チョンタル語 (チョンタルご、Chontal)は、メキシコ のタバスコ州 で話される言語で、マヤ語族 のチョル語群に属する。オアハカ州 に別のチョンタル語が存在しているため、区別のためにタバスコ・チョンタル語 、チョンタル・マヤ語 とも呼ぶ。自称によってヨコタン語 (Yokotʼan)とも呼ばれる。
UNESCO の危機に瀕する言語 の分類ではチョンタル語を「重大な危険」にある言語としている[ 1] 。
概要
「チョンタル」とはナワトル語 で「よそ者」を意味するchontalliに由来し[ 3] [ 4] 、特定の民族を指すものではなかったため、オアハカとタバスコの言語に同じ名前がついてしまっている。オアハカ州のチョンタルはテキストラテック語族 に属し、マヤ語族に属するタバスコ州のチョンタル語とは無関係である。
先コロンブス期 にチョンタル・マヤは、メキシコ湾 の航海者として知られていた(プトゥン人 を参照)。
今のチョンタル語話者は容姿や職業ではスペイン語 話者と区別がつかず、チョンタル語を話すことと伝統的な宗教行為によってのみ区別される。チョンタル語話者のほとんどはスペイン語との二言語話者 であり、自分の子供がチョンタル語を話すことを喜ばない傾向がある[ 5] 。
音声
子音には以下のものがある[ 5] [ 6] 。
スペイン語からの借用語にはほかにf g ñが現れる[ 7] 。bは音節末では無声の入破音 になる[ 8] 。
母音はa e i o uおよび中舌狭母音 のä [ɨ] の6母音で、長短の区別はない[ 9] 。
文法
チョンタル語はマヤ語族の他の言語と同様に能格言語 であり、人称接辞にA型(能格 )とB型(絶対格 )の区別がある。しかし自動詞は活動を表す(行為者的、agentive、「笑う」など)ものと状態を表す(非行為者的、non-agentive、「登る」のような位置の移動や状態の変化)ものに分かれる。状態を表す自動詞ではユカテコ語 などと同様に完全相でB型、不完全相でA型の接辞によって主語を標示する。すなわち相 を条件とする分裂能格性 を示す。しかし活動を表す自動詞は常に名詞化して軽い他動詞(英語のdo のような)の目的語とし、主語はその軽い他動詞に加えられたA型の人称接辞で表す。たとえばkä-che-n-∅ tsʼeʼn-e 「私は笑う」では、kä-がA型の一人称接辞、cheが「する」、-nが他動詞不完全相の接尾辞、-∅がB型の三人称接辞、tsʼeʼnが「笑う」、-eが名詞化接尾辞であり、文字通りには「私は笑うことをする」になる。同様の区別はモパン語 、チョル語 、ポコムチ語 に見られる[ 10] 。
基本的な語順はSVO型 である[ 11] 。
脚注
^ a b Chontal Tabasco , UNESCO Atlas of the World's Languages in Danger, http://www.unesco.org/culture/languages-atlas/en/atlasmap/language-id-1356.html
^ Hammarström, Harald; Forkel, Robert; Haspelmath, Martin et al., eds (2016). “Tabasco Chontal” . Glottolog 2.7 . Jena: Max Planck Institute for the Science of Human History. http://glottolog.org/resource/languoid/id/taba1266
^ Tabasco Chontal (Yocot'an) , Native Languages of the Americas, http://www.native-languages.org/tchontal.htm
^ “chontalli” , Nahuatl Dictionary , https://nahuatl.uoregon.edu/content/chontalli , "chontalli: a stranger"
^ a b Knowles-Berry (1987) p.332
^ Keller and Luciano G. (1997) p.419
^ Keller and Luciano G. (1997) p.420。v zも現れるとしているが、これは正書法の問題である。
^ Greenberg (1970) p.126
^ England and Baird (2017) p.180
^ Zavala Maldonado (2017) p.241,246-247
^ 八杉(1992) pp.120-122
参考文献
八杉佳穂 「マヤ語族」『言語学大辞典 』 4巻、三省堂 、1992年、120-129頁。ISBN 4385152128 。
England, Nora C.; Baird, Brandon O. (2017). “Phonology and Phonetics”. In Judith Aissen, Nora C. England, Roberto Zavala Maldonado. The Mayan Languages . Routledge. pp. 175-200. ISBN 9780415738026
Greenberg, Joseph H. (1970). “Some Generalizations concerning Glottalic Consonants, Especially Implosives”. International Journal of American Linguistics 36 (2): 123-145. JSTOR 1264671 .
Keller, Kathryn C.; Luciano G., Plácido (1997). Diccionario Chontal de Tabasco . SIL International. https://www.sil.org/resources/archives/10973
Knowles-Berry, Susan M. (1987). “Linguistic Decay in Chontal Mayan: The Speech of Semi-Speakers”. Anthropological Linguistics 29 (4): 332-341. JSTOR 30028108 .
Zavala Maldonado, Roberto (2017). “Alignment Patterns”. In Judith Aissen, Nora C. England, Roberto Zavala Maldonado. The Mayan Languages . Routledge. pp. 226-258. ISBN 9780415738026
関連文献