ボアーボム(Babm)は日本の哲学者である岡本普意識(1885年 – 1963年)が創案した国際補助語である。
岡本は1956年頃にボアーボムを考案。1960年9月28日には神田錦町の学士会館において発表会が開催された。同年には民生館から解説書が出版され、1962年には同書の英訳版も著された。また民生館は雑誌『ボアーボムの友』(BABMET)も刊行していた。
この言語は先験語に分類され、音節文字としてラテン文字を用いる。
母音文字よりも多い子音文字が使用されているため、奇妙に圧縮された語で構成されているように感じられる。しかしながら、少しの訓練でボアーボムは簡単に読めるようになると岡本は述べる。
文字と発音
ボアーボムではラテン文字とアラビア数字を用いる。
ラテン文字は音節文字として、以下のように発音する。
a アー |
b ボ |
c コ |
d デ |
e エー
|
f フ |
g ガ |
h ハ |
i イー |
j ジ
|
k ケ |
l レ |
m ム |
n ナ |
o オー
|
p ペ |
q ク |
r ラ |
s セ |
t ト
|
u ウー |
v ビ |
w ワ |
x キ |
y ユ
|
z ゾ
|
a, e, i, o, u は長く発音するので 長音字 と呼び、他の文字は短く発音するので 短音字 と呼ぶ。
例:Babm ボアーボム
「x」はクサ行ではないので注意。
文法
名詞
否定
接中辞-u-(第一長音字の前におく)で「不」、接尾辞-cqで「無」、接尾辞-iqで「非」を意味する。
- babm 世界語
- buabm 不世界語
- babmcq 無世界語
- babmiq 非世界語
複数化接尾辞-a
複数化接尾辞-aを付加することで、複数形に出来る。
補足語化接尾辞-e
補足語化接尾辞-eを付加することで、名詞、代名詞、動詞を補足語化できる。
- bcet 人 bcete 人の
- v 私 ve 私の
- gof 飛ぶ gofe 飛ぶ(連体形)
所有格接尾辞-i
所有格接尾辞-iを付加することで、名詞、代名詞を所有の意味の補足語化できる。
- bcet 人 bceti 人の
- v 私 vi 私の
名詞化接尾辞-ll
名詞化接尾辞-llを付加することで、動詞や補足語を名詞化できる。
- gof 飛ぶ gofll 飛ぶこと
- coj 自由 cojll 自由なこと
代名詞
人称代名詞
VとYを単独で用いるときは、大文字を使う。
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中性 |
男性 |
女性
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単数 |
複数 |
単数 |
複数 |
単数 |
複数
|
一人称 |
V |
va |
ov |
ova |
iv |
iva
|
二人称 |
Y |
ya |
oy |
oya |
iy |
iya
|
三人称 |
x |
xa |
ox |
oxa |
ix |
ixa
|
非人称代名詞
名詞の前にある場合、補足語の役を果たす。
|
単数 |
複数
|
近称 |
iz このもの |
iza これらのもの
|
遠称 |
ez そのもの |
eza それらのもの
|
不定称 |
z あるもの |
za あるものら
|
関係代名詞
名詞の前にある場合、補足語の役を果たす。
|
単数 |
複数
|
近称 |
lri このもの |
lria これらのもの
|
遠称 |
lre そのもの |
lrea それらのもの
|
不定称 |
lr あるもの |
lra あらゆるもの
|
選択 |
lro どちらでも |
lroa どれでも
|
疑問代名詞
名詞の前にある場合、補足語の役を果たす。
|
単数 |
複数
|
近称 |
qwi このものか |
qwia これらのものか
|
遠称 |
qwe そのものか |
qwea それらのものか
|
不定称 |
qw なにか |
qwa なんでもか
|
選択 |
qwo どちらか |
qwoa どれでもか
|
一般付着辞
非人称代名詞、関係代名詞、疑問代名詞に以下の一般付着辞を付すことで、英語における5W1Hのような様態をあらわすことができる。
付着順序は、[代名詞]-[称]-[一般付着辞]-[複数]の順になる。
- -d- 物 -g- 方法 -h- 時間 -k- 事項
- -m- 理由 -n- 数量 -p- 場所
- -t- 人間(非人称代名詞では使用しない)
動詞
否定
原形および原形の連体形で接頭辞u-を用いる。
- gof 飛ぶ ugof 飛ばない
- gofe bpeb 飛ぶ鳥 ugofe bpeb 飛ばない鳥
しかし、その他の多くの形では接尾辞-uを用いる。
時制
現在形は無標。過去は接尾辞-ip、未来は、接尾辞-erで表す。
-のところは不明だが、そのまま補足語化接尾辞-eをつければ良いものと推測される。
|
過去 -ip |
現在/通時 |
未来 -er
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肯定 |
lodip 来た |
lod 来る |
loder 来るだろう
|
肯定連体形 |
- |
lode 来る |
-
|
否定 |
lodipu 来なかった |
ulod 来ない |
loderu 来ないだろう
|
否定連体形 |
- |
ulode 来る |
-
|
相
連体形に関しては、-のところは不明。
|
肯定 |
連体形
|
準備相 ao |
lodao 来ようとする |
loda
|
開始相 -ik |
lodik 来はじめる |
-
|
進行相 -io |
lodio 来ている |
lodi
|
反復相 -on |
lodon 来なおす |
-
|
継続相 -om |
lodom 来続ける |
-
|
完了相 -x |
lodx 来終える |
-
|
受動態と使役態
|
肯定 |
否定 -u
|
受動態 -ay |
fabay 見られる |
fabayu 見られない
|
使役態 -op |
fabop 見させる |
fabopu 見させない
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自動詞と他動詞
これらの接尾辞は、普段使われることは稀であり、自動詞か他動詞か強調して伝えたいときに用いる。
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肯定 |
否定 -u
|
自動詞 -eb |
bakeb 流れる |
bakebu 流れない
|
他動詞 -or |
bakor 流す |
bakoru 流さぬ
|
モダリティ
接尾辞を用いるものと、補足語(副詞)で表すものがある。
また、常用動詞で示すこともある。
|
補足語 |
接尾辞 |
常用動詞
|
容認 |
- |
-oj |
mij
|
希望 |
- |
-ab |
kog
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義務 |
cis |
- |
sig
|
必要 |
- |
- |
kig
|
可能 |
- |
-ok |
mok
|
依頼 |
ck |
- |
lak
|
命令 |
cr |
- |
-
|
好意 |
cak |
- |
fok
|
丁寧 |
cj |
- |
-
|
推量 |
- |
-ir |
-
|
疑問 |
cw |
- |
-
|
祈願 |
cy |
- |
-
|
名詞の動詞化
名詞に動詞化接尾辞-ogをつけることで、動詞化できる。
ただし、時制や相など他の動詞用接尾辞が付着している場合は-ogは使わない。
また、病気名に-aqを付すことで、「 - を病む」という意味になる。
補足語
補足語とは、前置修飾語のことであり、体言に修飾するときは形容詞、そのほかのものに修飾するときは副詞として機能する。副詞として機能させる場合、副詞化接尾辞-wを付加することで、副詞であることを明示することができる。補足語の形状は、第一字がcであり、合計2 - 4文字で構成されている。
- cefd 白い cefdw 白く
- coip 優秀な coipw 優秀に
否定
名詞同様、接中辞-u-(第一長音字の前におく)で「不」、接尾辞-cqで「無」、接尾辞-iqで「非」を意味する。
- ckag 活動の
- cukag 不活動の
- ckagcq 無活動の
- ckagiq 非活動の
強調-a
接尾辞-aでその補足語の程度が著しいことを示す。
比較級と最上級
比較級は接尾辞-e、最上級は接尾辞-iで表す。
数詞
数詞は、名詞または補足語の役をなす。
アラビア数字、またはラテン文字にダイアクリティカルマークが乗った物であらわす。
0(o オー)、1 (b~ ボー)、2(d~ デー)、3(f~ フー)4(g~ ガー)、5(h~ ハー)、6(j~ ジー)、7(k~ ケー)、8(l~ ルー)、9(m~ ムー)、10(a ア)、100(o オ)、10^3(u ウ)、10^6(n¨ ナー)、10^9(p¨ ペー)
命数システムは、西洋式の三桁ごとに区切る方式か、粒読みを行う。
- 3,219,876 (フーナー・デーオ・ボーアムーウ・ルーオ・ケーア・ジー / フー・デー・ボー・ムー・ルー・ケー・ジー)
序数は接尾辞-rをつけて作成する。
語順
基本語準は、SVO型である。
そして補足語(形容詞および副詞)などの修飾語は前置され、前置詞を持つという点が漢文の文法に類似している。
- cmo bpeb cgedw gof op djoh.(大 鳥 荒 飛 於 空)大きな鳥が空で荒く飛ぶ。
ゆえに英語では不自然なSOVOやSCVO語順も見られる。
- Pabjt vew laijip pigm.(先生 私に 説明した 理論)先生は私に理論を説明した。
- Ribt cmo dek hojm.(主婦 大 する 服)主婦は服を大きくする。
関係節が前の語に修飾するか、後ろに修飾するかは、状況によって異なっている。
- Y habip op cmo hdat, Ired V widir.(君 住んだ 於 大 家, →其 私 買うだろう)君が住んだ大きな家を私は買うだろう。
- Qwt pegip ce hatj, Ired Y pajipio?(誰 書いた その 本, ←其 君 読んでいた)君が読んでいたその本は誰が書いた?
繋辞文に関しては、「である」を表す接尾辞-oを用いたSC語順と、
繋辞動詞debを用いたSVC語順のものがある。
- Rces cuojio.(奴隷 自不由最是)奴隷はもっとも不自由である。
- cojill deb cdid pjob.(自由最事 是 永遠 理想)最大の自由は永遠の理想である。
脚注
- ^ 岡本普意識の自宅を拠点とする「ボアーボム推進本部」には当時「二十人ほどの若い篤志家」がおり、ボアーボムの「一層の完成に協力」していたという(『新潮』1960年1月号、9-10頁、新潮雑壇 世界語を創る男 その1)。なお『週刊新潮』1960年10月10日号(15頁)にはボアーボム発表会の記事あり。
参考文献
- 岡本普意識『世界語ボアーボム : 文法と辞典』(DAJMCAPB BABM : BABJ DA BOBPATJ)民生館、1960年。(1989年に第二版発行)
- 岡本普意識『世界語ボアーボム : 練習用教本』民生館、1992年。
- 角石寿一『先駆者普意識 : 岡本利吉の生涯』民生館、1977年。
関連項目
外部リンク