この項目では、力学における二重振り子について説明しています。野球における打法については「W-スピン 」をご覧ください。
二重振り子のアニメーションルンゲ=クッタ法 による数値計算 より
二重振り子 (にじゅうふりこ、英 : double pendulum )は振り子 の先にもうひとつの振り子を連結したもの[ 1] 。振り子を一旦揺らすと、カオス と呼ばれる極めて複雑で非周期的な運動が発生することで知られている。実物を比較的手軽に製作可能なことから、カオス現象の紹介や入門としての演示実験によく使用される。
運動方程式
振子の腕の先端に質点がある場合の二重振り子形式図
二重振り子の運動方程式 はラグランジュ関数 を用いて導出される場合が多い[ 4] [ 5] 。各振り子の腕は剛体 、連結部での摩擦 や空気抵抗 のような減衰 は無い、外力は働かない自由振動 とすれば、以下のような運動方程式が得られる。
それぞれの振子の腕の先端に質点が存在するモデル(単振り子 を連結したモデル)の運動方程式を示す[ 4] 。
(
m
1
+
m
2
)
l
1
θ
¨
1
+
m
2
l
2
θ
¨
2
cos
(
θ
1
−
θ
2
)
+
m
2
l
2
θ
˙
2
2
sin
(
θ
1
−
θ
2
)
+
(
m
1
+
m
2
)
g
sin
θ
1
=
0
{\displaystyle (m_{1}+m_{2})l_{1}{\ddot {\theta }}_{1}+m_{2}l_{2}{\ddot {\theta }}_{2}\cos(\theta _{1}-\theta _{2})+m_{2}l_{2}{\dot {\theta }}_{2}^{2}\sin(\theta _{1}-\theta _{2})+(m_{1}+m_{2})g\sin \theta _{1}=0}
l
1
l
2
θ
¨
1
cos
(
θ
1
−
θ
2
)
+
l
2
2
θ
¨
2
−
l
1
l
2
θ
˙
1
2
sin
(
θ
1
−
θ
2
)
+
g
l
2
sin
θ
2
=
0
{\displaystyle l_{1}l_{2}{\ddot {\theta }}_{1}\cos(\theta _{1}-\theta _{2})+l_{2}^{2}{\ddot {\theta }}_{2}-l_{1}l_{2}{\dot {\theta }}_{1}^{2}\sin(\theta _{1}-\theta _{2})+gl_{2}\sin \theta _{2}=0}
ここで、θ 1 、θ 2 :各振り子角、m 1 、m 2 :各質量、l 1 、l 2 :各振り子長さ、g :重力加速度 で、˙は時間 t による1階微分 、¨はt による2階微分を表す。
一方、それぞれの振子の腕の中間に質点が存在するモデル(物理振り子 を連結したモデル)の運動方程式を示す[ 5] 。
(
m
1
+
4
m
2
)
l
1
θ
¨
1
+
2
m
2
l
2
θ
¨
2
cos
(
θ
1
−
θ
2
)
+
2
m
2
l
2
θ
˙
2
2
sin
(
θ
1
−
θ
2
)
+
(
m
1
+
2
m
2
)
g
sin
θ
1
=
0
{\displaystyle (m_{1}+4m_{2})l_{1}{\ddot {\theta }}_{1}+2m_{2}l_{2}{\ddot {\theta }}_{2}\cos(\theta _{1}-\theta _{2})+2m_{2}l_{2}{\dot {\theta }}_{2}^{2}\sin(\theta _{1}-\theta _{2})+(m_{1}+2m_{2})g\sin \theta _{1}=0}
l
2
θ
¨
2
+
2
l
1
θ
¨
1
cos
(
θ
1
−
θ
2
)
−
2
l
1
θ
˙
1
2
sin
(
θ
1
−
θ
2
)
+
g
sin
θ
2
=
0
{\displaystyle l_{2}{\ddot {\theta }}_{2}+2l_{1}{\ddot {\theta }}_{1}\cos(\theta _{1}-\theta _{2})-2l_{1}{\dot {\theta }}_{1}^{2}\sin(\theta _{1}-\theta _{2})+g\sin \theta _{2}=0}
ここで、2l 1 、2l 2 :各振り子長さで、他は上記の単振り子連結モデルと同じである。どちらのモデルも力学系の解析ではよく扱われる[ 5] 。
これらの系の運動状態は、
θ
1
{\displaystyle \theta _{1}}
、
θ
2
{\displaystyle \theta _{2}}
、
θ
˙
1
{\displaystyle {\dot {\theta }}_{1}}
、
θ
˙
2
{\displaystyle {\dot {\theta }}_{2}}
の4つの変数で一意に決定される。しかし、これらの運動方程式の理論解析は困難なため、運動状態を得るにはコンピュータによる数値解析が行われる。変数の時間発展を得るためにルンゲ=クッタ法 などが使用される。
簡単のために状態を限定すれば厳密解を得ることもでき、振り子の振り幅が小さい範囲として、なおかつm 1 = m 2 = m 、l 1 = l 2 = l とすれば、運動は2つの固有振動 の足し合わせで表され、それぞれの固有振動数 ω 1 、ω 2 は以下のように得られる[ 4] 。
ω
1
=
2
−
2
g
l
=
0.765
g
l
{\displaystyle \omega _{1}={\sqrt {2-{\sqrt {2}}}}{\sqrt {\frac {g}{l}}}=0.765{\sqrt {\frac {g}{l}}}}
ω
2
=
2
+
2
g
l
=
1.848
g
l
{\displaystyle \omega _{2}={\sqrt {2+{\sqrt {2}}}}{\sqrt {\frac {g}{l}}}=1.848{\sqrt {\frac {g}{l}}}}
実物による教材
二重振り子先端に付けたLEDランプ 軌道の長時間露光写真
カオス運動を行う二重振り子の実物を比較的簡単に製作できることから、カオス理論 入門のための講義用教材として二重振り子が採り上げられることが多い。カオスの命名の一人である数学者のジェームズ・ヨーク(James A. Yorke )も、初心者向け講義で実物の二重振り子を教材に使用していた。よく運動する実物の製作にあたっては、二重振り子の運動エネルギーをできるだけ減衰させない工夫が必要となる。例えば、連結部分で大きな摩擦 が発生しないようベアリング を入れたり、滑りの良いプラスティック 素材を使用するなど工夫が採られる。ビデオカメラ による撮影を行うときは、振り子先端にLEDライトなどを取り付けて振り子の軌道をより分かり易くする工夫も採られる。
その運動の視覚的面白さから、小中高校生向けに理科 への興味を与える演示実験教材としても二重振り子がよく採り上げられる[ 11] [ 12] 。公益法人や大学主催のテクノフェスタ、サイエンスフェスタで、実物の二重振り子を使用した演示実験が行われている[ 12] 。小学生を対象に簡易な二重振り子の製作・実演までを行う教材研究も行われており、これによるとほとんどの生徒が二重振り子の運動に興味を持ったなどの結果を得ている[ 11] 。
脚注
参考文献
関連項目
外部リンク