ペトリュス川 (ペトリュスがわ、ルクセンブルク語 : Péitruss 、ドイツ語 : Petruss )は、ルクセンブルク市 を通る小さい川 で、アルゼット川 (英語版 ) へ流れ込んでいる[ 4] 。ルクセンブルク市内には、ペトリュス川が侵食 してできた渓谷 があり、ルクセンブルク市の歴史、景観にとって大きな役割を担っている。下流部は人工の河床 となっているが、自然への復元計画が進められている[ 2] [ 5] 。
名称
ペトリュス川の語源は、「石」や「岩」を意味するペトラ(ラテン語 : petra )とされる。古い文献に、ペトリュス川のことを「岩だらけの川(ラテン語 : rivus petrosus )」と呼んでいるものをみることができる[ 2] 。
流路
ペトリュス川は、ディパシュ (英語版 ) の森を水源 として、バハトレング (英語版 ) 、ルクセンブルク市のメルル (英語版 ) 地区、オレリシュ (英語版 ) 地区を流れ、グルント (英語版 ) 地区のサンテュルリック通り(Rue Saint-Ulric)近くでアルゼット川に合流する[ 6] [ 7] 。
ペトリュス川の総延長は、約12.8キロメートル で、Aalbaach、Grouf 、Zéissengerbaach といった支流 が、ペトリュス川に流れ込んでいる[ 1] [ 6] 。
人工河床
ペトリュス川の下流約2.6キロメートルは、1930年代以降、コンクリート に覆われた人工の河床となっている[ 1] [ 5] 。
20世紀の始め、ペトリュス川には廃水 も垂れ流され、水質 が悪化していた。ペトリュス川は小さな川なので、少雨季には汚濁を流し去るだけの流量がなく、川に取り残された残滓が衛生環境に危機をもたらした。そこで1932年に、川の流れを速くして汚濁を素早く流し去るべく、河床をコンクリートで覆うことが決定した[ 5] 。
ペトリュス渓谷
ペトリュス渓谷
ペトリュス川は、ルクセンブルク市のある砂岩 の台地を侵食し、旧市街のある聖霊台地 (Heilig-Geist-Plateau)とルクセンブルク駅 のあるブルボン台地(Bourbon-Plateau)の間に深い谷、ペトリュス渓谷を穿っている[ 2] [ 8] 。ペトリュス渓谷は、ルクセンブルク市の歴史及び景観にとって、重要な存在である[ 5] 。
ペトリュス渓谷の辺りには、ジークフロイト がリュシリンブルフク(Lucilinburhuc)を手に入れる以前から、ケルト人 やローマ人 、ゲルマン人 らが定住していた。14世紀には、ノイスのクイリヌス (英語版 ) を奉じた礼拝堂 (Gräinskapell )が渓谷に面して建てられており、ルクセンブルク では特に古いキリスト教 の信仰拠点の一つとされる[ 5] [ 9] 。
ブルボン閘門
ペトリュス渓谷の切り立った岩壁は、ルクセンブルク要塞にとっては天然の防壁として機能した[ 2] 。更に、セバスティアン・ル・プレストル・ド・ヴォーバン が渓谷に面して築いた稜堡 や三角堡 の遺構が、現代まで残っている。また、オーストリア が築いたブルボン閘門 (Bourbonsschleis)という、渓谷を水没させて堀 とする防御機構の遺構も存在している[ 9] [ 10] 。
渓谷の底には、フランス の造園家エドゥアール・アンドレ が手掛けたペトリュス公園が広がる。この公園は、岩壁の地層 や、要塞の遺構をとり入れて活用している点に、景観上の特徴がある。また、公園の生垣や芝地は、木々と共に都市緑化にとって大きな役割を果たしている[ 9] [ 6] 。渓谷内には他にも、スケートパーク やミニゴルフ場が整備されており、市民の憩いの場となっている[ 9] [ 5] 。
ペトリュス渓谷には、旧市街とルクセンブルク駅のある新市街を繋ぐ高架橋 が2ヶ所に架かっている。一つは、パスレル (英語版 ) (高架橋、オールドブリッジ)であり、もう一つは観光名所ともなっているアドルフ橋 (英語版 ) (ニューブリッジ)である[ 9] [ 2] [ 11] 。
ペトリュス渓谷とアドルフ橋
高架橋(パスレル)
高架橋の下を流れるペトリュス川
環境保護
ペトリュス川復元工事
下水道 が整備され、ペトリュス川には雨 水だけが流れ込むようになると、川の流速を高める必要はなくなり、今度はペトリュス川の生態系 を保護するために、河床のコンクリートをとり去り、天然物の河床にする、自然復元計画が持ち上がった。計画には、アルゼット川からペトリュス川への遡上を助ける魚道 の整備も含まれ、ペトリュス川だけでなく、その支流とアルゼット川まで含めた包括的な生物生息空間 の改善を視野に入れている。この計画は、2019年7月に市議会 で承認され、2020年に着工した[ 5] [ 12] 。計画では工程を2段階に分け、第1段階は河口からブルボン閘門までを2023年の園芸博覧会 (LUGA 2023)までに完了し、第2段階はブルボン閘門からアンヴェール通り(Rue d'Anvers)までを2024年中に完了する予定である[ 6] [ 12] 。
雨で増水したペトリュス川
ペトリュス川流域は、20世紀後半から急速に都市化が進み、降った雨水が地下等を経由せず,
直接雨水管 からペトリュス川へ流れ込む割合が増えていった[ 13] 。そうすると、廃水は下水道を区別して排除したとはいえ、大雨の際には、都市交通が原因で発生する塵や汚れを含む表面流出 が、ペトリュス川へと集中してしまう。そのためルクセンブルク市は、ペトリュス川畔の地下に複数の集水池を設け、大雨の際には雨水を一旦池に溜めて、上澄みをペトリュス川に流す、ファーストフラッシュ (英語版 ) 機構を整備することにした。1号池は2012年に運用を始めており、2026年までに9つの池を整備、それぞれの池はおよそ100立米 の水を溜めることができる[ 14] [ 5] 。
出典
^ a b c (ルクセンブルク語) (PDF) Bewertung des hydromorphologischen Zustandes der Oberflächenwasserkörper Luxemburgs auf Grundlage der Strukturgütekartierung , Administration de la Gestion de l'Eau, pp. 143-150, http://geoportail.eau.etat.lu/pdf/plan%20de%20gestion/Hintergrunddokumente/Hydromorphologische%20Steckbriefe%20der%20OWK%20Luxemburgs_Zumbroich.pdf
^ a b c d e f Erpelding, Emile (1991), “Die Gewässer der Stadt Luxemburg” (ドイツ語) (PDF), ons stad 38 : pp. 8-15, https://onsstad.vdl.lu/fileadmin/uploads/flippingbook/ons_stad_38-1991_0-34.pdf
^ van den Bos, Rudi; et al. (2006), “Regional runoff prediction through aggregation of first-order hydrological process knowledge: a case study”, Hydrological Sciences Journal 51 (6): 1021-1038, doi :10.1623/hysj.51.6.1021
^ (PDF) ルクセンブルク大公国 徹底解説 , ルクセンブルク政府広報局, (2015-03), p. 5, ISBN 978-2-87999-260-0 , https://luxembourg.public.lu/dam-assets/publications/tout-savoir-sur-le-grand-duche-de-luxembourg/tout-savoir-sur-le-grand-duche-de-luxembourg-jp.pdf
^ a b c d e f g h Deuxant, Quentin (2020-11), “Bringing the Pétrusse back to life” (PDF), City: Magazine Officiel de la Ville de Luxembourg (Ville de Luxembourg ): pp. 32-39, https://www.vdl.lu/sites/default/files/media/magazine/City_CITY2020_11-BD.pdf
^ a b c d “The Grund: Ecological redevelopment of the Pétrusse Valley ”. Ville de Luxembourg. 2021年4月14日 閲覧。
^ “Présentation ” (ルクセンブルク語). Gemeng Dippech. 2021年4月14日 閲覧。
^ Hoffmann, Fernand (1991), “Alzett- und Petruß-Rhapsodie” (ドイツ語) (PDF), ons stad 38 : pp. 17-20, https://onsstad.vdl.lu/fileadmin/uploads/flippingbook/ons_stad_38-1991_0-34.pdf
^ a b c d e (ルクセンブルク語) (PDF) UNESCO Vëlos-Tour Luxembourg-City , Commission luxembourgeoise pour la coopération avec l'UNESCO , (2020), https://unesco.public.lu/dam-assets/bike_tour/new/0002-UNESCO-POS-BikeTour-A2-SCREEN-LU.pdf
^ “Petrusse Casemates ”. Luxembourg city tourist office (2017年). 2021年4月14日 閲覧。
^ “アドルフ橋 ”. コトバンク . 2021年4月14日 閲覧。
^ a b Vum Monique Kater (2019年7月9日). “Frelle fir d'Péitruss - eng Baach gëtt renaturéiert” (ルクセンブルク語). RTL . https://www.rtl.lu/news/lokal/a/1373457.html 2021年4月14日 閲覧。
^ Pfister, L.; et al. (2009-04), “Hydrological and hydrochemical impact studies in the urbanised Petrusse river basin (Luxembourg)”, EGU General Assembly (2009): 13814, Bibcode : 2009EGUGA..1113814P
^ Fourney, Anne (2020-06), “A basin to preserve the water of the Pétrusse” , City: Magazine Officiel de la Ville de Luxembourg (Ville de Luxembourg): pp. 36-41, https://city.vdl.lu/en/2020/06/03/a-basin-to-preserve-the-water-of-the-petrusse/
関連項目
外部リンク
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