋上から数発の銃声が鳴り響く。そして鉄格子の外に残されたジュンジョーが邪悪な笑みを浮かべながら事切れ、物語は幕を下ろす。 キャスト
脚注
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