中村 健二郎 (なかむら けんじろう、1947年 (昭和 22年)3月6日 - 1979年 (昭和54年)10月27日 )は、日本 の経済学者 。東京工業大学 工学博士 。専門はゲーム理論 、社会工学 。社会選択理論 にゲーム理論を導入し、「中村の定理」や「中村ナンバー 」は世界的に知られている[ 10] 。東京工業大学手島精一記念研究賞 の一つ、「中村健二郎賞」にも名を残す[ 11] 。
東京工業大学理工学部 数学科 、同大学院数学専攻修士課程、同大学院社会工学専攻博士後期課程と、一貫して鈴木光男 のもとでゲーム理論研究に打ち込む。工学部 社会工学科 助手 、理学部 情報科学科 助手を経て、一般教養 統計学 担当助教授 に就任するが、その直後に32歳で死去。その早い死は国内外のゲーム理論研究者に惜しまれた。
生涯
大学学部まで
1947年 3月6日 生まれ。
1966年 4月に中村は東京工業大学 に入学し、翌年1967年 に理学部 数学科 へ進学。鈴木光男 の講義を受けていた社会工学科 の友人・林亜夫[ 注釈 1] の影響でゲーム理論 に興味を持ち、雑誌『数理科学』に掲載された鈴木の記事[ 注釈 2] を読む。
中村はゲーム理論を学ぶ気になり、林を通じて鈴木にも打診する。4年生になると所属する学科に関係なく研究室を希望できたため、中村は数学科ながら社会工学科の鈴木研究室に所属した。同期生に林や中山幹夫 がいる。
鈴木光男研究室時代
1970年(1969年度末)、中村は卒業論文「ミニマックス定理と不動点定理および分離定理との関係」を提出し、同年4月に東京工業大学 大学院理工学研究科 数学専攻 に進学。同専攻の教授・国沢清典の指導を受けるとともに、引き続き鈴木研究室でゲーム理論 の研究を続ける。1971年11月、最初の学会発表を経験する。1972年(1971年度末)、修士論文 「Mーquota Game のKー安定」を書き上げ、4月からは社会工学専攻 で博士後期課程に進学する。
鈴木が1973年に出版した『ゲーム理論の展開』では、他の研究室メンバーとともに中村も分担執筆を担当。「コアの理論」「手付けの存在を前提としないn人ゲームの理論」「シャープレイ値」「k安定の理論」を執筆した。1974年9月、ドイツ で行われた“International Workshop on Basic Problem of Game Theory”に鈴木とともに招待される。中村は“The core of a simple game with ordinal preferences”を報告した。
中村は社会選択理論 にゲーム理論を適用し、拡大戦略系ゲームという概念を提案。従来個別に検討されてきた多くの社会選択理論をゲーム理論で統一的に扱った。1975年3月、中村は博士後期課程を修了し、工学博士 の学位を取得[ 26] 。社会工学における最初の工学博士とされる。学位取得後は工学部社会工学科 の助手 に就任するが、1976年に鈴木が理学部 情報科学科 へ移籍した際に、中村も一緒に同学科へ異動している。私生活では1973年に父を失っていた中村であったが、同年12月に結婚している。
研究室では、1975年に農林水産省 から来ていた黒川泰亨と共同研究を実施[ 30] 。1976年には鈴木との共著で『社会システム ―ゲーム論的アプローチ―』 が出版され、「社会工学的な分野の柱石」と評価された。また、2学年下の金子守 とは、ナッシュ の社会厚生関数に取り組み、中山幹夫 とはハーサニ の社会厚生関数を研究している。大学院時代の岡田章 とは学会誌の解説記事を執筆し[ 33] 、学会活動ではオペレーションズリサーチ 学会で研究普及委員を務めている[ 34] [ 35] 。
なお、中村は博士論文で投票ゲームでコアが空でない条件を導出しており、これをさらに発展した単純ゲームのコアが空でないための条件を導くKeyナンバーを定義する。この数はペレグ[ 37] によって中村ナンバー (Nakamura-number、中村数)と名付けられた。これはアメリカ の教科書や講義でも、紹介されている[ 10] 。
助教授昇進、死去
1978年9月1日、東京工業大学 一般教養 統計学 担当助教授 に就任。しかし1979年から体調を崩し、10月27日、享年32歳で死去。学会(国際会議、カンファレンス)でルーカスが中村の死を報告した際、会場はどよめいたという。
その後、鈴木光男 は中村の遺稿集を編纂し、1981年に『中村健二郎遺稿集 ゲーム理論と社会選択』と題して出版[ 40] 。この遺稿集の書評論文(渡部 1982 )を執筆した慶應義塾大学 の渡部隆一は、短い人生における業績の数々に驚いている。
なお、中村の墓は青山墓地 に設けられた。また、遺族は大学に3千万円を寄付し、1989年に手島精一記念研究賞 の一つとして「中村健二郎賞」が設立される。同賞では35歳以下の若手研究者を顕彰している[ 11] 。
主な著作
著書
論文
鈴木光男, 中村健二郎「社会的意志決定とcoalition power 」『季刊 理論経済学』第23巻第3号、日本経済学会、1973年、1-12頁、doi :10.11398/economics1950.23.3_1 、ISSN 0557-109X 、NAID 130006936336 。
Nakamura, K. (1973), “ψ-Stability of a cooperative game without side payment ”, International Journal of Game Theory 2 (3): 129-140
Nakamura, K. (1975), “The core of a simple game with ordinal preferences ”, International Journal of Game Theory 4 (2): 95-104
Ishikawa, S., Nakamura, K. and Okada, A. (1977), “A note on existence of a continuous utility function ”, Keio Economic Studies 16 (1/2): 53-56
黒川泰亨、中村健二郎「不確実性下における林業経営計画 」、『オペレーションズ・リサーチ学会論文誌』第20巻第4号、1977年12月、259-272頁。
NAKAMURA KENJIRO「NECESSARY AND SUFFICIENT CONDITIONS ON THE EXISTENCE OF A CLASS OF SOCIAL CHOICE FUNCTIONS 」『季刊 理論経済学』第29巻第3号、JAPANESE ECONOMIC ASSOCIATION、1978年、259-267頁、ISSN 0557-109X 、NAID 130004999107 。
Nakamura, K. (1979), “The vetoers in a simple game with ordinal preferences ”, International Journal of Game Theory 8 (1): 55-61
Ishikawa, S. and Nakamura, K. (1979), “On the existenc of the core of a characteristic function game with ordinal preferences ”, Journal of the Operations Research Society of Japan 22 (3): 225-232 [ 注釈 4]
Kaneko, M. , Nakamura, K. (1979), “The Nash social welfare function ”, Econometrica 47 (2): 423-435
Nakamura, K. and Ishikawa, S. (1980). “Representation of characteristic function games by social choice functions ”, International Journal of Game Theory 9 (4): 191-199
紀要・Proceedings
Nakamura, K. (1977), “The equivalence of the Mini-max theorem and a separation theorem”, Research Report of the Department of Information Sciences , Tokyo Institute of Technology
中村健二郎「A Composite Objective Function for the Multi-Objective Programmings (数理計画と決定過程論) 」『数理解析研究所講究録』第299巻、京都大学数理解析研究所、1977年6月、8-26頁、CRID 1050001335649241728 、hdl :2433/106273 、ISSN 1880-2818 、NAID 110007365158 。
中村健二郎, 中山幹夫「Discrepancy between Harsanyi and Diamond on Social Preferences」『富山大学紀要. 富大経済論集』第24巻第2号、富山大学、1978年11月、233-237頁、CRID 1570854176798862464 、ISSN 02863642 、NAID 110000398173 。「機関リポジトリでの公開なし(2024-01-10)」
Nakamura, K. and Nakayama, M. (1978), “Note on Harsanyi′s Social Welfare Function”, 富山大学紀要 富大経済論集 23 (3): 563-568. NAID 110000398150
Nakamura, K. (1979), “Unification of existence theorem of social choice functions by simple games (I)”, Discussion Paper of Tokyo Institute of Technology
Nakamura, K. (1979), “Unification of existence theorem of social choice functions by simple games (II)”, Proceedings of the Keio Economic Research Projects 1979 : 1-24
解説
脚注
注釈
出典
^ a b “明海大学不動産学部/新学部長に林氏/不動産学科主任は中城氏 ”. 週刊住宅ONLINE. 2016年10月16日閲覧。
^ a b 林亜夫「ゴミ処理施設共同事業の仁による費用負担分析(<特集>ゲーム理論の応用)」『オペレーションズ・リサーチ : 経営の科学』第23巻第4号、日本オペレーションズ・リサーチ学会、1978年4月、214-220頁、CRID 1573387451673344384 、ISSN 00303674 、NAID 110001185955 。
^ a b 林亜夫『市町村の組合協同処理事務における市町村間費用負担の分析 』、東京工業大学博士学位論文(乙第1517号)、1986年1月31日学位授与(工学博士)、NAID 500000005804 。
^ “基調講演「不動産再生事業の必要性と課題」明海大学不動産学部長 林亜夫 ”. 社会変革のための不動産再生事業のあり方 . 日経ユニバーシティ・コンソーシアム. 2016年10月16日閲覧。
^ a b 下村研一 「価格理論とゲーム理論の『独身時代』」、『経済セミナー』2002年3月、15-16頁。
^ a b “手島精一記念研究賞受賞者発表・受賞式 ”. 東京工業大学 (2013年2月26日). 2016年10月15日閲覧。
^ 中村健二郎『複数主体間の分配に関する利害構造の規範的分析 』、東京工業大学博士学位論文(甲第778号)、1975年3月26日学位授与(工学博士)、NAID 500000377832 。
^ 黒川泰亨、中村健二郎「不確実性下における林業経営計画 」、『Journal of the Operations Research Society of Japan』第20巻第4号、1977年12月、259-272頁。
^ 中村健二郎、岡田章 「国際関係の結果予測の展開形ゲーム ―シナリオ・バンドル法― 」、『オペレーションズ・リサーチ 経営の科学』第23巻第4号、1978年4月、232-239頁。
^ 是枝正啓, 高橋昭, 西田修三, 林亜夫, 原野秀永, 渡辺浩, 真庭功, 足立孝義, 中村健二郎, 山下浩「地域環境の問題とOR」『オペレーションズ・リサーチ : 経営の科学』第24巻第9号、日本オペレーションズ・リサーチ学会、1979年9月、571-572頁、ISSN 00303674 、NAID 110001185836 。
^ 古村哲也, 杉野隆, 鈴木悦郎, 中村健二郎, 山内慎二, 横山勝義「マルコフモデルとOR」『オペレーションズ・リサーチ : 経営の科学』第24巻第1号、日本オペレーションズ・リサーチ学会、1979年1月、44-45頁、ISSN 00303674 、NAID 110001186532 。
^ Peleg, B. (1978), “Representation of simple games by social choice functions ”, International Journal of Game Theory 7 (2): 81-94
^ a b “中村 健二郎 遺稿集 ゲーム理論と社会選択 鈴木 光男 編 ”. 国立国会図書館. 2016年10月16日閲覧。
参考文献
外部リンク
中村の定理の謎 . (2006年11月9日). ある平凡助教授の,なんということもない日々.