この項目では、スコットランドの水域を表す語について説明しています。その他の用法については「ロッホ (曖昧さ回避) 」をご覧ください。
スコットランド最長の淡水ロッホであるオー湖(Loch Awe )
スコットランドのLochの例。淡水のネス湖(Loch Ness)と海水の湾Loch Linnheのいずれも「ロッホ」である。
スコットランド北部のLoch Maree(マリー湖 )周辺。淡水湖も海水の湾も「ロッホ」である。「Lochan」もみられるが、水域の大きさとの関連性は不明瞭である。
ロッホ (loch [ 1] [ 2] [ 3] [ 4] )はスコットランド で湖や入り江などの水域を指す語で、特に氷食 (氷河による浸食)によって刻まれた谷が細長い線状・帯状の水域となってできた地形を指す語である[ 5] [ 6] [ 7] 。山中での淡水の氷河湖 と、沿岸部での海水の入り江(フィヨルド )の両方を指す語である[ 2] [ 5] 。固有名詞としては、人造湖など細長い水域以外にも用いることがあり、スコットランドでは「レイク(lake)」と呼ばれる湖はただ1つしかない[ 5] 。アイルランド ではlough と綴る[ 1] 。「ロック」とも[ 3] 。
地形
スコットランド の国土の全域は、急峻な山系と峡谷が交互に並んでいて、これらの多くは北東から南西方向へ列をなして連なっている[ 8] [ 9] [ 10] 。この地形は、もともとはスカンディナヴィア半島 からアイルランド島 の北部まで連なっていた山系が、もっぱら最終氷期 (ヴュルム氷期 [ 注 1] )の氷河 の移動による浸食作用(氷食 )によって削られてできた(差別侵食 )[ 1] 。この最終氷期の氷河は勢力が強く、グレートブリテン島では、南部のごく一部を除いてほぼ全域が氷河に覆われた[ 12] 。そしてその氷食作用はたいへん強力で、スコットランドのほぼ全域に急峻な氷河地形 を残した[ 11] [ 9] 。
スコットランドでは、こうしてできた細長いU字谷 が北東から南西方向へ何列も伸びている[ 13] 。こうした氷食谷を、スコットランド・ゲール語 では、谷の広さによって「strath 」「dale 」「glen 」と呼んでいる[ 14] [ 注 2] 。
最終氷期の当時は、世界的に、現在よりも100メートルほど海水面が低かった[ 11] 。最終氷期が終わると(後氷期 )この海面が上昇した。日本ではこれを「縄文海進 」と呼ぶが、ヨーロッパでは「フランドル海進(Flandrian transgression)」と呼ぶ[ 15] [ 11] 。これによって氷食谷の端部では海水が侵入し、北東-南西の方角に細長く連なる入り江となった(フィヨルド 地形)[ 11] 。こうした入り江は非常に細長く、しばしば山奥深くまで連なっている[ 7] [ 16] 。
また、氷河が消失し、かつて陸地の上に載っていた荷重がなくなると同時に、増えた海水が海底への新たな荷重となったことで、陸地がゆっくりと隆起を始めた(ハイドロアイソスタシー )[ 11] [ 注 3] 。こうして入り江と切り離された氷食谷の底に淡水が貯まり、氷跡湖となった[ 2] [ 1] 。
スコットランド・ゲール語 では、このような細長い氷跡湖や入り江のことを「ロッホ (loch )」と呼ぶ[ 2] 。現代では、人工的に作られたダム湖にも「ロッホ」と命名されているものもある[ 5] 。規模の小さいもの(日本語では「池」や「沼」に相当)は「ロッハン(lochan)」という[ 2] 。ただし「ロッホ」と「ロッハン」の厳密な使い分けはない[ 5] 。
「ロッホ」はスコットランド全域にみられ、その総数は数千ヶ所以上、うち主なものだけでも100ヶ所以上にのぼる[ 5] [ 注 4] 。とくにスコットランドの西側では、内陸深くまで入り込んだ入り江や大小の淡水湖のロッホが多い[ 5] 。このような「ロッホ」は、スコットランドでは漁業基地や観光地として利用されている[ 2] 。
スコットランドの主な「ロッホ」
淡水湖
ロッハン
入り江
山名につく「ロッホ」
町や村名などにつく「ロッホ」
城名につく「ロッホ」
アイルランドの主な「ロッホ」
アイルランドの淡水湖
アイルランドの入り江
アイルランドの地名等
脚注
注釈
^ 日本では「ヴュルム氷期」と呼ぶことが多いが[ 11] 、「ヴュルム(Würm)」はアルプス山脈 に由来する呼称で[ 12] 、グレートブリテン島 ではこれを「ディヴェンシアン氷期(Devensian glacial stage)」と呼ぶ[ 11] [ 9] 。
^ 川の水の浸食によってつくられたV字谷は「alt」「burn」と呼ばれる[ 14] 。
^ スコットランドの中央高原部では、1年に5ミリメートルほどの割合で隆起している[ 11] [ 9] 。
^ スコットランドには、「レイク(lake)」と呼ばれる湖は1ヶ所しかない[ 5] 。それがLake of Menteith (メンティース湖 、Lake of Menteith 、Loch Inchmahome )である[ 5] [ 17] 。この湖が「レイク」と称するようになった理由については諸説あるが、その一説に、本来は湖の周囲の山々を「Laich of Menteith」(メンティーヌ湖畔の低い山々)と呼んでいたのを、「Laich」を「Lake」と混同して広まったものだという[ 5] 。
^ 「イギリス最大の湖[ 37] 」とされることもあるが、実際には北アイルランドのネイ湖 (Lough Neagh )のほうが大きい[ 33] 。
^ これとは別に、グレン・シール(Glen Shiel にも同名のシール湖(Loch Shiel)がある[ 21] 。
出典
書誌情報
関連項目