センス・オブ・ワンダー

センス・オブ・ワンダー英語: sense of wonder)には、2つの意味があり、ひとつは自然など、自分が目にしたものや触れたものに神秘さや不思議さを感じ、驚いたり感動したりする感性のことである[1][2]。もうひとつは、SF作品を読んだ後に生じる不思議な感覚のことである。

概説

レイチェル・カーソンの著作『センス・オブ・ワンダー(The Sense of Wonder)』に由来する用法とSF用語としての用法があるが、初出としてはSF用語のほうが先行したらしい。

SF作家の森下一仁によると、SF用語としてのセンス・オブ・ワンダーという言葉は、「アメリカでは1940年代から使われていたらしい。」[3]

一方、アメリカの海洋生物学者レイチェル・カーソンの著作『センス・オブ・ワンダー』は1965年に出版されたものだが、書物の題名として堂々と掲げ、センス・オブ・ワンダーがメインテーマとして扱われており、その影響力は大きい。そして現在ではこちらのセンス・オブ・ワンダーは、教育現場で《科学する心》を育む上で重視されるようになっている[4]。現在では、一般的なリファレンス類では、通常はまずこちらの用例を挙げる。

SF作品を読んだ後の感覚

こちらの意味のセンス・オブ・ワンダーは、SF小説を鑑賞した際に生じる、ある種の不思議な感覚のことである。

イギリスのSF作家ブライアン・オールディスは自著の中で、この"センス・オブ・ワンダー"が1930 - 40年代におけるSFの特徴であると述べ、1970年代の初期と中期においてアメリカのSF小説は、抑制と小説技法を重視する新しい感性のもと、これを取り戻そうとしたと論じた。[5]

これがどのような仕組みで生じるかについては、SF評論家の大野万紀の執筆した『帝都物語』書評の、次の一節も参考になる。

現在実際に存在している都市というものが(中略)、ほんのわずか時間や視点を変えるだけで、どれほど異様な未知の様相を呈するか、本書ではそういった異化作用が積極的になされ、読者のセンス・オブ・ワンダーを誘っている。[6]

これが全てではないにしろ、SF作品では人々が日常感じているのとは異なる《時間》や《視点》でものごとがとらえらることで《異化作用》起きて、その結果、読者の心にセンス・オブ・ワンダーが生じることがある、ということを示唆している。

不思議さを感じ取る感性

自分が目にしたものや触れたものに神秘さや不思議さを感じ、驚いたり感動したりする感性のことである[1]

たとえば次のような感性である。

  • 夏の夜にカブトムシが、暗くて見えないはずなのになぜか、木のを見つけて集まってくる不思議に感動する感性[1]。この私にはできないのに、カブトムシはいったいどうやって明かりも無い暗闇で蜜を見つけているんだろう? と感じること
  • フンコロガシがフンをころがしているのを見てその奇妙さに驚き[注釈 1]、一体何のためにこんな変なことをしているのだろう?と感じること。
  • 花畑の美しさに引き寄せられて、近づいてのひとつひとつをじっと見つめ、さらに花びらの中を覗きこんでみたら、棒状のものや粉状のもの(おしべめしべ)があることに気づき、変なものがあるなぁ、花には何でこんなものがあるの?不思議だなぁと感じる感性。
  • 飽きずに花畑で花を観察していたら、テントウムシや蜂やコガネムシが飛んできて花の棒状や粉状のところに頭をつっこんでモゾモゾと動き回っているのに気づき、不思議だなぁ、いったい何をしているんだろう?と感じる感性。花と虫はどんな関係なんだろう? 特別な仲良しなのかなぁ? そうでもないのかなぁ? と感じる感性。
  • を眺めていたらそれが刻々と大きく成長すること(積乱雲)に気づき感動し、どうして大きくなるんだろう? いったいどれだけの高さまで大きくなるんだろう?富士山より高くなるのかなぁ? などと感じる感性。そもそも雲って何なんだろう? 雲はなんだかに似てる気がするけれど、煙は火のあるところで生まれるのに、雲のほうは空で、火が無いところで生まれるから、似ているけれど違うところもあるなぁ。雲って何? 煙って何?と感じる感性。
  • ひきつづき夏雲を眺めていたらが発生してその音と光に驚いたり、どうして雲から雷が生まれるんだろう?と不思議を感じたり、そもそも雷も不思議だ、雷っていったい何? どうやってあんな大音響とギザギザした光の筋が生まれるんだろう?と感じる感性。
  • 冬空から降ってくる虫眼鏡で見たら美しい形をしていること(結晶)に気付いて感動すること。そしていったい空のどの場所で、どんな風に、どんな時に、こんな結晶が生じるのだろう? と感じたり、さらにいくつも観察しつづけたら形が異なるものがあることに気付きそれにも驚いて、雪の結晶にはどんな形のものがあって、何種類あるんだろう?と思ったりすること。
  • を見ていたら、表面に白っぽいところと黒っぽいところがあり、複雑な模様のようになっていることに気づき、不思議だなぁ、あれは何なんだろう?と感じる感性。何日か前はまんまるだったはずなのに、少しづつ削れていって、今日は半分の丸の形になっていて、不思議だなぁ、なんでこんなことが起きるんだろう? 月が細くなったり太くなったりするのはなぜ?と感じる感性。普段は丸くて平らな板のように感じていたのに、家族と旅行で空気が澄んでいる場所に来て、月をなにげに眺めていたら大きな球に見えて感動し、と同時に、自分がボールを空に向かって投げてもすぐに落ちてくるのに、どうして月という大きな球はこちらに落ちてこず、いつまでも浮かんでいられるのだろう?とか、そもそも月っていつから空に浮かんでいるの? 何百年?何万年?何億年? 不思議だなぁ、いったい何が起きて、私たちの空に浮かぶようになったの? と感じる感性。

アイザック・ニュートンも、この世界の中に不思議さを感じるセンス・オブ・ワンダーの感度が高かった[7]。ニュートンは次のように感じる感性を持っていた。

宇宙はほとんど空っぽだというのに、太陽と惑星は、間に物質が無いというのに、どうやって互いに引っぱり合っているんだろう? [7] 「自然がすることには全く無駄が無い」と言われているが、この世界の秩序や美しさは、どんな風に生じているんだろう?[7] 惑星はおだやかな軌道を周り続けるのに対し、彗星のほうは奇抜な軌道を回るけれどこれはどうしてなんだろう?[7] どうして恒星と恒星は互いに引張り合って互いの上に落ちてゆかないのだろう?[7]  動物の体も不思議だ。動物の体の各部位はどんな目的であるんだろう? 光学の知識も無いのに、どうして動物のはまともに見える状態になっているのだろう? というものが何なのかに関する知識は無いはずなのに、どうして聞こえるを持っていられるのだろう?[7] どのようにして、意思に応じて身体の動作が生じるのだろう? 同様に、どのようにして動物の本能に応じて行動が生じるのだろう?

センス・オブ・ワンダーは《科学するこころ》の源泉と指摘されている。教育現場では重視されるようになっている。

脚注

注釈
  1. ^ アンリ・ファーブルの観察の動機になった。
出典
  1. ^ a b c 生まれながらに持ち、一生を支えていく。秘められた感性「Sense of Wonder」”. ヤドカリ. 2024年12月27日閲覧。
  2. ^ sense of wonder”. 英辞郎. 2024年12月27日閲覧。
  3. ^ 森下一仁 「思考する物語(1) センス・オブ・ワンダーについて(その1)」『SFマガジン』1995年5月号、早川書房
  4. ^ “センス・オブ・ワンダー”を幼児期に育むことの大切さ”. ベネッセ教育総合研究所. 2024年12月27日閲覧。
  5. ^ 『一兆年の宴』ブライアン・W・オールディス&デイヴィッド・ウィングローヴ(浅倉久志訳)、1992年・東京創元社
  6. ^ 書評SFアドベンチャー』1986年7月号、徳間書店
  7. ^ a b c d e f Newton and sense of wonder”. 2024年12月27日閲覧。

関連項目