センリョウ
センリョウ(千両[7]・仙蓼、学名: Sarcandra glabra)は、センリョウ科センリョウ属に属する常緑小低木の1種である。葉は対生し、葉縁には鋭い鋸歯がある(図1)。花は極めて単純であり、1個の雌しべと1個の雄しべだけからなる。冬に赤く美しい果実をつけるため(図1)栽培され、また正月の飾りに使われる。名前や形が似ていて、同じく冬に赤い果実をつけるマンリョウ(万両; サクラソウ科)と対比されるが、両者は遠縁である[7]。赤い果実をサンゴに見立てて、クササンゴ(草珊瑚)とよばれることもある。果実が黄色い品種もあり、キミノセンリョウと呼ばれている。日本を含む東アジアから東南アジア、南アジアに分布する。 名称江戸時代に書かれた生け花の伝書『立花大全』(1683年)や、草木の種類や栽培法を記した『花壇地錦抄』(1695年)では、「 同様に赤い実をつける植物の中には、「百両」(カラタチバナ; サクラソウ科)、「十両」(ヤブコウジ; サクラソウ科)、「一両」(アリドオシ; アカネ科)の名でよばれるものもいる[6]。また、紛らわしいことにセンリョウの別名に「マンリョウ」があり、マンリョウの別名に「センリョウ」がある上、サクラソウ科にはイズセンリョウ属が含まれていて、少し形が似ている[7]。 分布と生育環境日本、韓国(済州島)、台湾、中国南部、南アジア(インド)、東南アジア、ニューギニアに分布する[1][9][8]。日本では本州(関東西南部、東海、紀伊半島)、四国、九州、南西諸島に生育するが、広く植栽されているため、自然分布域以北で見られることもある[9][2]。常緑広葉樹林の林床に群生している[9][10][11]。暖地の半日陰に生えている[12]。 特徴常緑広葉樹の小低木であり、茎は直立してまばらに分枝し、高さは 50 - 150センチメートル (cm) 、直径は 1.5 cm、樹皮は平滑で緑色である[9][2][10]。 センリョウは被子植物でありながら維管束に道管を欠くとされ、被子植物の進化を考える上で注目される存在であるが[4][9]、後生木部や初期の二次木部からは道管(穿孔をもつ)が報告されている[13]。またセンリョウ科の他の種は、道管をもつ[13]。節はやや膨らんでいる[9](下図2a)。 葉は対生し、革質で光沢があり、葉身は長楕円形から卵状楕円形、2 - 20 × 1 - 8 cm、表裏とも無毛、先端は鋭く尖り、基部はくさび形、葉縁には先が細く尖る鋸歯がある[9][2][10][11](下図2a, c, 32a)。葉脈は羽状、側脈は5 - 10対[10]。葉柄は長さ 0.5 - 2 cm[9]。葉柄の基部は広がってく茎を包み、葉鞘となる[9](下図2b)。托葉は小さく、線形から短剣形、長さ 1.5ミリメートル (mm) ほどある[10]。
日本での花期は6 - 7月、枝先に2 - 3回分枝する長さ 2 - 5 cm のまばらに花がついた穂状花序をつける[9][10](上図2c, 下図3a)。花は両性花、花被(花弁と萼片)がなく、楕円形から先が尖った三角形で長さ約 1ミリメートル (mm) の苞(小苞)の腋につく[9][10](下図3a)。雄しべは1個、1.3 - 2 x 1 - 1.3 mm、黄白色、葯は雄しべの半分長以上、黄色で2個[9][10]。雌しべは球形、緑色、長さ 1 - 1.5 mm、その側面(背軸側)に雄しべが直接ついて横に張り出している[9][2](下図3a)。 果期は晩秋から冬(11 - 1月)[4]。果実は核果、球形、直径 5 - 7 mm、冬(12 - 1月)に熟して赤くなる[9][2](下図3b)。果実表面に黒い点が2つあるが、これは雌しべの柱頭と雄しべがついていた痕である[4]。果実が黄色いものもおり、キミノセンリョウ[注 1]とよばれる[12][3](下図3c)。果実の核は直径 3 - 4 mm[2]。
分類日本などの個体 (Sarcandra glabra subsp. glabra) では葯の長さが雄しべ全長より明らかに短いが、東南アジア産のものは葯の長さが雄しべ全長とほぼ同長であり、亜種 Sarcandra glabra subsp. brachystachys (Blume) Verdc. (1985) に分類される[10]。中国南部からインド北西部には両亜種の中間型があるとされる[10]。さらにこの中で果実が黒いものは Sarcandra glabra var. melanocarpa (Ridl.) Verdc. (1985) とされる[10]。 人間との関わり景気のいい名前で知られ、花の少ない冬に美しい果実をつけるため、正月の縁起物として切枝(果実をつけた枝)が流通している[7][16]。正月用の飾りに使われる切枝には、サクラソウ科のマンリョウもあるが、正月用切枝としてはセンリョウのほうが人気で、生花市場ではセンリョウ市が開かれ膨大な量が扱われる[4]。マンリョウはセンリョウとよく対比されるが、マンリョウのほうが葉幅がやや狭く、赤色の果実はくすんだ色をしている[4]。2021年の東京都中央卸売市場におけるセンリョウの取引金額は3億6948万円(約200万束、ほとんどが12月)、そのうち56%は茨城県産、31%は千葉県産であった[17][18]。 センリョウは、庭植え(関東地方以西)や鉢植えでの観賞用としても広く栽培されている[19]。果実が黄色いキミノセンリョウ(上図3c)や、斑入りの園芸品種も流通している[19]。センリョウは少なくとも江戸時代初期から栽培され、生け花などに用いられていた[3]。庭園の庭植えとしては、いわゆる下木、根締めに用いられる[20]。 花言葉は「利益」[16]、「祝福」[16]、「富」[16][4]、「財産」[16]、「裕福」[4]。 夏に採取し乾燥した若い枝葉や、それを酒で煮出したものを生薬とすることがある[6][16]。中国では腫節風 (Zhong Jie Feng) や草珊瑚 (Cao Shan Hu)、九節茶などとよばれ、抗菌、消炎、去風除湿、活血、止痛の効能があるとされる[16][21]。センリョウからはセスキテルペン、フラボノイド、フェノール酸、クマリンなど200種以上の物質が単離同定されており、その中には抗菌、抗ウイルス、抗炎症、抗腫瘍、および抗血小板減少症が確認されたものもある[21]。また、センリョウをお茶として利用する地域もある[21] ギャラリー
脚注注釈出典
参考文献
関連項目外部リンク
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