数学の集合論 において、ソロヴェイモデル はロバート M. ソロヴェイ (1970 ) によって構成されたモデル でツェルメロ=フレンケル集合論 (ZF) の全ての公理が成り立ち、選択公理 を除去し、実数 の集合が全てルベーグ可測 であるようにしたものである。この構成は到達不能基数 の存在に依拠している。
これによってソロヴェイはルベーグ不可測集合 の存在をZFC (ZF+選択公理) から証明するには、少なくとも到達不能基数の存在がZFCと矛盾しない限り、選択公理が本質的に必要であることを示した。
ステートメント
DC は従属選択公理 の略記とする。
ソロヴェイの定理は次のことである。
到達不能基数の存在を仮定する。このとき、適切な強制拡大 V [G ] の ZF+DC の内部モデル であって、実数のいかなる集合も全て、ルベーグ可測であって perfect set property を満たしベールの性質 を満たすというモデルがある。
構成
ソロヴェイはそのモデルを二つのステップによって構成した。まず初めに、到達不能基数 κ を含む ZFC のモデル M から始める。
最初のステップでは M のレヴィ崩壊 M [G ] を取る。このレヴィ崩壊ではジェネリック集合 G が付加され、κ 未満の基数が全て ω に潰れる。このとき、M [G ] は ZFC のモデルであって、順序数の可算列で定義可能な実数集合が全て、ルベーグ可測であってベールの性質を持ち perfect set property を持つものになっている。
二つ目のステップではソロヴェイのモデル N として、M [G ] の中で順序数の可算列で遺伝的に定義可能な集合全てからなるクラスを考える。このモデル N は M [G ] の内部モデルであって ZF + DC を満たし、実数集合が全てルベーグ可測で perfect set property を持ち、ベールの性質を持つものになっている。この証明には、M [G ] の実数は全て順序数の可算列を用いて定義可能であり、N と M [G ] が同じ実数を持っていることを使う。
ソロヴェイのモデル N を用いる代わりに、さらに小さい内部モデル L (R ) (を M [G ] で考えたもの)を用いることもできる。これは実数からの相対的な構成可能性についての閉包で、前述のソロヴェイモデルに似た性質をもつ。
補足
ソロヴェイは自身の論文で、到達不能基数の使用は必要ないかもしれないと示唆した。何人かの研究者はソロヴェイの結果の弱いバージョンを到達不能基数の存在を仮定せずに証明した。特に、Krivine (1969) は順序数定義可能な実数集合は全てルベーグ可測である ZFC のモデルの存在を示したし、ソロヴェイは ZF + DC のモデルであって、ルベーグ測度の拡張で平行移動不変性を持ちつつ全ての集合に定義可能であるような測度が存在するモデルの存在を示したし、そして Shelah (1984) は実数集合が全てベールの性質を持つモデルの存在を示した (つまり、実はベールの性質には到達不能基数は不要であった).
perfect set property についてのバージョンは Specker (1957) によって解かれた。スペッカーは ZF の下で、実数集合が全て perfect set property をもち、最初の不可算基数 ℵ1 が正則ならその ℵ1 が構成可能宇宙 の中では到達不能基数になっていることを示した。ソロヴェイの結果と合わせると、"到達不能基数が存在する" と "実数集合が全て perfect set property を持つ" は ZF の下で無矛盾同値であることが分かる。
最終的に、Shelah (1984) では到達不能基数の無矛盾性が、実数集合が全てルベーグ可測であるモデルの構成に必要であることが示された。もっと正確には、彼は全ての Σ 1 3 な実数集合が可測であれば、最小の不可算基数 ℵ1 が構成可能宇宙で到達不能になっていることを示した。つまり、ソロヴェイの定理から、到達不能基数の条件は外すことはできない。また、シェラは到達不能基数を用いずに全ての Δ 1 3 実数集合が可測であるモデルを構成することで Σ 1 3 の条件が射影階層の比較において最良であることも示している。Raisonnier (1984) 、Stern (1985) 、Miller (1989) はそのシェラの結果を説明している。
Shelah & Woodin (1990) はもし超コンパクト基数 が存在するなら、L (R ) において実数の集合が全てルベーグ可測でベールの性質を持つことを示した。
参考文献
Krivine, Jean-Louis (1969), “Modèles de ZF + AC dans lesquels tout ensemble de réels définissable en termes d'ordinaux est mesurable-Lebesgue”, Comptes Rendus de l'Académie des Sciences, Série A et B 269 : A549–A552, ISSN 0151-0509 , MR 0253894
Krivine, Jean-Louis (1971), “Théorèmes de consistance en théorie de la mesure de R. Solovay” , Séminaire Bourbaki vol. 1968/69 Exposés 347-363 , Lecture Notes in Mathematics, 179 , pp. 187–197, doi :10.1007/BFb0058812 , ISBN 978-3-540-05356-9 , http://www.numdam.org/item/SB_1968-1969__11__187_0/
Miller, Arnold W. (1989), “Review of "Can You Take Solovay's Inaccessible Away? by Saharon Shelah"” , The Journal of Symbolic Logic (Association for Symbolic Logic) 54 (2): 633–635, doi :10.2307/2274892 , ISSN 0022-4812 , JSTOR 2274892 , https://jstor.org/stable/2274892
Raisonnier, Jean (1984), “A mathematical proof of S. Shelah's theorem on the measure problem and related results.”, Israel Journal of Mathematics 48 : 48–56, doi :10.1007/BF02760523 , MR 0768265
Shelah, Saharon (1984), “Can you take Solovay's inaccessible away?”, Israel Journal of Mathematics 48 (1): 1–47, doi :10.1007/BF02760522 , ISSN 0021-2172 , MR 768264
Shelah, Saharon ; Woodin, Hugh (1990), “Large cardinals imply that every reasonably definable set of reals is Lebesgue measurable”, Israel Journal of Mathematics 70 (3): 381–394, doi :10.1007/BF02801471 , ISSN 0021-2172 , MR 1074499
Solovay, Robert M. (1970), “A model of set-theory in which every set of reals is Lebesgue measurable” , Annals of Mathematics , Second Series 92 (1): 1–56, doi :10.2307/1970696 , ISSN 0003-486X , JSTOR 1970696 , MR 0265151 , https://jstor.org/stable/1970696
Specker, Ernst (1957), “Zur Axiomatik der Mengenlehre (Fundierungs- und Auswahlaxiom)”, Zeitschrift für Mathematische Logik und Grundlagen der Mathematik 3 (13–20): 173–210, doi :10.1002/malq.19570031302 , ISSN 0044-3050 , MR 0099297
Stern, Jacques (1985), “Le problème de la mesure”, Astérisque (121): 325–346, ISSN 0303-1179 , MR 768968