アメリカ糖尿病協会(The American Diabetes Association)が2013年に発表した声明では、過体重の患者の体重減少の方法のひとつとして、2年までの短期間に炭水化物の摂取比率は「全エネルギーの40%未満」とする穏やかな低炭水化物食が推奨されたが、腎機能、脂質の特徴、タンパク質摂取量の監視と、適切な低血糖治療が必要であるとされた[3]。2014年にアメリカ糖尿病協会が発表した勧告(糖尿病患者の栄養摂取に関する勧告)では、「血糖値の制御には炭水化物計算法が重要ではあるが、カロリー源としての炭水化物・タンパク質・脂肪の最適なバランスは存在せず、個人個人の食生活や好みに合わせるべき」とされた(低脂肪食、カロリー制限食、地中海食も選択肢の1つに挙げている)[4]。
なお、サラ・B・サイドルマン(Sara B. Seidelmann)らによる論文『Dietary carbohydrate intake and mortality: a prospective cohort study and meta-analysis』[26]の骨子は「摂取エネルギーの50%程度を炭水化物から取ることで長生きできる」というものであり、25年間の追跡調査を実施しているが、その25年間で被験者に対して食事について尋ねたのは2回だけである。この論文に対しては複数の研究者が批評を寄せている。
ジョスリン・L・タン=シャラービィ(Jocelyn L. Tan-Shalaby)は「私はサラ・サイドルマンらとその同僚らによる研究を興味深く読んだが、これには注意せねばならない欠陥が複数ある。著者らは質問票を使った調査によるデータ収集には限界があることを十分に認めてはいるが、彼らの研究では、参加者らは25年間のうちに2回集まり、自分がどれぐらいの量の食べ物を食べたかを思い出すことになっていた」「重大な問題点をもう1つ挙げておくと、炭水化物の摂取量が最も少なかった参加者が、1日につき平均で1558kcalを摂取し、そのうちの37%が炭水化物によるものであった点にある。この分類分けの対比は、よく知られているケトン生成食(炭水化物の摂取割合は、摂取カロリーの約5%)および修正アトキンス・ダイエット(約10%)での炭水化物の摂取量が、定められたエネルギーの摂取量と著しく異なる」と批判している[30][31]。
アンジェラ・A・スタントン(Angela A. Stanton)は、「1558kcalの食事において、37%の炭水化物は144gに相当する。アメリカ政府が推奨する炭水化物の1日あたりの摂取許容量は130gであり、これはこの研究で定義されている『低炭水化物ダイエット』よりも少ない。1655kcalは『飢餓食』(A Starvation Diet)と見なされており 、参加者が25年以上に亘ってこの食事を続けるのは不可能である。また、記憶を頼りとする情報収集は思い違いだらけであり、因果関係を明確にするためにこれを使うなどありえない」と批判している[32][33]。
サイエンス・ジャーナリストのニーナ・タイショーツ(Nina Teicholz)は、「サラ・サイドルマンと同僚らによるこの論文には複数の問題点がある。第一に、食事についての情報は2つの実例のみに基づいており、食事内容の質が不十分である。彼らが使った食物頻度についての調査は制約を受けない形で検証されているようには見えず、質問事項は66個のみであり、ピッツァのような人気の高い食べ物の存在を無視している。1日あたりの摂取エネルギーは平均でおよそ1500kcalとの報告が示しているとおり、食べ物は明らかに過少申告されている」「第二に、この結果は、要するに、炭水化物を制限することで2型糖尿病を逆転させ、大部分の心血管危険因子を好転できること、ならびに、『炭水化物を制限する食事が、体重減少を目標とした他の食事と同等か、あるいはそれ以上に優れている』と結論付けた、数多くある厳格な無作為化比較臨床試験とは異なる。著者らは、このような健康の好転が最終的に寿命を縮める仕組みについてを説明せねばならない」「第三に、サイドルマンらが『最も好ましい』と判断した、『適度な』糖質食(摂取カロリーの50 - 55%)については、実を言うと、5万人以上の人間を対象とした臨床試験(※1993年から2001年にかけて、アメリカ国立衛生研究所(The National Institutes of Health)が実施した『The Women's Health Initiative 』〈『女性の健康構想』〉を指す。被験者の女性たちは、炭水化物の摂取を増やし、脂肪の摂取を減らし、「食べる量を減らして運動量を増やす」を8年間続けたところ、女性たちの腰周りは膨らんだ。さらに、研究の担当者は「炭水化物が多く、脂肪が少ない食事は癌を防げなかった」と報告した[信頼性の低い医学の情報源?][34])が既に実施されている。以前に行われたこれらの試験の結果が示しているのは、この『炭水化物を適度に摂取する』食事法は、糖尿病、肥満、心臓病、あらゆる種類の癌に立ち向かうという点において、何の効果も見られなかったということである。このような食事は、高密度リポプロテイン・コレステロールを減少させ、血中における中性脂肪の濃度を増加させることが分かっており、これらはいずれも心血管の危険の悪化の前兆である。著者らは、自分たちの観察研究で得られた調査結果と、より厳密な臨床試験での証拠で得られた調査結果との間に見られるこれらの不一致に対処せねばならない」と批判している[35][36]。
また、論文『Low carbohydrate diet and all cause and cause-specific mortality』における炭水化物の摂取量について、摂取エネルギーが最も低い群(1715kcal)での炭水化物の摂取割合は「65.2%」、摂取エネルギーが最も高い群(2440.6kcal)での炭水化物の摂取割合は「42.8%」となっている。炭水化物の摂取量については、前者は「約280g」、後者は「約261g」となっており、食事の内容については「食物頻度調査票」(Food Frequency Questionnaire)に基づいていた[27]。
^ abSondike, Stephen B.; Copperman, Nancy; Jacobson, Marc S. (2003). “Effects of a low-carbohydrate diet on weight loss and cardiovascular risk factor in overweight adolescents”. The Journal of Pediatrics142 (3): 253–258. doi:10.1067/mpd.2003.4. ISSN00223476.
^ abcdYancy WS, Olsen MK, Guyton JR, Bakst RP, Westman EC (May 2004). “A low-carbohydrate, ketogenic diet versus a low-fat diet to treat obesity and hyperlipidemia: a randomized, controlled trial”. Ann. Intern. Med.140 (10): 769-777. PMID15148063.
^Eric C Westman, Richard D Feinman, John C Mavropoulos, Mary C Vernon, Jeff S Volek, James A Wortman, William S Yancy, and Stephen D Phinney, Low-carbohydrate nutrition and metabolism (2007)
^Papamichou, D.; Panagiotakos, D.B.; Itsiopoulos, C. (2019). “Dietary patterns and management of type 2 diabetes: A systematic review of randomised clinical trials”. Nutrition, Metabolism and Cardiovascular Diseases29 (6): 531–543. doi:10.1016/j.numecd.2019.02.004. PMID30952576.
^Westman EC, Yancy WS, Edman JS, Tomlin KF, Perkins CE (July 2002). “Effect of 6-month adherence to a very low carbohydrate diet program”. Am. J. Med.113 (1): 30–6. PMID12106620.
^Effects of low-carbohydrate and low-fat diets: a randomized trial. Bazzano LA, and others. Ann Intern Med: 2014;161(5);309-18. doi:10.7326/M14-0180.
^ abKrebs JD, Elley CR, Parry-Strong A, et al. (April 2012). “The Diabetes Excess Weight Loss (DEWL) Trial: a randomised controlled trial of high-protein versus high-carbohydrate diets over 2 years in type 2 diabetes”. Diabetologia55 (4): 905–14. doi:10.1007/s00125-012-2461-0. PMID22286528.
^Ebbeling CB, Swain JF, Feldman HA, et al. (June 2012). “Effects of dietary composition on energy expenditure during weight-loss maintenance”. JAMA307 (24): 2627–34. doi:10.1001/jama.2012.6607. PMID22735432.
^Isabelle Romieu, Eduardo Lazcano-Ponce, Luisa Maria Sanchez-Zamorano, Walter Willett & Mauricio Hernandez-Avila (August 2004). “Carbohydrates and the risk of breast cancer among Mexican women”. Cancer epidemiology, biomarkers & prevention : a publication of the American Association for Cancer Research, cosponsored by the American Society of Preventive Oncology13 (8): 1283–1289. PMID15298947.
^Manzoli, Lamberto; Noto, Hiroshi; Goto, Atsushi; Tsujimoto, Tetsuro; Noda, Mitsuhiko (2013). “Low-Carbohydrate Diets and All-Cause Mortality: A Systematic Review and Meta-Analysis of Observational Studies”. PLoS ONE8 (1): e55030. doi:10.1371/journal.pone.0055030.
^Nilsson, Lena Maria; Winkvist, Anna; Johansson, Ingegerd; Lindahl, Bernt; Hallmans, Göran; Lenner, Per; Van Guelpen, Bethany (2013). “Low-carbohydrate, high-protein diet score and risk of incident cancer; a prospective cohort study”. Nutrition Journal12 (1). doi:10.1186/1475-2891-12-58.
^ abA. Trichopoulou, T. Psaltopoulou, P. Orfanos, C.-C. Hsieh & D. Trichopoulos (May 2007). “Low-carbohydrate-high-protein diet and long-term survival in a general population cohort”. European journal of clinical nutrition61 (5): 575–581. doi:10.1038/sj.ejcn.1602557. PMID17136037.
^ abP. Lagiou, S. Sandin, E. Weiderpass, A. Lagiou, L. Mucci, D. Trichopoulos & H.-O. Adami (April 2007). “Low carbohydrate-high protein diet and mortality in a cohort of Swedish women”. Journal of internal medicine261 (4): 366–374. doi:10.1111/j.1365-2796.2007.01774.x. PMID17391111.
^Weickert MO, Roden M, Isken F, et al. (August 2011). “Effects of supplemented isoenergetic diets differing in cereal fiber and protein content on insulin sensitivity in overweight humans”. Am. J. Clin. Nutr.94 (2): 459–71. doi:10.3945/ajcn.110.004374. PMID21633074.
^Weickert MO, Roden M, Isken F, et al. (August 2011). “Effects of supplemented isoenergetic diets differing in cereal fiber and protein content on insulin sensitivity in overweight humans”. Am. J. Clin. Nutr.(英語版)94 (2): 459–71. doi:10.3945/ajcn.110.004374. PMID21633074.