マジャーロサウルス (学名 :Magyarosaurus )は、後期白亜紀 マーストリヒチアン 前期のルーマニア に生息した、島嶼矮化 (英語版 ) した竜脚下目 の恐竜 の属。知られている中で成体が最小の竜脚類の1つで、全長は6メートルにすぎない。模式種マジャーロサウルス・ダクスのみが確かな種である。2005年 の研究で、ティタノサウルス類 のサルタサウルス科 に属するラペトサウルス に最も近縁であることが判明した[ 1] 。
記載
ヒトとの大きさ比較
マジャーロサウルスは体重1.1トンと推定され[ 2] 、奇妙な真皮の装甲を身に纏っていた[ 3] [ 4] 。カリー・ロジャースにより推定された全長は6メートル[ 1] 。2010年 にグレゴリー・ポール は等しい全長で体重1トンという低い推定をした[ 5] 。
2010年のステインらの研究ではマジャーロサウルスの近縁種は小型化していないことが判明した。これは、マジャーロサウルスが属する分類群において体躯の小ささは明確な固有派生形質 であることを示している[ 6] 。
尾椎 の遠位端は Codrea らが2008年 に言及した。移り変わりの特徴からこの尾椎は尾の中央に近い部位である可能性が高い。完全に埋没する以前に神経弓は破損しており、これは椎骨が本来の位置から移動したためと推測されている。椎体は長く、105センチメートルに達した。椎骨に繋がっていたとみられる両側は大きく損傷を受けた。この尾椎が発見された地域で他に竜脚類が発見されていないこと、中間的な形態ゆえに2つの椎骨の間に位置していたことに基づいてマジャーロサウルスに割り当てられている[ 7] 。
発見
種不明のマジャーロサウルスの肩甲骨
マジャーロサウルスは、発見当時はハンガリー の領土であったが現在はルーマニア西部となっているフネドアラ 地方 Sânpetru 層から、少なくとも10個体に属する遺骸が発見された。元々はティタノサウルス・ダクス として1915年 にFranz Nopcsa von Felső-Szilvás により命名されており、種小名は2000年前にその地域で生活していたダキア人 にちなむ[ 8] 。Nopcsa は1895年 からこの地域化石を収集していた。その後フリードリヒ・フォン・ヒューネ は1932年 に本種をマジャーロサウルス・ダクスへ改名し[ 9] 、同年に他の2つの種マジャーロサウルス・ハンガリクスおよびマジャーロサウルス・トランシルバニクスを命名した。より大型で希少なマジャーロサウルス・ハンガリクスは別の属を代表する可能性がある[ 6] 。ホロタイプ BMNH R.3861a は一連の椎骨からなる。数多くの他の骨が発見されており、その構成要素は主に尾椎であるが胴椎や付属肢骨格の要素も含まれている。なお、頭骨部位は発見されていない。マジャーロサウルスに割り当てられている14個の卵化石も発見されている[ 10] 。
烏口骨
1969年 からは、Transylvanian 盆地の南側、セベシュ の近くの Râpa Roșie で古生物学調査が行われた。調査の初期段階から化石は報告されており、Codrea と Dica が2005年 に行った調査に基づくとこの地域は後期白亜紀マーストリヒチアンから新第三紀 中新世 にあたる。ここで発見された希少な化石には脊椎動物のものがあり、うち1つは竜脚類の尾椎である。Râpa Roșie での研究に参加した古生物学者は、この標本がルーマニアのマーストリヒチアン階から報告された唯一の竜脚類の属であると意見し、マジャーロサウルスとして記載した[ 7] 。
古生物学
島嶼矮化
マジャーロサウルスは、限られた食糧供給と捕食者の不在といった小型の体格が有利となる選択圧の結果として、生息地とした島で島嶼矮化を遂げることとなった[ 6] 。これは鳥脚類 のラブドドン やノドサウルス科 のストルティオサウルス といった当時生息していた多くの恐竜にも見られるものであり、Nopcsa はマジャーロサウルスが他の竜脚類と比較して小さいことを初めて説明する際に島嶼矮化を提案した。後の研究者は彼の結論を疑って既知のマジャーロサウルスの化石を幼体のものと主張したが、2010年に発表された骨の成長パターンについての詳細な研究は Nopcsa の元々の仮説を支持しており、マジャーロサウルスが成体であることが示されていた[ 6] [ 2] 。島嶼矮化に関連して、孤立した属が原始的な特徴を保持していることが指摘されている[ 3] 。
組織学
肢骨
2010年に Koen Stein らはマジャーロサウルスの組織学を研究し、最小の個体でさえ成体であるらしいことが判明した。また、マジャーロサウルス・トランシルバニクスとマジャーロサウルス・ハンガリクスがマジャーロサウルス・ダクスのジュニアシノニムである可能性が高いことも発見したが、マジャーロサウルス・ハンガリクスは小さい標本の個体差とするには余りに大きすぎる標本であった。マジャーロサウルスの組織から、成長率は低いが代謝率が高いことが示された[ 6] 。
鎧
ルーマニアのハツェグ盆地 Sînpetru 村に近い La Cãrare 産出地からは皮骨板 が発見されており、マジャーロサウルス・ダクスのものとされている。これにより、これら後期白亜紀の竜脚類には広く皮骨板が備わっていたことが示されている[ 4] 。皮骨板は特異的な形状と大きさをしており[ 4] 、胚の皮骨板からマジャーロサウルスとされるネメグトサウルス科の卵化石も存在する[ 3] 。
卵
白亜紀後期のルーマニアから出土した化石。E - Fがマジャーロサウルス
Lithostrotia の卵がネメグトサウルス科 に割り当てられている。卵はおそらくマジャーロサウルス・ダクスあるいはパルディティタン のものであり、前者である可能性が高い[ 3] 。ハツェグ盆地は白亜紀後期にあたる巨大な場所であり、ティタノサウルス類 やハドロサウルス科 が産出する。11個の卵がネメグトサウルス科に割り当てられており、全て Sânpetru 層から出土したものである[ 3] 。胚が卵の内部に保存されており、前述の皮骨板の証拠を示す卵も1つ発見されている[ 3] 。
古生態系
マーストリヒチアン前期の間、ハツェグ島は半湿潤で季節的な降雨もあった。しかしながら層の後半の時代では大規模な古環境変動が起こり、この地域は広大な湿地へ遷移した[ 11] 。
マジャーロサウルス・ダクスはルーマニアのハツェグ盆地の一部 Sânpetru 層のマーストリヒチアン前期から知られている[ 11] [ 1] [ 12] 。ハツェグ盆地に由来する動物には小型の基盤的ハドロサウルス科のテルマトサウルス [ 6] 、小型のノドサウルス科のストルティオサウルス [ 13] 、鳥脚類 のザルモクセス [ 6] 、マニラプトル類 のバラウル 、ブラディクネメ 、エロプテリクス [ 13] 、翼竜 のハツェゴプテリクス [ 2] [ 14] がいる。
椎骨が発見されているマジャーロサウルスの未定種も報告されている。この椎骨は白亜紀末期のセベシュ層から発見されたが、おそらくは Şard 層から浸食されてセベシュ層へ移動したものとされている。マジャーロサウルスとは太古のカメであるカロキボティオン [ 7] 、2つのシックルクローを持つ原鳥類のバラウル・ボンドック [ 13] 、アズダルコ科 のエウラズダルコ [ 14] が共存していた。マジャーロサウルスと同様にテルマトサウルスとザルモクセスもまた島嶼矮化した属であることが組織学から証明されている[ 6] 。
出典
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