偽鰐類 (ぎがくるい、Pseudosuchia )は、爬虫類 のうち鳥頸類 (恐竜 と翼竜 )と共に主竜類 を二分する系統群。
概要
地面を這うものや直立歩行をするものなど多様性に富む。ジュラ紀 までに大部分が絶滅したが、現在でもワニ形上目 、特にワニ目 は生き残っている[ 2] 。代表的な初期の偽鰐類には後期三畳紀 のアルゼンチン に生息したリオジャスクス がおり[ 3] 、他に有名な属にはラウイスクス類 のサウロスクス や鷲竜類 のデスマトスクス などがいる[ 4] 。
2021年時点で、偽鰐類は現生のワニ を内包する分類群として扱われている[ 3] 。1990年にノード(分岐点)ベースの系統群として提唱された腿跗類 (Crurotarsi 、クルロタルシ)とほぼ同義であった[ 5] が、後の系統解析により植竜類 の位置づけが変化したため、2011年以降は腿跗類を偽鰐類よりも包括的な系統群と見る見解がある。2016年には再び植竜類を偽鰐類に含める説も出されており、腿跗類の位置づけは主竜類の上下に揺れ動いている[ 7] 。
特徴
偽鰐類の特徴としては、顎の骨にセメント質 の歯槽が形成され、そこに歯根がはめ込まれるようになっている点が挙げられる。これは偽鰐類のみでなく主竜形類 に広く共通する特徴ではあるが[ 8] 、歯槽を持つ爬虫類を纏め、現在では単系統群 とはみなされないものの「槽歯類 」として扱うこともある[ 9] 。
また、偽鰐類は歩行姿勢が直立に近い点も特徴である。恐竜 も直立歩行を実現させているが、彼らが腸骨 の寛骨臼 を貫通させて大腿骨 を下向きにしたのに対し、偽鰐類は寛骨臼(そして大腿骨)が下向きになるように股関節が膨らむことで直立を可能としている[ 9] 。ただし、偽鰐類の中でも現生のワニは四肢が体の横に付き出しており、直立歩行を行わなくなっている[ 10] 。基盤的な偽鰐類は半水棲に適応した現生のワニと違って扁平な体型でもなく、陸棲に適応していた。また頸部も獣脚類 の恐竜のように細長くなっていた[ 3] 。
分類と系統
偽鰐類はワニに似た外見を示す一方で、ワニそのものを含む系統とはみなされてこなかった[ 11] 。1980年代には「槽歯類 」は恐竜 の祖先にあたる分類群として扱われており、偽鰐類も恐竜(特に竜盤類 )の直系の祖先として「槽歯類」に分類されていた[ 12] [ 13] 。
偽鰐類は1985年にステム(幹)ベースのクレードとして定義された[ 14] 。その定義とは、ワニと、鳥類 よりもワニに近縁な全ての生物を含むものであった[ 15] 。伝統的には鷲竜類 のみを含んでいたが、系統群として定義されてからは偽鰐類という名称に反して広義のワニ類Suchiaや正鰐類 も包含するようになった[ 16] 。なお、腿跗類 はステムベースの系統群としては偽鰐類と同義であるが、ノード(分岐点)ベースの系統群としては同義ではない[ 5] 。2011年の系統解析で植竜類 の位置付けが変更されたため、腿跗類の範囲は変化した。Nesbitt (2011) では植竜類が主竜類の姉妹群に位置付けられ、腿跗類は系統学的には偽鰐類だけでなく鳥類系統の主竜類(鳥頸類)と植竜類を含む系統群となった。すなわち、腿跗類には恐竜・翼竜・植竜類も含まれるようになり、偽鰐類は依然としてワニ系統の主竜類だけを含んでいる。
以下は Nesbitt (2011) に基づいてワニ形上目の系統学的位置を示したクラドグラム である。
以下は Brusatte et al. (2010) に基づくクラドグラム 。この系統樹においては、クルロタルシ類と偽鰐類は同義である[ 17] 。
出典
^ Butler, Richard J.; Brusatte, Stephen L.; Reich, Mike; Nesbitt, Sterling J.; Schoch, Rainer R.; Hornung, Jahn J. (2011). “The sail-backed reptile Ctenosauriscus from the latest Early Triassic of Germany and the timing and biogeography of the early archosaur radiation” . PLOS ONE 6 (10): e25693. Bibcode : 2011PLoSO...625693B . doi :10.1371/journal.pone.0025693 . PMC 3194824 . PMID 22022431 . https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3194824/ .
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参考文献