ニタリクジラ
ニタリクジラ(似鯨、学名:Balaenoptera brydei)は、鯨偶蹄目ナガスクジラ科に属するヒゲクジラの一種である。 分類→「カツオクジラ」および「ツノシマクジラ § 分類」も参照
本種を中心とした「Bryde's Whale complex[注 2]」には、本種とカツオクジラをはじめ合計で3種または4種以上が存在するとされている。これらを同一種とする分類もある[3]。 元々はイワシクジラと混同されていた為、分類されるまでは、イワシクジラとして捕鯨されていた。日本において前述のカツオと群れる習性からカツオクジラとも呼ばれ、その別名がついている。ただし、カツオクジラの和名は元々は混同されていたイワシクジラの別名であり、これは混同されていた「Balaenoptera edeni」の和名になった。 ツノシマクジラも沿岸型ニタリクジラと似ており、それまでは混同されていたとみられている。他にツノシマクジラとともに従来ニタリクジラの東シナ海系群とされていたクジラもカツオクジラもニタリクジラから分類する意見もあり、高知県でホエールウォッチングの対象になっている「ニタリクジラ」もカツオクジラである可能性がある[4]。 メキシコ湾に定住する地方個体群は、2021年にライスクジラ(英語版)として新種として分類されたが、推定生息数が50頭前後と絶滅の危機に瀕している[5]。 遺伝子解析の結果は、最も近縁なのがイワシクジラであり、次いでカツオクジラ、ツノシマクジラと遠くなる。またシロナガスクジラもこのグループと単系統を形成する[6][7]。 宮古島にて発掘された鮮新世の化石はニタリクジラに近縁だとされており、「シマジリクジラ」として宮古島市の天然記念物に指定されている[8]。
形態→「カツオクジラ」も参照
イワシクジラの近縁種であるが、吻(ふん)の上面の左右両側に吻端から鼻孔付近にかけて各1条の隆起線があること、畝(うね)が長く先端がへそに達していること、クジラヒゲが短くて幅が広いこと、ひげ毛が太いことなどで、外形的に区別される。 体長もイワシクジラよりやや小さく、最大15.5メートル[9]程である。 ニタリクジラはかつて南アフリカ沿岸にだけ生息するとされていたが、第二次世界大戦後、小笠原諸島周辺で発見され、北太平洋にも広く分布することが判明した。国際捕鯨委員会は1970年に捕鯨条約の付表を修正して、本種とイワシクジラを別種として扱うこととした。南アフリカ沿岸では沿岸型と遠洋型の二つの型があり、外形的にも生態的にも、若干の差が認められている。 生態本種が主食とする小魚はカツオなどの大型回遊魚の餌でもあり、本種のいる海域には大型回遊魚の群れがいる可能性も高くなる。 また、カツオには鯨につく事でカジキから身を護るメリットがあり、本種や近縁のカツオクジラは1個体で一つの小さな生態系を形作る。こういった点から水産庁の加藤秀弘に共生関係が指摘されている(えびすの項も参照)。尚、これらの群れは「鯨付き」と呼ばれ、漁業の際には本種を探す事もある。 ザトウクジラ等と比較すると、本種やカツオクジラ等は活発な海面行動を見せる機会は控えめだが、イワシクジラ等の自身よりも大型のナガスクジラ科よりはブリーチング(英語版)などを見せる傾向が強い。 カリブ海では「バブルネット・フィーディング」またはそれに近い採餌方法を行うことが確認されている[10]。 ビオトワング2014年にマリアナ海溝付近で実施された音響調査でビオトワング(Biotwang)と呼ばれる謎の音が検出され、NOAAの海洋学者であるアン・アレン氏らの分析によりニタリクジラの発する音だと判明した。ニタリクジラは世界中の海に生息しているものの、ビオトワングはマリアナ海溝近辺でしか確認されず、マリアナ海溝付近の特定のニタリクジラの集団がビオトワングを発していると考えられている。また、2016年にエルニーニョ現象によって海水温が上昇し、マリアナ海溝付近を訪れるニタリクジラの個体数が増えたことから、ビオトワングの検出回数が増えたことも確認された。ビオトワングの意味ははっきりとはわからないが、ニタリクジラが互いの位置を特定するために使用されている可能性があるとしている[11]。 分布→「カツオクジラ」も参照
カツオクジラ・ライスクジラ(英語版)・ツノシマクジラと同様に概して暖海性であり、北緯40度と南緯40度の間の、水温20℃以上の海に広く分布するが、カツオクジラより遠洋に棲息する場合も多く、また、亜寒帯に達する事もあり、カツオクジラやライスクジラよりも北方への回遊が見られる場合もある。しかし、概して他の大多数のヒゲクジラ類と比較すると回遊の程度は限定的である。 カツオクジラやライスクジラと同様に、大規模な回遊を行わずに特定の沿岸域や大陸棚に定住している個体群も存在しており、ニュージーランド・オークランドの沿岸のハウラキ湾(英語版)やベイ・オブ・アイランズ(英語版)やベイ・オブ・プレンティ地方[12]、ブラジルのサンパウロ州やリオデジャネイロ州[13]、マデイラ諸島やカナリア諸島、南アフリカの沿岸等に分布する個体群がとくに知られている。 人間との関係本種が現在も直面する商業捕鯨以外の人間による脅威としては、混獲、船舶との衝突、ゴミの誤飲、環境汚染、「混獲」と称した意図的な捕獲、密猟などが存在し[14]、保護対象である南半球の個体群に該当する肉がシロナガスクジラなどの他の保護対象種と共に日本の市場から発見されたこともある[15]。 なお、日本列島でも鯨類と人間の関係には捕鯨だけでなく、クジラを神聖視して捕鯨を禁止する風潮も強かったとされている。 捕鯨日本国内では、本種はカツオクジラだけでなく他のナガスクジラ科との混同が著しかった可能性があり、さらに、捕鯨業者による不正捕獲が横行していた可能性が指摘されている[16]。 本種は「ボン条約」の保護対象種に指定されている[17]が、後述の通り、日本は2024年現在も捕獲対象としている。 2019年7月の日本の商業捕鯨再開に際し、本種は捕獲対象となり、水産庁は年間捕獲枠を187頭と設定している[18]。他にミンククジラ・イワシクジラも捕獲対象となっているが、頭数・鯨体の大きさ・得られる肉の量から、当面日本で流通する鯨肉はニタリクジラ肉が中心となる。 ホエールウォッチング→「カツオクジラ § ホエールウォッチング」も参照
脚注注釈出典
参考文献
外部リンク
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