ローマ数字による和声分析 (ローマすうじによるわせいぶんせき、英語 : Roman numeral analysis , ドイツ語 : Stufentheorie [ 注釈 1] )、はヨハン・フィリップ・キルンベルガー によって創始され、Abbé Georg Joseph Vogler、ゴットフリート・ヴェーバー (英語版 ) が完成させた和声分析の方法。現在も広く世界中で西洋音楽の講義に使用されている。
経緯
キルンベルガーによる分類
バッハ没後の古典派の時代において、通奏低音奏法はまだ伝承されていたとはいえ、長調と短調の両極に基づく和声理論はまとまったものがなく、前古典派以降の時代に適用できる和声理論が渇望されていた。そして、キルンベルガーが「純正作曲の技法」第1巻[ 1] で提唱したのがこの理論である。ドイツではローマ数字による和声分析 とは呼ばれておらず、"Stufentheorie"(直訳すれば「段階理論」)と呼ばれる。
ヴェーバーによる分類
このころはジャン=フィリップ・ラモーと鋭く対立していたわけではなく、主和音と第1転回形と第2転回形は同じ ものだという認識はラモーと共通していた。その後、長三和音はローマ数字の大文字、短三和音はローマ数字の小文字、減三和音は小文字の左上に小さな
∘
{\displaystyle \circ }
をつける、などの分類を加えたのがゴットフリート・ヴェーバー である。この和声記号に小さな
∘
{\displaystyle \circ }
を付ける風習は機能和声理論 の創始者のフーゴー・リーマン にまで及んだほどであり、中田喜直の「実用和声学」を含む日本の和声の教科書にも長い間出現していた。
テオドール・デュボワ をはじめとするフランスの作曲家・理論家はこのような分類は行っていない[ 2] 。こうしてフランス和声とドイツ和声は異なった道を歩み始めた。ローマ数字による和音記号はフーゴー・リーマン によって提唱された機能和声理論 の出現で廃れるかと思われたが、新たな和声教程が次々と誕生し、それらの本は現在でも現役である。その中には中田喜直の「実用和声学」やウォルター・ピストンの「和声法」も含まれている。
受容
現在もイギリス 、カナダ 、アメリカ は和声分析にローマ数字による記号が学術論文でも使われており、英語圏で存続している。機能和声理論 や自然の諸原理に還元された和声論 も絶えておらず、3つの主要理論の1つとして21世紀の現在まで存続している。大きな改良点はヴェーバーが短縮ドミナントに対しローマ数字の左上に
∘
{\displaystyle \circ }
を付けるのに対して、現行の北米圏の教科書では右上に
∘
{\displaystyle \circ }
を付けるように変更されている。借用和音には
∅
{\displaystyle \varnothing }
が用いられる[ 3] 。
VIIの和音の扱い
音度のVIIに相当する和音は「Ⅴ7の和音から根音を省略した形」であるとは認めないため、注意が必要である。
ゴットフリート・ヴェーバーの和音記号に基づいた現代の教科書
L. Poundie Burstein and Joseph N. Straus - Concise Introduction to Tonal Harmony, (2nd Edition, 2020)
Stefan Kotska - Tonal Harmony: With an Introduction to Post-tonal Music.(8th Edition, 2018)
Walter Piston, Mark Devoto and Arthur Jannery - Harmony.(5th Edition, 1987)
Robert W. Ottman - Elementary Harmony: Theory and Practice with CD (5th Edition).
Robert W. Ottman - Advanced Harmony: Theory and Practice (5th Edition).
The Complete Musician: An Integrated Approach to Theory, Analysis, and Listening (4th Edition).
William E. Caplin - Classical Form: A Theory of Formal Functions for the Instrumental Music of Haydn, Mozart, and Beethoven (Revised Edition).
脚注
注釈
出典
^ “純正作曲の技法 東川 清一訳, 訳出されたのは第一部と第二部のみ ”. www.shunjusha.co.jp . 春秋社 (2007年10月20日). 2021年6月17日 閲覧。
^ デュボワの「和声法」にローマ数字の大文字と小文字の使い分けは存在せず、教程後半はローマ数字すら一切出現しなくなる。
^ L. Poundie Burstein and Joseph N. Straus - Concise Introduction to Tonal Harmony, p.75(1st Edition, 2015)
参考文献
中田喜直 『実用和声学』
ウォルター・ピストン 、マーク・デヴォート 『和声法―分析と実習』
L. Poundie Burstein and Joseph N. Straus - Concise Introduction to Tonal Harmony, (1st Edition, 2015)
関連項目