ダイハツ・CB型エンジン (ダイハツ・シービーがたエンジン)は、1977年 から1998年 までダイハツ工業 が生産していた小型車用エンジンの一つである。
本項目では993ccガソリンエンジン のCB型 と共にダイハツ・C系列エンジン を構成する、843ccのCD型 や926ccのCE型 、ディーゼルエンジン のCL型 についても包括して記述を行う。
概要
1970年 ごろより研究開発が開始され、1977年 にシャレード 用の前輪駆動 横置きエンジン として市場に投入された。基本仕様は水冷 4ストローク 直列3気筒 OHC 6バルブ、内径 76.0mm×行程 73.0mm、総排気量 993cc。鋳鉄 製シリンダーブロック 、アルミ合金 製シリンダーヘッド を採用し、バルブトレインはタイミングベルト 駆動である[ 1] 。
CB型を始めとするC系列エンジンは、ダイハツが初めて市場に投入した直列3気筒エンジンであり、自動車史上でも20世紀 初頭の小数生産の自動車を除いては、量産車両としては世界初の4ストローク直列3気筒エンジン [ 2] であった。それまで、スズキ・フロンテ のLC10型 や、DKW のen:DKW 3=6 、サーブ のサーブ・93 などの2ストローク機関 での直列3気筒は、燃焼行程の間隔が4ストロークの直列6気筒 に相当するもので、比較的ありふれたものであったが、4ストロークでは直列3気筒特有の偶力振動 が排気量の小さな2ストロークより大きく発生する問題により、CB型の登場まで久しく自動車史上からも忘れられた存在であった。ダイハツはCB型の開発にあたり、1本のバランスシャフト をクランクシャフト と平行に配置する事によりこの偶力振動を低減、他の気筒レイアウトに劣らない静粛性を実現し、量産販売に漕ぎ着けた[ 3] 。
シャレードの前身であるコンソルテ では、オート三輪 時代より製造実績のあったF系列エンジンの後裔である、OHV 直列4気筒 のFE型 が採用されていたが、1973年 より日本でも本格的に開始された自動車排ガス規制 の影響を受け、昭和51年排出ガス規制 に適合できなかった事により1976年12月に生産終了に追い込まれた[ 4] 。「1気筒辺り330ccの3気筒エンジンがコンパクトカー に最適である」というダイハツ独自の設計思想[ 2] の元に、F系列エンジンを捨てる形で新開発されたCB型は、FE型に引き続きトヨタ自動車 のトヨタトータルクリーンシステム (TTC)の技術供与を受け、希薄燃焼 方式(TTC-L)のTGP(乱流生成ポッド、Turbulence Generating Pot[ 5] [ 6] )を燃焼室 に採用、DECS-L の名称が用いられたこの技術の導入により、CB型は軽自動車 用エンジンのAB型 共々昭和53年排出ガス規制 に適合した。
1983年 にはCB型を元にディーゼルエンジンのCL型 を発表。自動車用では世界最小のディーゼルエンジン として注目を集めた。自然吸気 キャブレター が中心であったガソリンエンジンは、1982年 に843ccへのボアダウン を施したCD型 が登場、縦置きエンジン 仕様とされた993ccのCB40 型と共にハイゼット の輸出仕様にも搭載され、この頃よりCB型のイノチェンティ・ミニ へのOEM供給も始まった。1984年 には当時のモータースポーツ のレギュレーションに特化した926cc(過給係数1.4を掛けても1.3リッター以下クラスに入る)SOHCキャブターボ のCE型 を発表、1987年 にはDOHC EFI インタークーラー ターボのCB70 型も追加され、CB型エンジンとシャレードはモータースポーツの世界でも活躍した。しかし、CB型をふくむC系列エンジンの採用はシャレード以外の車種にあまり広まらず、シャレード自身においても1988年に追加された直列4気筒のHC型 に、1993年 のモデルチェンジで完全に取って代わられ、姿を消す事となった。輸出仕様のシャレードではHC型登場後もNA・EFI仕様のCB90 型が廉価版として暫く併売され、オーストラリア 仕様では1996年まで採用されていたが、世界的には1998年に7代目ハイゼットの輸出仕様1000cc車(S85型)の製造終了により、C系列エンジンはその使命を終えた。
CB型の生み出したコンセプトである1,000ccサイズの直列3気筒 自体は、その後1998年 にE系列エンジンのEJ型 により復活、2004年 のKR型 、そして2021年 の1,200cc級・直列3気筒エンジンのWA型 を経て現在まで受け継がれている。また4ストローク直列3気筒のレイアウトも、同社のEB型 を始め他社も含めた軽自動車やコンパクトカーの多くで採用される、日本では最もポピュラーな気筒レイアウトの一つとなり今日に至っている。
また、ハイゼット輸出仕様をルーツとする中国 の天津汽車 や柳州五菱汽車 の小型トラックでも、CB型を母体とするガソリンエンジンの採用が継続されている。
系譜
FE型(1965年 -1977年、ここまで水冷直列4気筒)→CB型 (1977年-1998年、これより水冷直列3気筒)→EJ型(1998年-2004年)→KR型(2004年-現在)→WA型 (2021年 -現在、1,196cc)
CD型 (1982年-1990年、850cc)→ED型 (1986年-現在、EB型ベース )
CB型 (993cc)
主要諸元
最大出力
最大トルク
工業規格
圧縮比
燃料供給装置
出力表記
搭載車種
備考
PS
kW
rpm
kgm
Nm
lbft
rpm
CB CB10[ 2]
6V SOHC
55
40
5,500
7.8
76
56
2,800
JIS
8.7
キャブ
グロス
シャレードXTE/XGE/XT/XG/XO(G10) ハイゼット S70/75/76(6代目輸出仕様 1981-1986) ハイゼット S85トラック(7代目輸出仕様 1986-1989)
CB(77.10-79.9) CB10(79.9-80.10) 輸出ハイゼットの縦置き仕様は45HP
CB20[ 7]
50
37
–
–
–
–
–
–
9.0
–
シャレード輸出仕様(G10)
77-93(有鉛 [ 8] ) 81以降は52PS
CB11
55
40
5,500
7.8
76
56
2,800
JIS
9.1
グロス
シャレードXGC/XGL/XGE/XG/XD(G10)
80.10-83.1(MT車 )
CB31
60
44
5,600
8.2
80
59
3,200
シャレードXTE/XTS/XT(G10)
79.9-80.10(MT車)
CB32
60
44
8.3
81
60
シャレード(G10)
80.10-83.1(AT全車 )
CB12
55
40
5,500
7.8
76
56
2,800
9.5
シャレード(G11)
83.1-87.1
CB22
60
44
5,600
8.3
81
60
3,200
シャレードバン(G11)
83.1-87.1
52
38
7.5
74
54
–
9.1
–
イノチェンティ・ミニ トレ・チリンドリ/ミニトレ/SE/SE スペチアーレ
1982-1986(5MT)
52
38
5,800
7.1
70
51
3,600
1986-1987(5MT)
52
38
5,600
7.1
70
51
3,200
イノチェンティ・ミニ ミニマティックSE
1984-1986(2AT)
CB33
60
44
8.3
81
60
JIS
9.5
グロス
シャレードTX/TS/TD/CS/ CD(G11、MT) CX(G11、AT)
83.1-87.1
CB34 CB35
55
40
5,500
7.8
76
56
2,800
電子制御式 キャブ
シャレードCX(G11、MT)
CB34(83.1-85.2) CB35(85.2-87.1)
CB23
50
37
–
–
–
–
–
–
9.5
キャブ
–
シャレード輸出仕様(G11/G100)[ 9]
83-87(G11、有鉛) 87-93(G100、有鉛)
52
38
5,600
7.8
76
56
3,200
イノチェンティ・ミニ 990 SE/SL(スモール) 990 SE/SL
1986–1988(5MT)
53
39
5,750
7.8
76
56
3,500
1988–1993(5MT)
50
37
5,900
7.4
73
54
3,300
EFI
イノチェンティ・ミニ スモール 990 SE
1988–1993(5MT、触媒付)
52
38
5,800
7.1
70
51
3,600
キャブ
イノチェンティ・ミニ 990 マティック
1986–1988(2AT)
53
39
5,750
7.8
76
56
3,500
1988–1990(2AT)
CB41
45
33
–
–
–
–
–
8.7/9.0[ 7]
ハイゼット輸出仕様(S86バンのみ) ハイゼット輸出仕様(S85)
86.01-88.12(S86) 93.08-97.06(S85) 縦置きエンジン
CB50
80
59
5,500
12
118
87
3,500
JIS
8.0
キャブ ターボ
グロス
シャレードターボ/デ・トマソ ・ターボ(G11)
83.9-87.1
CB-DT
72
53
6,200
9.5
93
69
4,400
–
9.1
–
イノチェンティ・ミニ ターボ・デ・トマソ
1983-1984 CB22のターボ版
CB60
68
50
–
–
–
–
–
8.0
シャレード輸出仕様(G11/G100)[ 10]
83-87(G11、無鉛) 87-93(G100、無鉛)
72
53
5,700
10.4
102
75
3,500
イノチェンティ・ミニ ターボ・デ・トマソ
1984–1988
68
50
5,500
10.6
104
77
3,200
1984–1987(触媒付き)
CB36
50
37
5,600
7.6
75
55
3,200
JIS
9.5
電子制御式 キャブ
ネット
シャレードCS(G100、5MT)
87.1-93.1
CB37
55
40
8.0
78
58
3,600
シャレードCD/TD/TX/CX/ TS/CS/WILL/POSE/ KISSA1.0(G100)
87.1-93.1
CB51
73
54
11
108
80
8.0
キャブ ターボ
シャレードTRターボ/ CXターボ(G100)
87.1-93.1
CB61
68
50
–
–
–
–
–
–
–
シャレード輸出仕様(G11/G100)
84-87(G11[ 11] ) 87-90(G100[ 7] )
72
53
5,800
10.8
106
78
3,400
イノチェンティ・ミニ ターボ・デ・トマソ
1988–1990
CB70
12V DOHC
105
77
–
–
–
–
–
–
EFI ICターボ
シャレード輸出仕様(G100)
1987-1993
CB71
105
77
6,500
13.3
130
96
3,500
JIS
7.8
ネット
シャレードGT-ti/GT-XX(G100)
87.1-93.1
CB80
105
77
–
–
–
–
–
–
–
–
シャレード輸出仕様(G100)
1987-1992[ 11]
CB90
6V SOHC
54
40
9.5
EFI
シャレード北米仕様(G100)
1989-1993
CB24
–
–
–
キャブ
シャレード豪州仕様(G202)
1993-1996 ヘッドと排ガス対策機器はCB23と共通
CB42
47
35
9.5
EFI
ハイゼット輸出仕様(S86)
1994-1998[ 12] 縦置きエンジン
CL型 (993ccディーゼル)
CL50型ディーゼルターボエンジン
CL型 は1983年にCB型をベースに開発されたディーゼルエンジンである。ディーゼルエンジンの小型化 は、気筒辺り容積が小さくなればなるほど燃焼室が冷えやすくなるために、熱効率 の高いエンジンを作りにくい技術的困難が存在したが、CB型の1気筒当たり330ccの余裕ある気筒容積が、当時の自動車用として世界最小の1,000cc級ディーゼルエンジンを実現したという[ 2] 。基本仕様はCB型に準じた物であるが、圧縮比は21.5、噴射ポンプ はボッシュ VE型、シリンダーヘッド 形状は渦流式燃焼室を採用、ガソリンエンジンに劣らない高速回転性能と、60km/h定地走行ではリッター35km以上の燃費 性能を獲得した。1984年 にはディーゼルターボ仕様も登場した。
CL型もCB型と同様にシャレードの他はイノチェンティ・ミニにしか採用は広まらず、1993年のG200系シャレードの登場と同時にCB型共々製造を終了した。その後現在に至るまでダイハツの小排気量ディーゼルの系譜は途絶えたままとなっている。
主要諸元
最大出力
最大トルク
工業規格
圧縮比
吸気
出力表記
搭載車種
備考
PS
kW
rpm
kgm
Nm
lbft
rpm
CL10
6V SOHC
38
28
4,800
6.3
62
46
3,500
JIS
21.5
自然吸気
グロス
シャレードTB/TA/TD/CD/TS/CS(G30)
83.1-87.1
37
27
4,600
6.0
59
43
3,450
–
–
イノチェンティ・ミニ ディーゼルSE
1984–1985
37
27
6.1
60
44
3,000
イノチェンティ・ミニ ディーゼルSE 990 ディーゼルSE/SL
1985–1987(ミニ) 1986–1988(990)
CL50
50
37
4,800
9.3
91
67
2,900
JIS
ターボ
グロス
シャレードディーゼルターボ(G30)
83.1-87.1
CL60 CL61[ 7]
37
27
–
–
–
–
–
–
–
シャレード輸出仕様(G30/G101)
1985-1987(G30) 1987-1993(G101)
CL30
38
28
5,000
6.2
61
45
3,200
JIS
自然吸気
ネット
シャレードTD/CD(G101)
87.1-93.1
CL51 CL71
50
37
9.2
90
67
ターボ
シャレードTX-TURBO/ CX-TURBO/CS-TURBO(G101)
87.1-93.1(CL51は AT、CL71はMT用)
CL11
37
27
4,800
6.0
59
43
–
–
自然吸気
–
イノチェンティ・ミニ 990 ディーゼルSE/SL
1988–1990
CD型 (843cc)
CD型 は、1982年にチリ を始めとするラテンアメリカ 諸国へと輸出されるシャレードやハイゼット向けに開発されたエンジンである。CB型をベースに内径を70.0mmにボアダウン している。最大出力は41 PS (30 kW)[ 13] 。キャブレター仕様のみが製造され、輸出仕様のG10型/G21型シャレードや、S70型ハイゼット(6代目S65型ベース、1983-1986年)[ 14] 、S84型ハイゼット(7代目S80型ベース、1986-1989年)[ 11] などに採用された。ハイゼット向けの縦置き仕様のCD型はCD20 型と呼ばれ、39 bhp (29 kW)を発揮した[ 15] 。
ダイハツ製車両では1990年 にG21型シャレードの輸出が終了した事で採用が終わったが、現在でも中国 メーカーの小型トラックではこの形式のエンジンの採用例が散見される。
CE型 (926cc)
CE型 は1984年11月にモータースポーツグループB 専用車両として200台限定で販売された、シャレード・926ターボ 専用のエンジンである。CB50型ターボエンジンをベースに、当時のFIA 及びJAF の排気量規定に則り、過給係数1.4を掛けられた際に1300cc以下クラスへ出場できるように、内径を73.4mmにボアダウン している。最大出力は76PS/5,500rpm[ 2] 。
1985年の第26回東京モーターショウ には、CE型をベースにDOHC12バルブ化し、シャレードの車体に横置き ミッドシップ 搭載したコンセプトカー のシャレード・デ・トマソ926R も発表された。926Rのエンジンは最高出力はグロス120PSとされ、C系列エンジン史上最も高出力なものとなったが、市販はされないまま終わった[ 16] 。
CE型もシャレードのごく一部での採用に終わったが、1,000cc以下クラスでのホットハッチ というコンセプト自体は、ストーリアX4 のJC-DET型 や、ブーンX4 のKJ-VET型 に受け継がれている。
関連項目
脚注
^ Technical Information - Daihatsu CB 993cc Inline3 SOHC 2v - Automotive Components Limited
^ a b c d e DAIHATSU Charade・Engines - シャレード・デトマソのページ
^ ダイハツシャレード- 日本の自動車技術240選
^ ただしタフト などの乗用車以外の車種に搭載されるFE型は1978年6月まで生産継続された。
^ Yamaguchi, Jack K. (1977), “The Year of the Third Power”, World Cars 1977 (Pelham, NY: The Automobile Club of Italy/Herald Books): 56–57, ISBN 0-910714-09-6
^ 12T(TGP)(希薄燃焼エンジン) - 日本の自動車技術240選
^ a b c d as_daihatsu_web.pdf - MS Motor Service International GmbH
^ Technical Information - Daihatsu CB20 993cc Inline3 SOHC 2v - Automotive Components Limited
^ Technical Information - Daihatsu CB23 993cc Inline3 SOHC 2v - Automotive Components Limited
^ Technical Information - Daihatsu CB60 993cc Inline3 SOHC 2v - Automotive Components Limited
^ a b c DAIHATSU CAR PARTS japarts.co.uk
^ Hijet Engine Types - Daihatsu Hijet Owners Site
^ Varela Romero, Wenceslao (1987) (Spanish), Manual de Automoviles: Daihatsu, Suzuki y Utilitarios [Car Manual: Daihatsu, Suzuki, and Minitrucks] , Santiago, Chile: Ediciones Mar del Plata, p. 14
^ Technical Information - Daihatsu Hi-Jet S70 CD 843cc Inline3 SOHC 2v - Automotive Components Limited
^ KATALOG_TUTELA_WEBER - easylogic.pl
^ デトマソ・ターボ Detomaso Turbo - シャレード・デトマソのページ
外部リンク