ニタリクジラ

ニタリクジラ
ニタリクジラ
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: 鯨偶蹄目 Cetartiodactyla
階級なし : 鯨類 Cetacea
小目 : ヒゲクジラ小目 Mysticeti
: ナガスクジラ科 Balaenopteridae
: ナガスクジラ属 Balaenoptera
: ニタリクジラ B. brydei
学名
Balaenoptera brydei
Olsen, 1913[1]
和名
ニタリクジラ[1]
英名
Bryde's whale[1]
ニタリクジラ・カツオクジラ・ライスクジラ(英語版)等の通常の生息域[注 1]
ニタリクジラ・カツオクジラ・ライスクジラ(英語版)等の通常の生息域[注 1]

ニタリクジラ(似鯨、学名:Balaenoptera brydei)は、鯨偶蹄目ナガスクジラ科に属するヒゲクジラの一種である。

分類

クロミンククジラ

ミンククジラ

シロナガスクジラ

ツノシマクジラ

カツオクジラ

ライスクジラ

イワシクジラ

ニタリクジラ

ナガスクジラ

ザトウクジラ

Rosel et al. (2021) によるミトコンドリアDNAに基づくナガスクジラ科の系統図(太字はニタリクジラ種群[2]

本種を中心とした「Bryde's Whale complex[注 2]」には、本種とカツオクジラをはじめ合計で3種または4種以上が存在するとされている。これらを同一種とする分類もある[3]

元々はイワシクジラと混同されていた為、分類されるまでは、イワシクジラとして捕鯨されていた。日本において前述のカツオと群れる習性からカツオクジラとも呼ばれ、その別名がついている。ただし、カツオクジラ和名は元々は混同されていたイワシクジラの別名であり、これは混同されていた「Balaenoptera edeni」の和名になった。

ツノシマクジラも沿岸型ニタリクジラと似ており、それまでは混同されていたとみられている。他にツノシマクジラとともに従来ニタリクジラの東シナ海系群とされていたクジラもカツオクジラもニタリクジラから分類する意見もあり、高知県ホエールウォッチングの対象になっている「ニタリクジラ」もカツオクジラである可能性がある[4]

メキシコ湾に定住する地方個体群は、2021年にライスクジラ英語版)として新種として分類されたが、推定生息数が50頭前後と絶滅の危機に瀕している[5]

遺伝子解析の結果は、最も近縁なのがイワシクジラであり、次いでカツオクジラ、ツノシマクジラと遠くなる。またシロナガスクジラもこのグループと単系統を形成する[6][7]

宮古島にて発掘された鮮新世化石はニタリクジラに近縁だとされており、「シマジリクジラ」として宮古島市天然記念物に指定されている[8]

形態

人間との比較

イワシクジラの近縁種であるが、吻(ふん)の上面の左右両側に吻端から鼻孔付近にかけて各1条の隆起線があること、畝(うね)が長く先端がへそに達していること、クジラヒゲが短くて幅が広いこと、ひげ毛が太いことなどで、外形的に区別される。

体長もイワシクジラよりやや小さく、最大15.5メートル[9]程である。

ニタリクジラはかつて南アフリカ沿岸にだけ生息するとされていたが、第二次世界大戦後、小笠原諸島周辺で発見され、北太平洋にも広く分布することが判明した。国際捕鯨委員会は1970年に捕鯨条約の付表を修正して、本種とイワシクジラを別種として扱うこととした。南アフリカ沿岸では沿岸型と遠洋型の二つの型があり、外形的にも生態的にも、若干の差が認められている。

生態

ブリーチング(英語版

本種が主食とする小魚はカツオなどの大型回遊魚の餌でもあり、本種のいる海域には大型回遊魚の群れがいる可能性も高くなる。

また、カツオには鯨につく事でカジキから身を護るメリットがあり、本種や近縁のカツオクジラは1個体で一つの小さな生態系を形作る。こういった点から水産庁の加藤秀弘に共生関係が指摘されている(えびすの項も参照)。尚、これらの群れは「鯨付き」と呼ばれ、漁業の際には本種を探す事もある。

ザトウクジラ等と比較すると、本種やカツオクジラ等は活発な海面行動を見せる機会は控えめだが、イワシクジラ等の自身よりも大型のナガスクジラ科よりはブリーチング(英語版)などを見せる傾向が強い。

カリブ海では「バブルネット・フィーディング」またはそれに近い採餌方法を行うことが確認されている[10]

ビオトワング

2014年マリアナ海溝付近で実施された音響調査でビオトワング(Biotwang)と呼ばれる謎の音が検出され、NOAAの海洋学者であるアン・アレン氏らの分析によりニタリクジラの発する音だと判明した。ニタリクジラは世界中の海に生息しているものの、ビオトワングはマリアナ海溝近辺でしか確認されず、マリアナ海溝付近の特定のニタリクジラの集団がビオトワングを発していると考えられている。また、2016年エルニーニョ現象によって海水温が上昇し、マリアナ海溝付近を訪れるニタリクジラの個体数が増えたことから、ビオトワングの検出回数が増えたことも確認された。ビオトワングの意味ははっきりとはわからないが、ニタリクジラが互いの位置を特定するために使用されている可能性があるとしている[11]

分布

サンパウロ州・イリャベラ島のカステリャノス湾にて。

カツオクジラ・ライスクジラ(英語版)・ツノシマクジラと同様に概して暖海性であり、北緯40度と南緯40度の間の、水温20℃以上の海に広く分布するが、カツオクジラより遠洋に棲息する場合も多く、また、亜寒帯に達する事もあり、カツオクジラやライスクジラよりも北方への回遊が見られる場合もある。しかし、概して他の大多数のヒゲクジラ類と比較すると回遊の程度は限定的である。

カツオクジラやライスクジラと同様に、大規模な回遊を行わずに特定の沿岸域や大陸棚に定住している個体群も存在しており、ニュージーランドオークランドの沿岸のハウラキ湾(英語版)やベイ・オブ・アイランズ英語版)やベイ・オブ・プレンティ地方[12]ブラジルサンパウロ州リオデジャネイロ州[13]マデイラ諸島カナリア諸島南アフリカの沿岸等に分布する個体群がとくに知られている。

人間との関係

本種が現在も直面する商業捕鯨以外の人間による脅威としては、混獲、船舶との衝突、ゴミの誤飲、環境汚染、「混獲」と称した意図的な捕獲、密猟などが存在し[14]、保護対象である南半球の個体群に該当する肉がシロナガスクジラなどの他の保護対象種と共に日本の市場から発見されたこともある[15]

なお、日本列島でも鯨類と人間の関係には捕鯨だけでなく、クジラを神聖視して捕鯨を禁止する風潮も強かったとされている。

捕鯨

日本国内では、本種はカツオクジラだけでなく他のナガスクジラ科との混同が著しかった可能性があり、さらに、捕鯨業者による不正捕獲が横行していた可能性が指摘されている[16]

本種は「ボン条約」の保護対象種に指定されている[17]が、後述の通り、日本は2024年現在も捕獲対象としている。

2019年7月の日本の商業捕鯨再開に際し、本種は捕獲対象となり、水産庁は年間捕獲枠を187頭と設定している[18]。他にミンククジライワシクジラも捕獲対象となっているが、頭数・鯨体の大きさ・得られる肉の量から、当面日本で流通する鯨肉はニタリクジラ肉が中心となる。

ホエールウォッチング

脚注

注釈

  1. ^ 紅海ペルシャ湾アゾレス諸島ポルトガルの沿岸においても観察が増加しているが、この分布図では分布域に含まれていない。
  2. ^ 直訳すると、「ニタリクジラ複合種群」となる。

出典

  1. ^ a b c 田島木綿子・山田格 総監修「海棲哺乳類 種名表」『海棲哺乳類大全:彼らの体と生き方に迫る』緑書房、2021年、341-343頁。
  2. ^ Patricia E. Rosel, Lynsey A. Wilcox, Tadasu K. Yamada & Keith D. Mullin, “A new species of baleen whale (Balaenoptera) from the Gulf of Mexico, with a review of its geographic distribution,” Marine Mammal Science, Volume 37, Issue 2, Society for Marine Mammalogy, 2021, Pages 577-610.
  3. ^ 谷戸崇・岡部晋也・池田悠吾・本川雅治Illustrated Checklist of the Mammals of the Worldにおける日本産哺乳類の種分類の検討」『タクサ:日本動物分類学会誌』第53巻(号)、日本動物分類学会、2022年、31-47頁。
  4. ^ 高知新聞, 2020年, 「実は「カツオクジラ」だった!? 分類学の最前線 土佐湾ニタリと違うDNA「別種」学説有力に」
  5. ^ A petition to list the Gulf of Mexico Bryde’s whale (Balaenoptera edeni) as endangered underthe Endangered Species Act
  6. ^ 中央水研ニュースNo.34
  7. ^ 雑記 - 進化・分類学 ヒゲクジラの系統も SINE 法で〆(2006.08.01)
  8. ^ 宮古島市, 名勝・天然記念物
  9. ^ 図鑑/世界の鯨類8
  10. ^ Kot, B. W., Sears, R., Zbinden, D., Borda, E., & Gordon, M. S. (2014). “Rorqual whale (Balaenopteridae) surface lunge feeding behaviors: Standardized classification, repertoire diversity, and evolutionary analyses”. Marine Mammal Science 30 (4): 1335–1357. doi:10.1111/mms.12115. 
  11. ^ マリアナ海溝から聞こえる謎の音の正体が解明される - GIGAZINE”. gigazine.net (2024年9月23日). 2024年12月21日閲覧。
  12. ^ Bryde's Whales in the Hauraki Gulf
  13. ^ ViralHog. “Aerial Footage Of Bryde's Whale Feeding, Arraial Do Cabo, Rio De Janeiro, Brazil”. Pond5(英語版. 2023年12月28日閲覧。
  14. ^ 環境庁自然保護局 (1998年3月). “セミクジラ”. 生物多様性センター環境省. 海域自然環境保全基礎調査 - 海棲動物調査報告書. pp. 68-69. 2023年12月7日閲覧。
  15. ^ Scientists find strong evidence of black market for whale meat”. デザレット・ニュース(英語版 (1998年5月16日). 2023年8月6日閲覧。
  16. ^ 環境庁自然保護局 (1998年3月). “ニタリクジラ”. 生物多様性センター環境省. 海域自然環境保全基礎調査 - 海棲動物調査報告書. pp. 72-73. 2023年12月7日閲覧。
  17. ^ Convention on the Conservation of Migratory Species of Wild Animals, Species
  18. ^ 2019年7月1日付読売新聞

参考文献

  • 村山司『鯨類学』東海大学出版会〈東海大学自然科学叢書〉、2008年、図鑑/世界の鯨類8頁。ISBN 978-4-486-01733-2 

外部リンク