プレミアムビールプレミアムビールは、原料や醸造方法にある種のこだわりを持たせた高級志向のビールや、それが属するカテゴリー[1]のことである。一般的には、大手ビール会社が醸造する定番商品に対して、価格が高く設定された高級志向の商品を指すが、プレミアムビールの明確な定義は存在しない[2][3]。 概要酒類メーカーの商品構成や酒類市場において、ビールの中で通常商品(レギュラービール)に対して、より高品質で嗜好性が強い高級志向のビールがプレミアムビールと分類されている。ただし、その条件は多様で前述の通り明確な定義となるものは存在していない。条件として、高価な実売価格、原材料の吟味、手が込んだ製法や工程、限定性など、各種付加価値を向上させていることが挙げられる[4][5]。大手メーカーが供給する商品以外にも、ビール職人が原料などにこだわって醸造した地ビールもプレミアムビールの一種とされている[3]。 世界でも、メーカー・市場において高級・上位・高価格に位置するビールは日本と同様に「プレミアムビール」や「プレミアム(Premium)」「プレミア(Premier)ビール」「スーパープレミアムビール」などに分類されている場合もある[6]。商品銘柄として青島ビール極品、ギネス、ハイネケンなどがある。 日本における状況日本において、プレミアムビールは一般的に高額かつ高品質であるため、定番商品と比べると贅沢品、嗜好品の面が強い。消費状況は、日常的に飲むのではなく週末や記念日、あるいはハレの日(祝い事)などの特別なシーンで飲まれることが多く、飲用イメージも褒賞や来客用と特別なビールとする傾向がある[4][7][8][9]。また、歳暮・中元などの贈り物としても需要があり、もらって嬉しい物や贈り物向き商品として高い支持がある[1][7]。 公正取引委員会と消費者庁が認定するビールに関する公正競争規約「ビールの表示に関する公正競争規約[10]」にもプレミアムビールに関する規定はない[10]。 日本地ビール協会がメールマガジン会員に対して行ったアンケートで「レギュラービールとプレミアムビールの違いを具体的にどこで判断するか?」の質問に対し、「メーカーがプレミアムとして販売したものがプレミアムビール」との回答が1位となっている[2][3]。 歴史日本では、ビール自体が高級品扱いの時代が長期間続いていたが[11]、昭和30〜40年代に高度経済成長が進展するに連れて大衆化が進み、庶民が飲む一般的な酒へと変移した[12]。そのような背景もあり昭和時代後期の高級ビール市場にて該当する商品はサッポロ「ヱビスビール」のみで1971年の再発売[13]以降、1990年代初期までは競合商品が無く寡占状態であった[1][14][15]。ヱビス(≒サッポロ)は再発売2年目の1972年に210万箱を達成など好調に推移した時期もあったが、1980年代は需要減により低迷期が続いた[14]。そんな状況であったが、1986年にデザイン変更や生ビール化を行い、1988年には漫画「美味しんぼ」の「五十年目の味覚(後編)」(単行本第16巻)で取り上げられたことなどが契機となり、売上が回復し徐々に伸びていった[14]。1990年前後から、この動きを見た同業他社が新商品各種で参入、キリン「キリンプレミアムビール」、アサヒ「アサヒスーパープレミアム〈特撰素材〉」、サントリー「ビア吟生」「モルツ スーパープレミアム」などプレミアムビールに分類される商品が発売されたが、結果的にヱビスが売上を伸ばし、他の商品は決め手に欠き早々に終了・縮小していった[14]。一部では、この事例が発生した1990年代前半を「第一次プレミアムビール競争」と表現している[14]。 1993年、キリンはフルライン戦略を進展させ、生産技術上の理由から首都圏のヘビーユーザー向けとした地域限定商品「ブラウマイスター」を発売してプレミアムビール市場に再参入[14]。1994年からヱビスはプロモーション戦略の強化を進め、前田吟出演のテレビCM開始や積極的に飲食店へ商品・ポスター・POPを提供するなどの活動を展開し、ヱビスの認知度やプレミアムなイメージが向上した効果により、1996年の売上は1994年比で2倍強と大きく伸びた[14]。1997年、キリンは「ブラウマイスター」の技術が大量生産化に対応可能となったことで、全国展開のプレミアムビール「ビール職人」を発売し、同年4月にはヱビスを僅かながら上回る売上を達成した[14]。しかし、ビール職人の躍進は長くは続かず、キリンはヱビスが強いプレミアムビール市場よりも当時発展途上で急成長していた発泡酒市場に重点注力する方針を採ったことで、再びヱビスの一人勝ち状態に戻った[14]。一部では、この事例が発生した1990年代後半を「第二次プレミアムビール競争」と表現している[14]。 2000年前後のプレミアムビール市場はヱビスが先駆者利益を活かして強固な立場を築き、「プレミアムビールといえばヱビスビール」の構図が出来上がっていた[14]。これに対し他社は新製品発売を繰り返したり、以前発売した商品を地道に継続する状況となっており、キリン「ビール職人」(継続)、サントリー「モルツ スーパープレミアム」(継続、2001年4月17日に缶・中瓶の通年発売化)、アサヒ「富士山」(新商品)などあったが、当時勢いのあった発泡酒の影に隠れた存在となっていた[14]。 各社が競い合った発泡酒市場も2000年代中盤には成長が一息つきたことや、2003年の酒税法改正により販売規制が大幅に緩和されたことでコンビニエンスストアが酒販売の積極的意欲、流通側からメリハリのある商品構成として発泡酒・通常のビール以外にも利益率が高いプレミアムビールを扱いたい意向などの要因により、新商品が求められ展開しやすい状況であった[14]。そこで新たなプレミアムビールを開発することになり、明確な特徴や理由付けとして、通常商品で行う酵母やタンパク成分を濾過処理をせずに冷蔵が必要なチルドタイプ[16]を採用し、容器は主に瓶が使用され高級感を持たせた[14]。チルドビールの流通はチルド配送技術のあるコンビニ流通システムを利用したり、酒類卸でも対応が求められ冷蔵倉庫やチルド配送車を用意したり代行業者に委託するなどの仕組みが整えられた[14]。商品として、キリン「まろやか酵母」「ラテスタウト」「豊潤」、アサヒ「こだわりの極」、サントリー「スーパープレミアムモルツ」、サッポロ「ピルスナープレミア」などが発売され主にセブン-イレブンなどのコンビニに置かれ、メーカー側と流通側が共同開発・チルド・無濾過・瓶入りなどの付加価値部分をプレミアムビールの証明と特徴付け、チルドビール市場の創造・拡大を図った[14]。しかし、チルドビール市場は意図した結果が得られず、2004年は赤字市場と指摘されており、各社商品構成の縮小傾向などの要因から、市場成長が伸び悩み退潮傾向となった[14]。一部では、この事例が発生した2000年代前半を「第三次プレミアムビール競争」と表現している[14]。 2000年代中盤においてビール類全体の市場が縮小する中でも成長が続いているカテゴリーがあり、価格が安い第三のビールと、プレミアムビールは味わいのあるビールを求める人が着実に増えていることから、各社は「消費の二極化」に対応した新商品を投入している[1][4][17]。2005年にはキリン「ゴールデンホップ」、アサヒ「スーパーイースト 刻刻(こくこく)の生ビール」を[4]、2007年にはキリン「ニッポンプレミアム」、アサヒ「プライムタイム」を発売した[17]。ただ、キリンとアサヒには代表的な定番ブランド「キリン一番搾り生ビール」「キリンラガービール」「アサヒスーパードライ」が存在し、プレミアムビールが確固たるカテゴリーとして認識・定着した場合、相対的に定番ブランドがワンランク下と解釈される懸念があることや、爽快な飲み口を特徴とする商品が主体の両社はじっくりゆっくり飲む感覚とされるプレミアムビールの立場と特徴を考慮すると、大々的で積極的な販促活動を行いにくい社内事情もあり[14]、プレミアムビールにおけるシェアは両社合わせても10%台(2008年、日経POSデータ調べ)に留まっている[18]。 サントリーは2003年5月20日に「モルツ スーパープレミアム」を「ザ・プレミアム・モルツ」に名称変更して発売。当初は濃く苦味が強調された飲み味が受け入れられず苦戦していたが[14][17]、2005年7月にモンドセレクションで日本国産ビール製品初の最高金賞を受賞したことが発端となり、販売が急増して製造が追いつかず、一時販売を休止するほどの人気となり[4]、同年中はこの話題を活かした展開を行った[1]。2006年には「最高金賞のビールで最高の週末を」のキャッチコピーで特別な日以外の飲用時期を提案したことや、2007年には飲食店などの業務店に重点を置いた展開を行い売上が前年比7割増になった[1]。ザ・プレミアム・モルツが急成長して危機感を抱いたサッポロビールは2006年からヱビスブランドのテコ入れに着手し、同年10月にはヱビスブランド戦略部を立ち上げて「ヱビス」の名を冠した商品を複数販売する展開を始めた[14]。販売数量において2008年にはプレミアム・モルツが初めてヱビスを抜いて首位となり、2009年も引き続きプレミアム・モルツが首位を維持した[19]。一部では、この事例が発生した2000年代後半以降を「第四次プレミアムビール競争」と表現している[14]。 2010年代初期においてプレミアムビール市場はプレミアム・モルツとヱビスが二分した状態で、両銘柄のシェア争いが一段と激化した状態となっている[15][20]。 銘柄※ ★は現行商品、(業)は業務用専売商品
日本国外における状況銘柄
脚注
関連項目 |