二次体 (にじたい、英: quadratic field) は、有理数体上、2次の代数体のことである。任意の二次体は、平方因子を含まない 0, 1 以外の整数 d を用いて、 と表現される。もし、d > 0 である場合、実二次体 (real quadratic field)、d < 0 の場合、虚二次体 (imaginary quadratic field) という。
性質
体論・環論
- 任意の二次体は、ガロア拡大体であり、ガロア群は巡回群となる。
- その整数環がノルムユークリッド整域となる二次体 は、d = −11, −7, −3, −2, −1, 2, 3, 5, 6, 7, 11, 13, 17, 19, 21, 29, 33, 37, 41, 57, 73 だけである。
- その整数環が一意分解整域となる虚二次体 は、d = −1, −2, −3, −7, −11, −19, −43, −67, −163 だけである。
- 任意の二次体 K に対して、有理素数[1] p は、以下のいずれかを満たす。
- ( は、相異なる K の素イデアル)。 (このとき、p は、K で完全分解であるという。)
- ( は、K の素イデアル)。 (このとき、p は、K で不分解であるという。)
- は、K の素イデアルである。 (このとき、p は、K で不分岐であるという。)
二次体の判別式
- 二次体 の判別式を D としたとき、
従って、d ≡ 1 (mod 4) のときは、、それ以外のときは、 が、 の整基底となる。
二次体の単数
- EK を、二次体 の単数群としたとき、
- d = − 1 のとき:EK = { ± 1, ± i } 。
- d = −3 のとき:EK = { ± 1, ± ω, ± ω2 } (ω = (− 1 + √− 3)/2) 。
- d < 0 かつ、d ≠ − 1, − 3 のとき:EK = { ± 1 } 。
- d > 0 のとき: (ε0 は基本単数)。
- D を、二次体 の判別式とし、自然数 x*, y* を、
- x2 − Dy2 = ± 4[2][3]の最小の有理整数解としたとき、(x* + y*√D)/2 は、K の基本単数である。
に対する基本単数
d |
2 |
3 |
5 |
6 |
7 |
10 |
11 |
13 |
14
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基本単数
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二次体と円分体
- 任意の二次体 K に対して、ある整数 n が存在して、 。ここで、 は、1 の原始 n 乗根である[4]。
- 特に、n = 2q (q ≥ 3) とすれば、円分体 には、 が含まれる。
二次体と初等整数論
二次体と初等整数論との関係を述べる。
平方剰余の相互法則
をルジャンドル記号とすると、次が成立する。
- 平方因子を持たない素数 a と、2a と互いに素な素数 p に対して、
- は、 上で、相異なる2つの素イデアルの積で表される。
二次形式
有理整数係数の二元二次形式の類数を H(D) (D は、二次形式の判別式) とし、
二次体 の(代数体としての)類数を、hK とすると、H(D) = hK である。つまり、有理整数係数の二元二次形式の類と、二次形式の判別式で作られる二次体のイデアル類とは、一対一の対応を付けることができる。
二次体の類数
ディリクレの類数公式
二次体 K の判別式を D とし、χ を に対するクロネッカーの指標[5]とする。K に対する ディリクレの L 関数を用いて、K の類数 hK は
で与えられる。ただし、κ は、
で与えられる 0 でない実数である。ここで、w は、K に含まれる 1 のベキ根の数、ε0 は、K の基本単数とする。
さらに上式は、以下の形で有限和の形で表現することが可能である。
- .
- .
ただし、ε0 は、K の基本単数、d = |D|、w は、K に含まれる 1 のベキ根の数とする。
これらの式を総称してディリクレの類数公式[6]という。
類数を表す式は、他にも、デデキントのゼータ関数の での留数で表現するものも知られている。
を、二次体 K のデデキントのゼータ関数とすると、以下の式が成立する。
- 。
ただし、κ は、上記、ディリクレの類数公式で与えられた κ である。
類数に関するガウスの予想
ガウスは、二元二次形式の研究により、二次形式の類数について、いくつかの予想を残している。今日、これらを総称して、類数に関するガウスの予想という。特に、予想4 のことをガウスの予想とすることも多い。
ここでは、ガウスが挙げた予想について、二次体での言葉に翻訳して述べる。
- K を二次体とし、DK, hK を K の判別式、類数としたとき、 ならば、 である。
- 類数が 1 である実二次体は、無限に存在する。
- 与えられた自然数 k に対して、類数が k である虚二次体は有限個しか存在しない。
- 類数が 1 である虚二次体 は、d が以下の場合に限る。
- 1, 2, 3, 7, 11, 19, 43, 67, 163.
予想 1 について。
予想が成立することは、1934年にハイルブロン (H. Heilbronn) が証明し、ジーゲル (C. L. Siegel) により、類数の増大度について、以下の様な結果が得られた。
- 。
予想 2 について。
現在でも、この予想が成立するか否かは不明である。もっと一般に、類数が 1 である代数体が無限に存在するかも分かっていない。
予想 3 について。
1973年に、ザギエ (D. Zagier) とグロス (B. Gross) によって、予想が成り立つことが証明された。
予想 4 について。
この予想は、まず、ヘーグナー (K. Heegner) によって、この予想が成立することが証明されたが、彼の証明には、不備があり、その誤りが訂正されたのは1968年である。そのため、この予想を最初に証明したのは、ベイカー (A. Baker) とスターク (H. M. Stark) であるとされる。(1966年の証明)
その後、類数が 2 である虚二次体 がベイカーとスタークにより解決され、現在までに、類数が100以下の虚二次体が決定している。
注釈
- ^ 有理整数である素数のこと。
- ^ x2 − Dy2 = − 4 に有理整数解を持たない場合に限り、x*, y* を x2 − Dy2 = 4 の解として選ぶ。
- ^ 平方因子を持たない0, 1 以外の整数 a および、c = ± 1, ± 4 に対して、x2 − ay2 = c の形の不定方程式をペル方程式という。
- ^ n として、K の判別式の絶対値とすると、このことが成立する。
- ^ をクロネッカーの記号としたとき、 で与えられるディリクレ指標のことを、クロネッカーの指標という。
- ^ L関数を用いない式に対して、ディリクレの類数公式ということもある。
参考文献
- 河田, 敬義『数論 -古典数論から類体論へ-』岩波書店、東京、1992年。
- ノイキルヒ, J. 著、足立恒雄(監修)・梅垣敦紀 訳『代数的整数論』シュプリンガー・フェアラーク東京、東京、2003年。
- Watkins, M. (2004). “Class numbers of imaginary quadratic fields”. Math. Comp. 73: 907-938.
外部リンク
関連項目