ワニトカゲギス目
ワニトカゲギス目(学名:Stomiiformes)は、硬骨魚綱の分類群(目)の一つ。ヨコエソ亜目およびギンハダカ亜目の2亜目のもと、4科52属414種で構成される[1]。ほとんどの種類は深海で生活しており、分布範囲が広く個体数も多い重要な深海魚が多数含まれる。 キュウリウオ目と近縁であり[2]、原始的な特徴を一部共有するなど関係が深い。かつてはワニトカゲギス目全体がキュウリウオ目とともに、サケ目の一部として含められていた[3]。 分布・生態ワニトカゲギス目の魚類はすべて海水魚で、世界中の熱帯から温帯域にかけて幅広く分布する[1]。ほぼ全種が深海性で、海底から離れた中層を漂って生活する。中深層(水深200-1,000m)の遊泳性魚類としてはハダカイワシ類と並び生物量が多く、個体数と種数の両面で支配的な位置を占めている[1]。 ほぼすべての種が生物発光を行い、捕食や敵からの回避行動に役立てている[1]。発光器は左右の腹側に列を成していることが多く、発光バクテリアに頼らない自力発光により明滅する。発光器の組織学的形態には特徴が多く、本目の単系統性を裏付ける要素の一つと捉えられている[1]。 形態体型は一般に細長い。体長は10cm前後の小型種が多く、最大でも50cm程度である。ムネエソ科(ムネエソ亜科)は著しく側扁した平べったい体をもち、体高も比較的高い。体色は暗褐色から黒色であることが多いが、ヨコエソ亜目の一部は一様に銀色となる[1]。口は大きく、ほとんどの種において口の後端は眼よりも後方に達する[1]。前上顎骨・主上顎骨に鋭い歯を備え、科によっては顎ヒゲをもつ。 すべての鰭は軟条のみで構成され、棘条をもたない[4]。腹側に脂鰭をもつ場合もある[1]。腹鰭の鰭条は4-9本、鰓条骨は5-24本[1]。種によっては、背鰭・胸鰭・脂鰭をそれぞれ欠く[1]。鱗がある場合は円鱗で、はがれやすい[1]。 分類ワニトカゲギス目はヨコエソ亜目とギンハダカ亜目の2亜目のもと、4科52属414種で構成される[1]。本目全体の単系統性は、発光器や歯の形態などさまざまな共有派生形質によって支持されている[1]。 これまで本目は単独で狭鰭上目 Stenopterygii を構成し、最も原始的な新真骨類(Neoteleostei)として位置付けられてきた[5]。しかし、近年の多くの分子系統解析結果に基づき、ワニトカゲギス目は新真骨類から除外され、ニギス目・キュウリウオ目とともに新たな上目(Osmeromorpha)に含められるようになっている[6]。 ヨコエソ亜目ヨコエソ亜目 Gonostomatoidei はヨコエソ科およびムネエソ科の2科で構成され、18属104種が所属する[1]。Nelson(2006)によって独立の科(ユメハダカ科)とされたユメハダカ属など3属は、新たな体系(Nelson, 2016)では再びヨコエソ科の一部に含められた[1][7]。 オニハダカ属の1種を除き、胸鰭の支持骨は4本[1]。顎の歯は小さく均等な大きさで、真の鰓耙をもつ[1]。発光器は管腔を備え連続的に配列する[1]。 ヨコエソ科ヨコエソ科 Gonostomatidae は8属31種からなる[1]。本科のオニハダカ属およびギンハダカ科のウキエソ属魚類は極圏を含む全世界の外洋に広く分布し、地球上の脊椎動物として最大の個体数をもつグループと考えられている[1]。 鰓条骨は12-16本で、4-6本は上舌骨上にある[1]。鰓条発光器は8-16個[1]。
ムネエソ科ムネエソ科 Sternoptychidae は2亜科10属73種で構成される[1]。キュウリエソ亜科は細長く、ムネエソ亜科は左右に平べったく側扁し大きな体高をもつことが特徴[1]。 鰓条骨は6-10本で、上舌骨には3本[1]。鰓条発光器は3-7個で、通常は6個[1]。
ギンハダカ亜目ギンハダカ亜目 Phosichthyoidei はギンハダカ科およびワニトカゲギス科の2科で構成され、34属310種が所属する[1]。胸鰭の支持骨は通常3本で、胸鰭が退化的ないくつかの属では0-2本[1]。 ギンハダカ科ギンハダカ科 Phosichthyidae は7属24種を含む[1]。本科は側系統群である可能性が指摘されている[1]。 全体的な形態はヨコエソ科と類似し、Yarrella 属以外は脂鰭をもつ[1]。上主上顎骨は通常2個で、下顎のヒゲはない[1]。
ワニトカゲギス科ワニトカゲギス科 Stomiidae は5亜科27属286種で構成され、ワニトカゲギス目で最大のグループとなっている[1]。 ほとんどの種類は暗い体色で、下顎にヒゲがある[1]。成魚は真の鰓耙をもたず、上主上顎骨は0-1個[1]。発光器に管腔は付属しない[1]。 各亜科ならびにホウライエソ属を、それぞれ独立の科(トカゲハダカ科・ワニトカゲギス科・ホウライエソ科・ホテイエソ科・ミツマタヤリウオ科・ホウキボシエソ科)として扱う見解もある[3][9]。
系統2008年、分子系統解析に基づく以下のような系統樹が提案された[2]。ヨコエソ科・ワニトカゲギス科は概ね単系統であるが、ユメハダカ科を含む他の3科の単系統性は疑わしいものとなっている。この報告は博士論文にとどまり、その後学術雑誌には掲載されなかったため、Nelson(2016)の体系では採用されなかった[1]。2013年に、ワニトカゲギス科に特化した研究ではあるが、一部類似した分子系統解析の結果が報告されている[10]。
出典・脚注
参考文献
外部リンク
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