ダイコクコガネ
ダイコクコガネ(大黒黄金)Copris ochus は、コウチュウ目(鞘翅目)・コガネムシ科に分類される甲虫の一種。大型の糞虫で、オスの頭部に角がある。日本では北海道から口永良部島まで、日本以外では朝鮮半島と中国にも分布する。 形態成虫の体長は20mm-32mmで、糞虫では日本最大の種類である。成虫の体は体高が高くずんぐりとした紡錘形を示し、体色は黒色。背面は全体に鈍い光沢を有し、前翅表面は点刻が規則的につながって無数の列条を形成する。腹面には茶色の短い毛がある。頭部は半円形でシャベルのような形をしている。脚もがっしりしていて脛節に多くの棘があり、特に前脚の脛節は平たく幅広く発達している。この頭と脚の形状は地中や糞に潜りこむのに適応した構造といえる。 オス成虫の頭部には上向きに1本の角が生え、さらに前胸にも前向きの低い角が4つ並んでいる。このため大きさが判らないオスの写真や図はカブトムシ類にも見える。メスには角がなく、前胸の4本角も小さな「いぼ状突起」という程度である。 幼虫はいわゆるジムシ型である。 生態成虫は10月頃まで生存、活動しているが、春から初夏にかけて最もよく活動し、繁殖もこの時期におこなわれる。盛夏には専ら地中で幼虫の育児球の手入れや夏眠で過ごす。 天気の良い日にはブンブンとよく飛翔し、餌となる草食動物の排泄物に集まる。彼らは栄養分に乏しい食物を徹底的に消化吸収する必要があるため、ダイコクコガネの成虫の消化管の全長は体長の10.2倍、それに次ぐ近縁種ミヤマダイコクコガネの場合でも8.6倍に達する[1]。またその90%は中腸が占める。牛糞を食べている時の両種は、摂食と同時に数珠状につながった糞を肛門から延々と排泄し続ける姿がしばしば観察される。 牧場で人工飼育されているウシやウマといった草食家畜動物の糞を餌としている姿が一般に知られるが、そうした環境が無い純野生下では、タヌキ、ニホンザル、イノシシ、シカ、カモシカ等の糞にも集まり、腐肉等によるベイトトラップでも時折採集される。また、現状として日本でウシの放牧が行われている場は高原である場合が多く、それらで見られるのは多くの場合近縁種のミヤマダイコクコガネである。 ウシやウマの糞を餌としていて、それらの動物がいる牧場に多く生息する。ただし平野部の牧場には少なく、丘陵地や山地の牧場によく生息する。成虫は夏に発生し、糞に集まって深い竪穴を掘る他、夜には灯火に飛来する。 成虫はつがいで竪穴の中に糞の塊を運びこんでひとかたまりにしてしばらく寝かして発酵させた後、複数の育児球に加工してその先端部内に産卵し、その後もそばに留まって育児球を管理する。卵から孵化した幼虫は育児球の内部を食べて成長する。 保全状況評価絶滅危惧II類 (VU)(環境省レッドリスト) 日本ではウシやウマを一年中放牧している牧場が少なくなり、糞が安定供給されなくなったため、全国的に数を減らしている。2000年の環境省レッドリストにて本種は初めて記載され、その時のランクは「準絶滅危惧」であった。その後、2007年以降の環境省レッドリストでは「絶滅危惧II類」に指定されている[2]。 近縁種ダイコクコガネ属(Copris 属)はダイコクコガネの他にも多くの種類がある。日本にはダイコクコガネ以外に4種類が分布する。
ヨーロッパ産のスペインダイコクコガネ C. hispanus (Linnaeus, 1764) はスカラベと共にファーブルの「昆虫記」に登場する。 参考文献 |